受付嬢ミュルトの一日
エリラを奴隷にして少し経った頃のお話です。
冒険者ギルドエルシオン支部に属するミュルトさんの一日は早い。朝の5時に起きると、そこから身支度、朝食を早々に済ませ6時ごろには家を出る。
ミュルトさんの自宅はエルシオンの北側に存在しており、そこから南に十数分ほど歩いたところに勤務場所の冒険者ギルドは存在した。
ギルドには毎朝一番に到着すると、まずはギルド内の清掃から始まる。冒険者やその他一般市民が利用する場所の殆どはミュルトさんが掃除をしているとのこと。冒険者が昨日出したごみを片付けて床を掃除していると、続々と他のギルド員たちも出勤をしてくる。ミュルトさんも本当は皆と同じ時間で良いのだが、この掃除をするために毎朝早く来るとのこと。
掃除を終えると次は受付の準備を開始する。現在提示されているクエストの再確認と、クエストの受注状況。それからクエストクリア時に換金されるであろう素材のおおよその値段も確認をするという。一見すればクエストは失敗する可能性もあるし、素材も換金されない場合もあるので、何も今行わなくても……と思うかもしれないが、いざ受付に立った時に少しでも時間を短縮するためには必要な事らしい。こうして、準備や確認を行っていると直ぐにギルドの営業開始時間となり、冒険者を始めとした人々でギルドの中は賑やかになり、ミュルトさんは笑顔で彼らを出迎えるのである。
◆
「ミュルトさん」
私に声をかける小さい少年がいます。年齢はまだ5歳とのことですが、私にはそうは思えません。何故なら私よりもずっと小さいこの少年は冒険者であり、既にランクはCだったからです。
「あら、クロウさん今日はどうされましたか?」
「これを受けたいのですけど」
そういうと、彼はクエスト内容が書かれた紙を差し出した。そこに書かれていたのはC級
モンスター『ブラックホース』5体の討伐について書かれていました。
――――――――――
依頼:ブラックホースの討伐
クリア条件:ブラックホース5体の討伐
報酬:三十万S
――――――――――
「ブラックホースですか……」
ブラックホースというのは言葉の通りに黒い馬の魔物のことです。単体の強さはDなのですが常に複数で移動をしていう上に知能が高く強さはCクラスとなっています。当然、5歳の子供が受けるようなクエストではないのですが、既にクロウさんはC級クエストをいくつも受けてはクリアしており実力は申し分なく私は手早く受注処理を済ませてクロウさんへと依頼書を返しました。
「ブラックホースは近隣の森で目撃されているようです。その辺りを重点的に探してはどうでしょうか?」
私は今朝確認した情報をクロウさんへと伝えました。
「そうなのですか? 分かりましたありがとうございます」
彼は一礼すると早速出かけるのかギルドを後にしました。
◆
「ミュルトさん戻ってきましたよ」
彼は直ぐに戻ってきました。いや、ちょっと待って下さい。まだここを出て3時間程度しか経っていませんよね?
「はい、これが討伐品です」
そういうと彼はブラックホースの角を20本ほど机の上に出しました。……あれ? ブラックホースの角って一体につき一本でしたよね? ブラックホースと言えばその集団行動と知能の高さから一体討伐するのにも丸一日費やすこともあるレベルの強さですよ? それを僅か3時間で二十本以上? 前々から準備していたとかじゃないですよね? 色々な意味で倒れてしまいそうになりますが、私はなんとか理性を保つとブラックホースの角の検査を行う。
勿論すべて本物でした。20本なのでクエスト4回分の討伐となり、クエスト報酬だけで百二十万Sの金額となります。
「えーと、ブラックホースの角はどうされますか?」
「そうですね。半分は換金でお願いできますか?」
「了解しました」
ブラックホースの角は一本四万Sで換金できるので、四万×十本で四十万Sと言う事になります。私の一か月分の給料に匹敵するのですが。
「はい、これがクエスト報酬とブラックホースの角の換金になります」
私はそういうと百六十万Sを彼に手渡しました。
「ありがとうございます」
「全く……あなたはいったい何者ですか?」
「人間ですけど?」
いや、そういう意味じゃないのですよ!
「毎回それではぐらかしますね」
もはやこのやり取りは毎度のことなので、私も慣れました。それにしても本当に彼は何者なのでしょうか……?
そんなこともありましたがそれ以降は別段問題は無く、無事営業終了時間になりました。
ギルドの掃除を簡単に済ませ、自宅に帰る支度をしてギルドを後にします。時刻は夕方の六時酒場の明かりが照らされ始める時間帯です。どこかで買い物して帰っても良いかもしれませんね。最近クロウさんのお蔭でギルドへの収入が増えて私の給料も増えたので、色々買って帰れそうです。
こうして、今日も私の一日は無事終わる事が出来たのでした。