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異世界における武力衝突  作者: キロール
第三章、大戦前夜
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第11話「足掻き」

 バテス入りを果たした征四郎は、現状を反乱軍側から伝え聞く。

 状況は反乱軍に優位に動いている。

 いや、趨勢は決していると言うべきかも知れない。

 本来ならば、征四郎が口も手も出す必要ないほどに、反乱軍は優位にあった。

 だが、これは内戦だ。

 片方が優位であろうとも、容易く攻撃を行えば後に禍根を残す。

 王家への忠節のみで戦う者達の戦意を挫き、その血を流させずに勝利する方を反乱軍は考えねばならなかった。


 反乱軍の主要メンバーと挨拶を交わして、方針を軽く話し合った征四郎は、この場での自身の役目は殆ど無いようだと正直に告げた。

 自身に出来る事は殆どが、老魔術師のザカライアが既にアレクサンドラらを通じて行っていたからだ。

 民衆の慰撫、補給線の寸断、敵兵に向け、降伏者には、その身柄の保護すると言う流言飛語。

 それらに手を加える事は殆ど無い。

 降伏者について明確な文章として、ばら撒くくらいしか提案できることもなかった。


「これならば、ギルギ帝国の騒動が終わるまであちらに居てもよかったかな。」


 一人呟く征四郎に、護衛としてくっついている酷く大柄なオーガのバルダーが笑う。


「敵がこちらを利する行いばかりでは、こちらが普通に動くだけで民が支持してくれる。楽な作戦ではないですかな。」


 オークよりも尚筋肉質で、その肌の色は赤土の……己の瞳の色のような大柄の戦士に征四郎も口元をゆがめて答える。


「楽は結構だが、それだけに敵の行動が読めんよ。戦に不向きな王城に立てこもって

 徹底抗戦では、下の者が哀れだ。」


 まあ、自分の仕事が殆ど無さそうなのは確かだと肩を竦めた征四郎に、バルダーは双眸を細めた。

 何回か話す機会はあったが、こうして世間話をするような機会は初めてである。

 会話の節々に内戦や三国の争いはとっとと終わらせたいと言うニュアンスの言葉を語る征四郎にしてみれば、楽な敵であっても、長引く戦いは嫌なのだろうと推察出来た。

 それから、ふと気になって居た事をバルダーは問いかける。


「話は変わりますが、少佐。あのコボルトのご老人は今回は一緒ではないので?」


「バルトロメの爺さんか? ギルギ帝国に向かってもらってるよ。本来ならば、公務には関わらないスタンスなんだがな、爺さんは。」


 バルトロメ、征四郎と拳を交えもした老いたコボルトは今では征四郎の執事のようなものだ。

 癖の強すぎるナグ家の姉妹相手にも、平然と応対し、征四郎の生活を支えてくれている。

 その彼をギルギ帝国に向かわせたのには訳がある。


「あの爺さんの仇が、居るんでな。それに……聞いていた内容と違った暗殺者も居た。バルダー、聞いていた情報と性別が違う暗殺者が居たら如何思う?」


「人違いか、暗殺者ならば偽の情報を流して身バレを防いで居たかと疑いますね。」


「或いは二人居たか、を疑う。」


 不意に口を挟んできたのはアレクサンドラだ。

 征四郎らの傍にいつの間にか歩いてきたダークエルフの元騎士団長は、メイド服といった戦い難い姿を止めて、軽装の戦士と言った出で立ちに代わっていた。

 バルダーは背筋を伸ばして敬礼したが、征四郎は彼女に軽く片手をあげて答えて。


「そう、襲撃者と魔力が一緒だったから当人と思い込んだが、同じ腕前の二人が一人として活動していたならば問題だ。その保険の意味も込めてバルトロメとゾスモを送ってある。と言っても、一人しか分からんだろうが。」


「聞いておりますよ、老いたオークで武人としても政治家としても有用なお方だとか。」


 しっかりと情報をつかんでいるデーサイルの元騎士団長に征四郎は視線を投げかけて、軽く頷いた。


「中々に良い情報網を持って居るな。ん、そうなると女王の軍師の情報網は既に……?」


「無いでしょうね、一から構築するには時間が無さすぎますし。」


 その言葉を聞くと、征四郎はますます安泰だなと息を吐き出す。

 これでは何しに来たのかさっぱり分からない。


「現場に来られるだけで、士気は上がりますよ。少佐、貴方は実質勇者殿の陣営のNO.2だ。そんな重要人物を派遣してきたと言う事が肝要でしょう。」


 アレクサンドラの言葉に、頷きを返しながら征四郎は微かに笑った。

 何だか慰められている気持になったのと同時に、これ程有能な彼等を御せなかった女王の軍師とやらが少しだけ哀れだったからだ。


「そう思っておこう。それに、本当に上手く行っているのか、見せかけの優位ではないのかをしっかりと検証しないとな。」


 そう肝に銘じる姿を見て、アレクサンドラやバルダーは同じく肝に銘じようと身を引き締めた。

 確かに今は好調だ。

 だが、弛緩した空気が流れるにはまだ早い。

 それは全てが終わってからでなくてはいけないのだ。

 言うではないか、好事魔多しと。



 一方のギルギ帝国においても、事態は問題なく推移しているように見えた。

 少なくとも、使節団からはそう見えていたし、疑り深いアルデアも特に問題点を見つける事は出来なかった。

 カイネル王子の葬儀も恙なく行われ、終わると同時に交渉は再開した。

 最早憂いが無くなったギルギ帝国である、皇帝が権力の座から降りるのを厭うかとも予測されたが、アンガード帝は当初と変わらず一定の地位と、民衆への一定の扱いを保証してくれるのならば、クレヴィに権力を明け渡すと告げた。

 その推移を見守りながら、使節団の一人である六郎はほっとしていた。

 一体どこに懸念があるのだろうか、征四郎の考え過ぎだろうと。


 出立の間際に、征四郎が告げたのはバルトロメとゾスモがここに来ると言う事と、犯罪組織の動向に懸念があると言う事であった。

 それを聞いていたので、絶え間なく周囲を警戒していた六郎であったが、彼は特別な訓練を受けている訳でもない。

 終始肩肘を張って警戒していたのでは疲れてしまう。

 だから、バルトロメやゾスモと言った古強者の到着や、会談自体がスムーズに進んでいる現状に安堵し、警戒を怠ったとて責められる謂れは無いのである。


 会談が行われているのは、皇帝の居城にある会食室だ。

 楕円形のテーブルに向かい合うようにギルギ帝国と種族連合《ユニオン》の代表者が座り、粛々と交渉が進んでいた。

 出入り口である扉には、室外にはイェレやヴァーツラフが。

 室内にはイルメリが警護に当たっている。

 今一つの出入り口と言うか、厨房へと続く小さな扉の前には誰もいないが、使節団に平然と混ざったゾスモが、椅子が用意されていなかったためか、その周辺を行ったり来たりとしていた。


 そして、アンガード帝がテーブルに置いてあったコップを手にした瞬間にそれは起きた。

 厨房へと至る扉が開け放たれて、武装したケンタウロスが音もなく押し入ってきたのだ。

 手に持つ矢をつがえて、早業でテーブルの真上にあるシャンデリアを射抜く。

 それと同時に、ギルギ帝国の外交部に所属している官僚の一人ツチラトが、ナイフを懐から取り出して、隣の同僚であるダーグの首筋を切りつけようとした。

 響き渡る悲鳴、怒号が飛び交った。


 だが、ダーグを狙った首筋への一撃は頬を掠める程度に終わった。

 イルメリが投げたナイフがツチラトの手首を射抜き、事なきを得た。

 押し入ってきたケンタウロスは、すぐさま二の矢を放とうとしたが、居るはずのないオークの老戦士がすかさずタックルを仕掛け、それをまともに食らってしまう。

 馬体と人の上半身が合わさる体重は何百キロだかは正確には分からない、だが、その重い体が一瞬とは言え宙に浮くゾスモのタックルの威力は如何程か。

 戦士で無く暗殺者であった彼には、荷が勝ち過ぎた一撃である。

 一撃で、ふらつき崩れ落ちかかったが、どうにか堪えて立っていただけでも大したものだ。

 だが、ゾスモは既に次の行動を終えていた。

 会食室の脇に立てかけてある騎士と思しき者の鎧、それが持って居た刃挽きされたハルバートを手にして、ふらついていたケンタウロスに叩き付けていた。

 相手は、バルトロメではないのである。

 避ける事も叶わずに、プギオと呼ばれたもう一人のケンタウロスは頭を跳ね飛ばされて死んだ。


 落ちたシャンデリアは誰を傷つけたのか。

 位置的には皇帝が危うかったが、咄嗟の判断を下した六郎のおかげでアンガードは怪我を負わずに済んだ。

 だが、六郎は如何に勇者と呼ばれるもの特有の身体能力や動体視力があろうとも、シャンデリアが落ちる間にアンガードに飛び掛かり、押し倒して無傷とはいかなかった。

 テーブルの上に落ちたシャンデリアは、アンガードを押し斃した六郎の両足を潰していた。

 それからは、とんでもない騒ぎとなった。

 ツチラトは生きたまま捕らえられ、尋問されることになった。

 六郎は手厚い看護を受ける事になるが、再び歩けるのか否か。

 命の恩人である六郎をアンガードは、自らも看病した。

 この騒ぎの間、軍の司令官であるジェラルド・コンラートが姿を消した所で気付く者は無いかと思われた。

 カイネル皇子の時以上の騒ぎとなったのだ。


 会食室で起きた事件の最中に、カイネル皇子の棺を暴く者がいたとて、誰にも気づかれないはずであった。

 危険視されているアルデアも、会食室での騒ぎと賊の侵入経路に頭を悩ませるはず。

 その隙をついて逃げ出せば……。

 彼らの考えはあながち間違ってもいなかった。

 それなりの時間、B・B(ブラック・ブラッド)部隊員を観察し、立てた作戦だ。

 会食室の騒ぎとて、いきなり現れたゾスモと言う存在が無ければ、もっと長引いて居た筈。

 

 そう、その筈だった。

 仮死状態の皇子と共に逃亡し、他の地に潜伏。

 テルハ大陸の侵攻があるのならば、それを機に再び立ち上がる、その心算でいた。


「……お前たちが我が主の仇、と言う訳か。」


 響く言葉は暗く重い。

 老いたコボルトが発した言葉には、復讐の喜びなど欠片もなく、ただただ暗く重かった。

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