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異世界における武力衝突  作者: キロール
第一章、ルーグ城砦の攻防
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第22話「城砦のロズ その2」(改定)

 ロズワグン=ナグ以上の術者の存在を多くの者は知らない。

 死霊術師にして半人半神と噂される彼女以上の使い手など、滅多にいないのは事実だ。

 だが、ほの暗い噂の付き纏う彼女ですら凌駕する力の持ち主は、確実に存在している。

 その一人が、魔術師ルベール・ドラコ。

 人の世が未だ人だけの物であった頃より、闇に潜み語り継がれてきた最古の魔術の使い手。

 古き言葉で赤い竜を意味する魔法名が、最早彼の真名である。

 幾つかの魔術結社の大導師であり、ある目的のために跋扈するとされている。


 今一人は廃都ジーカイの主ジュアヌス。

 神土征四郎と同じく地底で眠る神を崇めた妖術師にして、古ぶるしき神へ働きかける魔術の使い手。

 天より来る御使いや地の底から来る恐るべき者達すら使役し、数多の使い魔を用いて廃都に君臨し続けた大魔術師。



 伝説として語られる恐るべき魔術師達。

 ロズワグン=ナグがその魔術師達の争いを垣間見たのは、かれこれ500年は前の話だ。

 父親は天寿を全うし、母親は何処ぞに消え去って久しい。

 父の後を追ったとは思えないので、やはり何処かに雲隠れしたのだろう。

 その頃には死霊術師として一流の域に在ったロズは、彼女の姉妹二人と共にバルアド大陸を後にしてテルハ大陸へと渡ったのだ。

 そこで、恐るべき二人の魔術師と出会ったのだ。


 その力をその目で見て、世界の広さをナグ家の三姉妹は自覚した。

 彼らが戦いを始めると、その魔力の余波で俄かに暗雲立ち込めて、雷鳴が轟き、大地が裂けた。

 数百、数千を超える使い魔たちが互いに争い、片手間に召喚された精霊《エレメンタル》達がまるで古の兵器ミサイルのように飛び交った。

 魔術師達が言葉を発するたびに大気は震え、異質な力が生まれては相手へと叩き込まれ、そして掻き消される。

 その戦いを垣間見る者にすら相応の力量を求める激しい争いは、日が三度沈み、三度昇ろうとも続いた。


 最後には、互いの使い魔はほぼ死に絶えて、飛び交う精霊も最早無い。

 酷く荒廃した大地と焼けたような大気がそこにあるのみだった。

 魔術師の片方、灰色のローブを纏った老人が何やら言葉を紡げば、その身は一瞬で焼き尽くされて消えた。

 後に残った緋色のジャケットを着た男が一人虚空で佇むも、そこから動き出す気配も無く。

 やがては、ゆっくりと大地へと落ちていった。

 そして、戦いを見守っていた者の一人ジュアヌスの弟子のグレイウォールが拳大の水晶を片手に進み出て、カシュパル・コウベクと名乗っていたデモニアに手渡した。

 それこそがクラーラの家で守られていた魔を封じた水晶である。

 如何やら、カシュパルか或いは後に生まれたコウベク家の者がバルアド大陸に渡ったのだろう。

 この大陸にその水晶が在るとは、ロズとて知らない事であった。



 ロズワグン=ナグのみが知る事実を彼女は誰にも告げてはいない。

 クラーラやバルトロメに封じられていた者の名を思わず告げてしまったが、何者であるかを彼等が正確に把握することは無いはずだ。

 それに、ルベール・ドラコが解き放たれたのは5年も前の話だ。

 今のこの城砦の防衛には何ら関係がないはずだ。

 だが、一抹の不安が脳裏を過ぎる。

 己一人であるならば、ロズはどんな状況でも楽しんでいただろう。

 滅びようが、犯されようがそんな事は彼女にとっては瑣末ごとだ。

 ロズワグン=ナグにはどうしても許容できない事が在った。

 それを回避する為には、力が必要だ。


「仕方ない、姉妹と話をするか。」


 一つ呟けば、彼女は割り振られた個室へと向かった。

 防衛は死霊や骨兵士にやらせておけば良い、ロズが力を与えているのだ足止めや時間稼ぎには十分な力を有している。

 それよりも、久方ぶりの姉妹への呼びかけに彼女らがこたえてくれるかが問題であった。


 さて、ロズワグン=ナグが個室に籠ってから既に1時間は経過している。

 与えらた個室は狭く、ベッドが一つ置かれているのみの殺風景な部屋だ。

 そのベッドに横たわりながら、天井を見上げて何やら口をへの字に曲げたロズワグン=ナグが其処には居た。


「ならん、あれは余の物だ! 姉妹とは言え貴公等に貸し与えるなど持っての他だ。」


 彼女が翡翠色の蛇目で睨みつける先、天井には二人の女が映っている。

 双方共に翡翠色の蛇のような瞳を持っているが、それ以外は然程似た所が無い。

 片や戦士のように筋肉質で女性としては大柄な体躯、白金と言うよりは白と言うべき髪を背の半ばまで無造作に伸ばしたロングヘアの女。

 今一人は、小柄ながら落ち着いた雰囲気を纏った金色の波打つ癖っ毛をミディアムショートにした女で、その双眸は今は閉じられていた。

 そして、首からは新しき神の一柱、腐敗と再生の上皇と呼ばれる存在の聖印をぶら下げている。


 彼女らが、ナグ家の血を引くロズの姉妹。

 物の順列などに頓着しない母の為、誰が姉で誰が妹かはっきりしない彼女等は、互いを姉妹と呼び合う。

 戦士の如く頑健な体を持つ女がネイフォロウ=ナグ。

 聖印をぶら下げた落ち着いた雰囲気の女がリマジルク=ナグ。

 双方共に整った顔立ちながら、人とは異質な印象を与えるのはその瞳の所為か。

 その二人は些か困ったように自身の血族を見やる。


「とは言え、実際にある程度付き合わねば託すに足る人物か分らぬ。」


「姉妹ロズ、アレの封印を解こうと言うのならば我等にも責任がある。既に『プロフォンドゥム』を与えてしまっているのならば、尚更だ。」


「だからと言って、何故に会って話をするだけに留まらぬ?それ以上の接触は必要ないはずだ。」


「そこは興味本位だ。」


「興味とな! だから話したくなかったのだ姉妹共とは!」


 軽妙とも言える語り口だが、切実な思いと共にロズはそう吐き捨てる。

 昔から男の好みが似通っていた姉妹たちに、征四郎について話したくはなかった。

 面白半分にちょっかいを掛けられる等、到底我慢できないのだ。

 とは言え、ロズとて面白半分でちょっかいを掛けた事が在るのでどうしようもない。

 長き時を生きる半人半神に貞操観念を求めた所で意味は無い。

 そうだと言うのに、今回に限りロズワグン=ナグの抵抗が激しい。

 こんな話題は物の数分でいつもならば話が済んでいる。


「随分と抵抗するな、姉妹。そこまで執着を見せるなど、今までなかった筈だが。」


「基本的に我等は人の世を逸脱した存在。故に姉妹ロズは深く関わるを良しとはしてこなかった。それが今、一人の男の為に『ドラゴンバスター』の封印を解けとは……。」


 先程より話題に上がっているのは、征四郎と彼に与える為の魔術兵装カテナ専用の武具について。

 圧倒的な破壊力から竜破壊《ドラゴンバスター》の名が付けられたと言う曰く付きの一品。

 元より魔術兵装カテナの武具となれば旧文明の兵器、過剰な力となりがちで在るが相手があの魔術師であるとするならば、それらが在っても心許ない。


 正直に言えば、ロズワグン=ナグは今回の作戦で征四郎が死ぬとは本気で考えて居ない。

 だが、5年前のあの日、征四郎が夢を見た日から漠然とした不安だけがあった。

 それが今日、不意に齎された報告により不安は一層色濃く感じられ、久方ぶりに姉妹に連絡などしてしまった。

 それを後悔するように、口元をへの字に結んで居たが姉妹達の懸念も良く分る。

 何故自分はこうも征四郎に対して甘いのか。

 それはロズワグン=ナグにも良く分らないのだ。


「分らん。ただ失うのでは無いかと思うと恐ろしいのだ、姉妹達よ。死もそうだし、貴公等にその心が移るのでは無いかと思うと怖くて、怖くて仕方ないのだ。ああ、でも、死なれるよりは…いや、いっその事誰かの手に掛かる位ならば、余が…。」


 姉妹達からすれば、それは異様な執着である。

 その結論がなんとも危うい方向に向かっていくのを止める事は無いけれど、姉妹ロズがそこまで執着を見せる相手とは如何なる存在か興味は尽きない。

 嘗ては一人の男を三人で共有する事すらあったと言うのに。


 共有、それは確かに共有であった。

 まるで物でも扱うかのような気軽さで三姉妹は男を共有するのだ。

 そして、ナグ家の三姉妹の誰であれ、魅入られ付き合った今までの男達は数ヶ月も経たぬ内に命を失ってきた。

 ある者は逃亡しその途上で不慮の事故にあい絶命して、またある者は逃れられぬ運命に恐れを抱いて自死を選ぶ。

 それは三姉妹の情が強すぎる上に、その方向性も人より逸脱している為であるのだが、一方で彼女等の血が成せる狂気の産物でもあった。

 だが、彼女等はそれには気づかない。

 愛玩動物のように可愛がっていた男も、情婦のように愛し合っていた男も死してしまえば興味も消えていった。

 これが稀なる種としての本能から来るのか、倫理観の欠如した野蛮な血筋と解すべき事なのか、或いはあまりに世間と逸脱した神話染みた化け物とでも称するべきなのか定かでは無いが、彼女等に魅入られるという事は、通常良い事ではない。

 しかしながらこれこそが、傍から見れば非情にして異常な関係ではあったとしても、これこそが彼女等にすれば恋愛なのである、その筈なのに。


 その姉妹の一人ロズが今までとはまったく違う病的さを示している。

 この件が一層ネイフォロウ=ナグやリマジルク=ナグの興味を引くのだ。

 これ程姉妹を虜にする存在は、如何なる存在であろうか。

 食らえば美味いのか、抱けば悦楽を得るのか、或いは安らぎでも与えてくれるのか、興味が尽きない。

 もし、それ程のモノであるならば、姉妹ロズのみが独占し続けるのは理不尽では無いか……。

 その様な抗議が返って来てしまい、劣勢になったロズは、結局征四郎について出会いから今に至るまで語る羽目になった。

 それは、一層姉妹が征四郎に興味を持つ事になるのだが、そうせねば遅々として話が進まない。

 苛立ちのままに、しかしながら自慢げに己の男について語るロズの様子を姉妹たちは呆れたように、羨む様に眺めて口を挟んでいた。

 結局、このある意味下らない、しかしながら話しの種として扱われている人物には非情に危険な会話は今暫く続き、霧が晴れたら二人の姉妹が征四郎に会いに行くということで話が纏まった。

 それは神土征四郎にとっては、まるで与り知らぬ事ではあった。



 ロズワグン=ナグが姉妹達と不毛な言い争いに興じている頃、ルーグ城砦では大きな動きが生じていた。

 城砦の最奥の勇者の寝室にて、それが生じたのだ。

 そう、正に勇者クレヴィ・アロが長き眠りから目覚めようとしていた。

 それがルーグ城砦を巡る最終局面への鍵では在ったが、城砦側は今しばらく秘匿する事に成功する。

 クレヴィ自身も仲間であるラギュワン・ラギュより精神世界で伝え聞いていたし、レーギーナも征四郎やロズからおいそれと公表するなと忠告を受けていたからだ。


 最終局面への移行する時間のズレが齎したのは、シャーラン王国に根ざす勇者抹殺を企てた一人の人間が、深遠へと転落していく結果。

 それが起こるには今少し時間の猶予が必要だが、結局この時点で彼の人物の命運は尽きていたのだ。

 テルハ大陸より送られていた魔術師、アウァールスの魔法名を持つ男の命運は。

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