↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界における武力衝突  作者: キロール
第二章、竜殺しの妖術師
50/88

第15話「ジュダン=ボウの要塞へ」

 神土征四郎にとって、或いは特殊強襲部隊『B・B(ブラック・ブラッド)』にとって、山岳での本格的な戦いは過酷を極める物になる事は、誰の目にも明らかであった。

 イルカシュ山は標高こそ高くは無いものの、冬山としては申し分の無い険しさを誇示していたし、何より険しく雪の積もった立地を慣れぬ服装での行軍はいつも以上に体力を消耗する。

 何度と無く訓練を繰り返したところで、それはあくまで訓練でしかない。

 命を賭けた訓練も、やはり訓練でしかなかったと思わせる出来事とは起こりえる物だ。

 そう自身に言い聞かせ、征四郎は行軍を命じた。


 軽装が主体とは言え、雪山を登攀するには相応の装備が必要になる。

 あくまで武装が軽装備となるのが今作戦だ。

 部隊員達は獣の毛皮を用いた防寒具を纏い、底の厚い靴に鋲を打ち込んだ専用の登山靴を履いる。

 それらの装備を纏い、先端の尖った小型のウォーピックを片手に、鋲で大地を踏みしめて降り積もった雪を踏みしめながら行軍するのだ。

 武器は短弓と白兵武器のみの必要最低限。

 後は、現地調達でもするしかない。

 この兵装はケンタウロス達にも適用されている。

 四足の彼等は雪さえなければ、返って下手な装備などないほうが良いかもしれないが、流石に雪山となればそうも言ってられない。

 それに、上半身は人間のそれであれば体毛は薄く毛皮などの防寒具を纏わぬ訳には行かないのだ。

 そんな訳で、彼らの特性である速度は殺されてしまうが特性の登山靴を履くことにより、テント類の比較的重い荷物を持ち運ぶのには重宝する存在になった。

 内心は複雑な物がありそうだが。


 さて、積雪も少ない低山地帯を登り始めて数時間も経てば比較的容易に中腹部分にたどり着く。

 徐々に春らしさを垣間見せている低山部分であるから、まだ容易に昇れる。

 だが、ここまでは訓練時にもたどり着いていた場所であり、此処から先こそが未だに未知の空間、つまり本番だ。

 この辺りから樹木の姿は消えて、雪と岩と氷の世界の足を踏み入れる。

 先端の尖った小型のウォーピックを片手に、鋲で大地を踏みしめて進むのみならず、周囲を警戒し敵襲に備えながらの登攀は、どうあっても時間ばかりが過ぎていく。

 夕刻と言う刻限になれば、テントを張り体を休めると共に、やはり周囲への警戒を怠らず。

 夜は交代で見張りを立て、見張りが極寒の暗闇の中、交代の時間が来るまで周囲に異変が無いかを伺い続ける。

 朝が来ればテントを畳んでの行軍は、いっその事戦闘でも起きないかと思わせるには十分だった。

 そんな苦労を重ねる一方で、皮肉な事に敵の襲撃だけは無く遅々としながらも、遂にはイルカシュ山の山頂を視界に捉えたのである。


 山を越えた先の状況は、それこそ誰も知らない。

 精霊や死霊を使っても確認できない未知の場所。

 それがもしかしたら一望できるかも知れないという思いは、征四郎に突き進めと命令させるには十分な動機となったが、彼は一度落ち着こうと息を吸って吐き出して。


「…止まれ。」


 周囲にそう告げたのだ。

 残り約百メートルの距離、クレヴァスなどは流石にないだろうが喜び勇んで駆け上がるような距離でもない。

 そう自身に言い聞かせれば、周囲を伺うように各員に伝達する。

 特に気配も何も無いとなれば、気配を殺しながらゆっくりと昇り始める。


 途端に響き渡るのは複数の小さな羽音。

 全員が身を潜めて、上空を窺うと鳥の翼が両腕の変わりに生え、足先も羽毛に覆われた鳥の足を持つ女たちが飛び交っている。

 ハルピュイアと呼ばれる種族だ。

 いっその事全身が羽毛に覆われていれば良かったのだろうが、生憎と上半身は人間の女のそれである。

 防寒具を着込み暫く飛んでは、消えていく様子を観察しているとある種の規則性が見えてきた。

 彼女等は長い間飛べないようだ、少なくともこの高さは。

 そして、この高さまで飛べる個体も数は少ないようだった。

 何故なら、何度となく見ることになった彼女らは、交代するでもなく僅かな休憩時間を取って飛んできているようだった。

 最初の飛行に比べれば、3回目となる飛行は随分と短い。

 そして、斥候として不向きなのは動きが無いと山肌にしがみ付くような征四郎たちに気づかなかったことだ。

 ジュダン=ボウは支配している種族に無理を言って働かせているのであろう事が分かる。


 ハルピュイアの次の飛行には休憩時間を合わせて1時間ほどの時間が空く事が分かっているが、そろそろ夕刻が近づいてくる。

 夜間になれば飛行はさせまいが、今一度くらいは飛ばしてくるかも知れない。

 無理をせずにテントを張るのも良いが、この場所は些かテントを張るには適さない。

 天候とて明日も恵まれるとは限らない以上は、今無理をしてでも進むべきなのだろうか。

 征四郎は煩悶し、悩んだ。

 そして、己の参謀であるアルデアとラルスに意見を求めた。

 二人の答えは、一致しており簡潔であった。

 少佐が悩むのならば止まるべきだと。

 征四郎はその言葉に頷きを返して、この地に野営することを決めた。

 結局その後はハルピュイアも飛ぶ事は無く、寒さと戦うだけの時間となったが、征四郎に後悔は無い。

 一度決めれば、揺らぐ必要は無いのである。


 翌日、早朝から行軍を開始して、昼前には山頂にたどり着く。

 山頂から見下ろす未知の領域は思いのほか広い。

 海岸までは十数キロはあるだろうか。

 湿った海風が山に当たり跳ね返るためか、雨量が多くイズンの街付近相応に肥沃な大地に見える。

 これならば、少数種族ならば外と交流無く食べていけるだろう。

 だが、その未知の領域で一番目を引くのが、無粋な城である。

 城壁に覆われて、山道と肥沃な大地を塞ぐように建った要塞。

 そこから、何かが飛び立ったのが見えた。

 その大きさは昨日見たハルピュイアの比では無さそうだ。

 ならば、何者であるのかは容易に推測できた。

 征四郎は魔術兵装のカテナを纏いながらアルマに迎撃の準備を伝えれば、彼女は矢継ぎ早に指示を出して。


「総員、構え!」


 その言葉で指示を締めくくった。

 再び左右に分かれた兵士達が弓に矢をつがえ、上空に狙いを定める。

 本来ならば、機関銃兵を左右の陣に配置して射線をクロスさせる十字砲火であるが、征四郎はドラゴンと言う巨体の敵を屠るために弓矢で実践しているのだ。

 ぐんぐんと距離を詰める赤いドラゴンの姿に恐れることなく部隊員は矢をつがえ、時を待つ。

 その矢にはデモニアたちの魔力付与が施されていくが、全体の三分の一に施せれば良い方か。

 羽ばたきが響き渡り、ドラゴンが山頂の存在に気づいた時には既に時は遅し。

 威嚇するように彼等の前に躍り出て翼を広げて吼えるドラゴンは、格好の的と化した。


「撃てっ!」


 アルマの指示がドラゴンの咆哮に負けじと響けば、一斉に矢が放たれた。

 数十本の矢が左右から飛び交う。

 中には水や雷の魔力が付与された鏃もあり、ドラゴンの鱗を射抜く。

 広げた翼の皮膜には穴が開き、胴や首筋も鏃が傷をつけた。

 それでも、赤いドラゴンは失速することなく、痛みを訴えるように吼えながら大きく息を吸い込んだ。

 深呼吸でもするかのように首を上部へと伸ばして息を吸い込み始めたレッドドラゴンに目掛けて飛び立つ影が一つ。

 カテナを纏った征四郎が飛行の術を用いてレッドドラゴンへと飛び掛ったのだ。

 その右腕に装着されたドラゴンバスターは既に魔力が充填されている。

 レッドドラゴンが滞空していた事、そしてその距離が近かったこともありカテナの高機動戦モードに切り替える必要すらなく、征四郎はドラゴンと接触し、今まさに炎を息吹に乗せて放とうとしていたレッドドラゴンの胸部目掛けて、右腕の兵装の力を解き放った。

 傷だらけのレッドドラゴンを守る鱗を容易く打ち砕き、破壊の魔力を帯びた金属製の杭は深く差し込まれ、僅かな間の後に爆発した。


 魔力の爆発は雪崩や落石を引き起こしたが山頂付近には被害はなく、深刻な被害無くドラゴンを退けることに『B・B(ブラック・ブラッド)』は成功したのである。

 此方の被害は精々、魔力爆発の余波で征四郎が山肌に投げ出された程度である。

 これとて、カテナを纏う征四郎であれば大きな被害にはなりえない。

 精々が腰を強かに打ち据えた程度の話だ。

 イルカシュ山を下るのにも、多くの神経と時間を費やして遂にジュダン=ボウの要塞へ間近に迫ったのは、イルカシュ山を登って1週間の月日が流れていた。

 山の生物を狩り、殺したドラゴンの肉すら糧にして到達した彼等は、勢いのままに要塞を責める愚は犯さなかった。

 陽動と伏兵、それに侵入と部隊員は割り振りられ、魔力は高くとも戦術には素人のジュダン=ボウを混乱に陥れながら、じわり、じわりと要塞を攻め始めたのである。

 実の所、この時点ではジュダン=ボウは相手が何人なのかも未だに掴みきれていなかったのである。

 ドラゴンを短い期間に立て続けに屠った者の数が50名からなる小部隊でしかないと知っていれば、彼にもまだ手は残されていた。

 だが、数が把握できていなかった死霊術師は徒に索敵に戦力を割り振ってしまった。

 それが、この戦の分水嶺となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。