幕間(改定)
バルアド大陸のほぼ中央に位置するルーグ城砦を巡る戦いに、300年前に造られたストーンゴーレムが空間を越えて投入された事を、イライジャ・キングスレイは気づき、彼が忠誠を誓う首領に報告するべく彼の潜伏する場所に向かった。
5年前に意識を十全の物として、再び首領としての振る舞いを開始したルーベル・ドラコの元へ。
ルーベル・ドラコ、赤い竜を自称するこの魔術師の復活劇も、また凄惨な物であった。
意識を封じられて500年。
言い伝えから、結社内で一応の保護をされていたルーベル・ドラコの肉体だが、それが突如として意識を取り戻して動き出したのである。
如何に言い伝えがあろうとも、突如動き出した嘗ての首領に従うものは少なく、公然と反旗を翻す結社員の方が寧ろ多かった。
が、反逆者の中で生き残った者は誰一人としていない。
正確には、人間として生き残った者は。
嘗ては荘厳と謳われたデーサイル王国の城跡、半分瓦解した城の奥深くにルーベル・ドラコは潜伏していた。
その周囲には、生きながら石壁と融合して未だに死ねぬ反逆者や、背徳と欲望に身を浸して、その挙句に首領に牙を向いた兄妹が互いに溶け合い、苦しみと喜びを常に味合わされている異様な光景が広がっている。
ルーベル・ドラコは悪を否定しないが、己に敗北する程度の力しかない癖に、思慮も無く反逆する者には容赦が無かった。
「フラター・ルーベル・ドラコ、勇者クレヴィ・アロに対する作戦が開始されました。」
「そうか。
だが、計画は失敗に終わろう。」
「勇者の力はそれほどと?」
「勇者は伝聞でしか知らん。
だが、フラター・インフラマラエ。
一度敗れ死した者が、おいそれと勝てるとは思えん。
それに、支援すべき者が色欲に溺れていては、敗北は必至。
弟子の育成には失敗したな。」
「申し訳在りません、フラター・ルーベル・ドラコ。」
古き言葉で兄弟を意味するフラターと言う言葉を魔法名の前に付けるのは、彼等が古い魔術結社の流れを汲む事を示していた。
ルーベル・ドラコは軽く片手を振り、気にしていないと言外に伝える。
それから、不意にある事を思い出して、テルハ大陸の結社員を牛耳る支部長を見やる。
「…眠りから醒めた勇者のみでも奴等には荷が重い。
だと言うのに、新たに勇者を召喚させたのは自信過剰か、策の読み違いか。
フラター・アウァールスはこの危機を乗り越える事が可能か?」
今の所は敵方にこそ人材が揃っていると可笑しげに笑いながら、ルーベル・ドラコは目の前の死霊術師を、すっかり禿げ上がった頭部と真っ白い髭、好々爺めいた老いた人間の男へ視線を投げかけた。
そして、疑問を口にした。
「…正直に申せば、無理、では無いかと。」
「ふむ、あの貪欲さは見るべき物があるのだがな、残念な事だ。」
無理ならば梃入れしよう、等と言う発想は無い。
彼等は既に見限っていた。
魔法名アウァールスの名を持つ魔術師であり、女王の軍師でもあるレオナルトを。
彼の程度の魔術師ならば代わり等幾らでもいる、より向上心の強い者達が。
「勇者も死ぬ時は死ぬ。
万が一、奴の手で殺されるような事が在れば、期待した者では無いという事か。」
そう告げて笑みを浮かべるルーベル・ドラコは、不意にインフラマラエことイライジャ・キングスレイが僅かに眉根を寄せた事に気づく。
その様子から、どうやら死霊とゴーレムを使った作戦は失敗した事に感づいた。
だが、ルーベル・ドラコには如何でも良いことであった。
勇者が生きるにせよ、死ぬにせよ、勇者殺害の計画はルーベル・ドラコが意識を取り戻す前から進められていた事案。
彼にとってはどちらに転ぼうと関係は無い、精々結社がテルハ大陸の諸王に対する影響力を減じる程度の事だ。
故に、暇乞いを告げるインフラマラエに片手を振って送り出せば、怨嗟と懇願、苦悶と悦楽が交じり合った呻き声が響く室内で悠然と眠りについた。
ここは今では赤き竜の塒、いつか竜を斃すべき勇者がここを訪れる事はあるのだろうか。




