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異世界における武力衝突  作者: キロール
第三章、大戦前夜
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第18話「異変」

 その噂を征四郎が聞いたのは、既に夏が終わり秋が始まろうと言う季節だった。

 元シャーラン王国が治めていた一帯の都市部より離れた農村からの便りが途絶えたと言うのである。

 これが冬であれば、通信網がそれほど発達していないバルアド大陸であれば然程騒ぎにはならなかっただろう。

 問題は、収穫期を迎えた農村から一切の便りが途絶えた事にある。

 農村で作られた穀物類は、都市部で売りさばかねば金にならない。

 例年、農村部だけで消費するには、あまりに多すぎる量が収穫されているのだ。

 で、あるにも拘らず、何ら音沙汰が無いのはおかしい、と言う訳である。

 勿論、穀物が流れてこねば都市部の人間が飢えると言う切実な理由もあるのだが。

 


 その噂を聞いた時に、征四郎は新たに王城と定められたルーグ城塞に居た。

 いつも通り、妻であるロズの手編みの祖国の軍服を纏い、軍帽をかぶった妖術師の存在は、一際異彩を放っている。

 周囲から明らかに浮いて居ながらも、征四郎は王城で確固たる立場を確立している。

 形式上、上官となったアルマやアルデアやラルスと言った自動人形《オートマータ》を従えて通路を歩いている姿を見れば、それも頷けるだろう。

 指揮系統に口は出す事は無いし、その立場を用いて私的な利益を享受する事も無い。

 では、彼らは何故征四郎について歩いているかと言えば、軍事的な知識の習得に関係がある。

 神土 征四郎は妻の一人である死霊術師のロズワグンと共に、死者から軍事知識の多くを引き出している。

 死者からの知識は不明瞭な部分も多い言わば虫食いだらけの知識、それを彼自身の経験とバルアド大陸で繰り広げられた、今となっては内戦とでも呼ぶべき経験と照らし合わせ、現状に即した形で応用可能か否かを彼らは討議しているのだ。


「電撃戦なる思想は、どうしても補給の軽視に繋がりかねないと思うのです。それに、如何も人馬で行うような類の話では無いような……。」


「そうだろうとは私も思う。現状では騎兵の突撃とそう意味は変わらないか。」


「しかし、騎兵の突撃に合わせて空中より支援攻撃を行えば、より突撃に意味が出るんじゃないかしら?」


 等と軍事上の知識の穴埋めを行っている所に、何やら急いでいる様子のミールウスと出くわした。

 その様子に気付いて、アルマが声を掛けるとミールウスは立ち止まり、先ほどの報を簡潔に彼らに伝えたのである。


 そのすぐ後に、王となったクレヴィにも報告が齎された。

 そういう状況であれば、兵の一団でも遣わしてみようかと言う話になった。

 そして、元シャーラン王国軍が多く編成されている第2軍団の一部隊が農村部へと向かったのである。

 この時はまだ、自然災害か何かであると思われていた。

 直にその考えが間違えであったことを思い知らされるのである。


 

 農村部に派遣された部隊からの連絡が途絶えたのは、それから2週間後の事だった。

 如何に都市部から離れたとは言え、農村までは1週間と掛からない。

 無論、ルーグ城塞から出立したとなれば話は別だが、彼らは農村から5日ほどの都市部に滞在していた部隊である。

 如何にも嫌な予感がすると、第2軍団を率いているザカライアは考えた。

 兵力の逐次投入は避けるべきだろうが、第2軍団をいきなり動かせる筈もない。

 そうなると少数でも高い生存能力を誇る部隊に威力偵察を行って貰うより他はない。

 そして、それに適任なのは第4軍団に所属するB・B(ブラック・ブラッド)部隊しかないのである。

 その様な訳で征四郎等が、農村部の調査にあたる事になった。


 さて、B・B(ブラック・ブラッド)部隊が向かうのは良いが、人員の選定は大事になってくる。

 流石に全部隊員を導入する訳にもいかないが、幹部連中だけ連れて行けばよいと言う物でもない。

 夜、与えられた宿舎に戻り、さて、如何したものかなと指揮官である征四郎が思案していると妻の一人であるリマジルクが声を掛けてきた。


「おや、お前さん、うんうん唸って如何したのさ?」


「リマか。シャーラン王国の……今は元と言うべきか。まあ、良いさ。そのシャーランの辺境部で何かが起きている様でな。そこに向かう人員の選定に頭を悩ませている。」


「……部隊員は必要最低限にして、アタシと姉妹ロズを連れていきなよ。後、バルトロメも。」


 征四郎は突然そんな事を言い出したリマジルクをまじまじと見つめる。

 物言いが以前と違う事は当初は驚いたが、此方が素であると聞けば寧ろ安堵したことを覚えている。

 だが、問題はそこにはない。

 リマはあまり仕事に関して口出しする事は無かった。

 それが、今回に限り無茶ともいえる要求を突き付けてきたのである。


「何故、と問うても?」


「夫が留守がちだと、浮気されちまうよ?」


「多少、ガス抜きをしてもらった方が、我が身は助かるのだが。」


 浮気を咎めるつもりは征四郎にはさらさらない。

 自身はする気はないが、妻二人は人外であり姉妹である。

 人と同じ価値観、倫理観を押し付ける気も無い。

 それに……流石に体力面で心配になる事もあるのだ。

 夜が激しすぎる妻たちの相手をするのは。


「なんだい、そりゃ? 何処の世界に浮気を奨励する夫が居るのさ! ……何て言うかね、良くない臭いがするのさ。これは、あまり真っ当な連中を巻き込むべき事じゃない、って臭いがね。」


「……何か経験が?」


「伊達に、腐敗と再生の上皇の下で聖女様をやってた訳じゃないんだよ?」


 その言葉を聞き、征四郎は考え込む。

 まともじゃないと言うのが、どの程度の物かは定かではないが……リマの言葉は信用できる。

 自身よりも長く生き、経験豊富な妻の言葉に征四郎は頷きを返した。


「分かった。その様に王に願い出てみるとしよう。」


「それじゃあ、準備しなくっちゃね。ほら、新婚旅行代わりになるし。」


 小柄なリマはケラケラと大きく笑いながら征四郎より離れ、己の姉妹であるロズの名を呼ばわりながら去っていく。

 まさか、そちらが主目的ではあるまいなと一瞬疑うも、征四郎は軽く頭を振りその考えを追い出した。


 結局、リマジルクの言は採用されて、B・B(ブラック・ブラッド)部隊からはテクラとシーグリッド、それにエルドレッドのデーサイル組の3名とクラーラとサンスを加えた5名が選ばれた。

 最初の十人と呼ばれる幹部連中やデーサイルの指揮官アレクサンドラは、各班を指揮する身であればおいそれと連れて行く訳には行かない。

 そこで、能力と妻たちとの相性を考慮して彼らが選ばれたのだ。

 彼ら五名に、指揮官の征四郎、それに妻二人と、征四郎に個人的に使えているサンスの師匠筋にあたるバルトロメの計8人の旅路はこのような理由で始まったのだ。

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