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アレスが屈してから、同盟軍の敗北は早かった。
指揮官が指揮を放棄してもその後、何人かが代わる代わる先導し、戦う意思のある者を率いて魔王討伐の為、攻撃を仕掛けたがみるみるうちにその数を減らし、そして…
「ふむ…もう終わりか?もう立ち上がる者はおらぬか?」
荒野にただ一人立っていた者は何度も見た光景。魔王ただ一人であった。それでも魔王の表情はいつもと少し違うものだった。
「そうか。しかし…これほど戦えたのはいつぶりであろうか。満足とは言えぬが久しぶりに楽しませてもらったぞ。人間よ。いや…同盟軍よ。」
最後のひと言にマルスをはじめ、同盟軍が一人また一人と顔を上げる。
「どうした?まだ立ち上がる気概があるというのか?」
魔王は余裕を崩さないまま。戦闘態勢を取ろうとしたが、彼らにはもう戦闘の意思が無いということを察し、腰に手を当てる。
「魔王よ。一つ聞かせてくれないか…?」
マルスがなんとか言葉を発し、魔王はそれに応えるようにゆっくりと近づく。
「一つと言わず、いくつでも構わぬ。我を楽しませた褒美だ。」
マルスはゆっくりと立ち上がる。身長差自体は大きくないが、その存在感にマルスは一瞬たじろいだが、なんとか魔王に質問をぶつけた。
「なぜ、こんなことをした?俺達を嘲笑うためか?」
魔王はその問いの答えに困る。なにせザルディンの願いで戦ってほしいと言われただけなのだからその意図について魔王は知る由もなかった。
「そうだな。うむ。…ああ、そうだ。お前達には我の家臣の護衛を頼みたくてな。」
「家臣…?護衛?一体どいうことなんだ。」
二人の会話が噛み合わない中、この戦いを仕組んだ当の本人が現れる。
「魔王様。お疲れ様でございました。マルス殿もよく魔王様相手に戦われましたな。」
ザルディンが髭を撫でながらオルの魔法によって二人の近くに降り立った。
「お前は先ほどの…。どういうことか説明してもらえるか?」
「では…。何からお話しすれば良いか。」
ザルディンはマルスに本の存在と今回の侵攻が魔王と戦えるだけの勇者を育成させるためだったこと。そして魔道具の製作のためエルフ達に協力を得なければならないことを説明した。
「なるほど。…と言いたいが…なんと、正直そんなことで世界を作り変えるとは…いや、魔王の考えることを俺達の常識で考えても無駄か…。」
「無理もあせませぬな。しかし魔王様は本気で勇者をこの世界に誕生させるつもりなのですじゃ。協力してもらえぬか?」
マルスは急な要請にしばらく考え込む。ザルディンという老人の言葉に嘘はないように思う。というよりそれを信じたほうが魔王軍の動きに納得できたからであった。
「今の俺たちでは魔王は倒せない。それは今戦った俺達が一番理解している。…妙な話だな。魔王を倒すために魔王に協力するとは。分かった。その依頼、承ろう。」
その意思決定に反対する同盟軍は誰一人としていなかった。




