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その62

 カケルくんもヨウくんも向こうの世界に行った今、改変によって根底から状況が変わっているためにこちらでできることは何もなく我が家に戻った俺と笹倉さんはとりあえずテレビを見たり談話しながら時間を潰していた。

 そうして夕方に差し掛かりニュース番組もチラホラと始まったのだが、そこでなんとも奇妙なニュースを目にすることとなった。


 なんでも、ここから三時間程と日帰りで行くのにちょうど良さげな温泉で男が覗きで捕まったというのだ。

 何が奇妙ってこの男が捕まった場所が温泉傍の茂みだとか、窓の外なんかじゃなくて女湯の内部だったということ。

 しかも男は人目につかない場所に隠れていたわけでもなく、どう考えてもすぐに見つかるような場所で堂々とガン見していたらしい。

 まるでそうしていても誰に咎められるわけがないと言わんばかりだったらしいのだが、それは覗きがバレて悲鳴を上げられた瞬間に男の様子は一変。最初は戸惑い首を傾げ、次いで目を見開いて「なんで、どうしてバレて」などと意味不明なことを言いながら男は絶望した様子で呆然と立ち尽くし、それを不気味に思った女性たちは逃亡。

 その後被害を受けた女性たちから通報を受けた従業員によって確保され、そのまま警察へと引き渡されたようだ。


 被害者の女性たちはそこにいれば即座に気づく場所にその男が居たにも関わらず、その瞬間まで気づかなかったと証言していて、そのニュースを伝えていたキャスターの人なんかも困惑気味だ。

 警察での取り調べでも男は「誰も俺のことを見ることは出来ないはずたっだ。魔が差した」とわけの分からぬことを言っているようで事件の全貌が明らかになるのはまだまだ時間を要しそうである。

 まあ、実際のところどれだけ時間をかけたとしても事件の全貌が明らかになることはないだろうと思う。

 多分男は正面から堂々と侵入し、偶然人の視線が切れたタイミングで入ってきたとかそんな感じで落ち着くのだろう。


「透明化、あるいは認識阻害かなあ……」

「……最っ低」


 そしてそんなニュースを見ていた俺と笹倉さんには当然心当たりがあるわけで何とも言えない気分でそのニュースを見た感想を口に出す。

 十中八九その男は異世界からの帰還者だろうし、何らかの能力を使って覗きをしていたのだろう。

 覗きをしている最中にルミナスさんに力を回収されて露見するとはなんとも哀れなやつ……同情は全くできないが。


「全く、能力を使えるようになったからってこんなことするとか……」

「…………」


 呆れた能力の使い方をした男にため息をつくと、なんだか横から視線が突き刺さり背筋が凍る。

 ゆっくり視線を横に動かせば、じとーっとした目で笹倉さんがこちらを睨んでいる姿を確認できた。

 ええと、その目はどういう……なんて誤魔化せるはずもなく。


「えっと、はい。俺も大概でしたね、はい。笹倉さんの優しさで問題になってないだけってこと、肝に銘じますよ、はい。その恩情には深く深く感謝しております故、なにとぞ……なにとぞ……」

「……まったく、もう」


 誤魔化せないのだから誠心誠意謝るしか無いと頭を下げ続けると、笹倉さんは呆れたようにため息を吐きながらも今更問題にする気はないと苦笑して視線をテレビの方へと移す。


「それにしてもルミナスさんが力を回収してその日にこんなニュースが流れるとなると、他の人もなんか問題起こしてたりするのかな」

「うーん、異世界転移とかいう非日常な経験をして、能力お持ち帰り……まあ自分は特別なんだと考える人はそれなりにいそうだし、能力をこっちでも使っているって人は多いかも」


 問題はその能力使用の範囲がどの程度かだよな。

 まあ流石にこのニュースのように犯罪利用に使ってるのは少ないと思うけど、自身をよく見せようと使うってぐらいなら結構多いのではないだろうか。

 とはいえサバイバーが帰還してからそう時間も経ってないはずだからそういった人はギリギリ頭角をあらわす前に能力が消えて大事には至っていないとは思う。

 仮に評価された後に能力が消えて色々やばい状況に追い込まれてる人がいたとして、それはもう自己責任として諦めて欲しいところだ。

 ヨウくんたちはまだまだ子供だし、状況から見て事故っぽいからこうして介入したけれどもこれ以上関わる気はないのだ。


「んー一応他に問題起こした人はいないみたいだね」

「まあそこまで理性崩れた人も居ないだろうし……まあ、一応数日はニュースに注意しておこう」


 そうしてそのまましばらくニュースを見ていたが、他に何かしら興味を抱く事件は無かった。

 昨日までは随分やかましく話題にされていたヨウくんの起こしてしまった事件については、彼らが異世界に行っていることで認識が改変されているため当然ながら影も形もない。

 これは一応計画が予定通り進んでいると喜んでいいだろう。

 加えてヨウくんとカケルくんも向こうでしばらく話し合った後に仲直りは果たしたのだとエージから連絡は受けていた。

 つまり後は明日二人を呼び戻した時に世界の認識がどう改変されるかだ。

 とりあえず明日は朝早くヨウくんの家まで行き、そこで二人をこちらに呼び戻そうと考えている。

 そうすれば仲のいい二人はお泊りして遊んでいたって感じに改変されるかもしれないし。


「そろそろごはん食べよっか」

「ん、もうそんな時間か」


 いろいろ考えていたら笹倉さんがごはんだと告げてきたので時間を確認すれば夕食を食べるのにちょうどいい時間となっていた。

 それじゃあ用意しようかなと立ち上がろうとした所で笹倉さんに肩を押されて無理やり座らされた。


「あれ、今日俺の当番……」

「新城くん、今日は結構頑張ったから。異世界へのゲートとか大変だったでしょ?」


 そう言って私に任せてと笑う笹倉さんの厚意を無下にするなんてできるはずもなく彼女に任せることにする。

 実際魔力を限界近くまで消費したのは結構辛いものが合ったから助かった。

 その後は笹倉さん手作り料理を満喫し、ゆったりと夜を過ごしてから眠りについた。




 そうしてやってきた明くる日の朝。

 俺たちは再びヨウくんの家へとやってきていた。


「さて、いよいよか」

「向こうの準備も整ってるんだよね?」

「ああ。ここに来る間に聞いたけど向こうは向こうで緊張した様子らしいけどな」


 俺たちが朝早くから動いているように向こうでもヨウくんとカケルくんが動いており、すでに合図があればいつでもゲートを開けられるようになっている。

 そんなわけで前回同様ヨウくんの部屋へと不法侵入してこちらも準備を終える。


「んじゃ、やるか」

(準備オッケーだ。そっちは?)

『こっちもいいぞ』

(よし、じゃあ開くぞ……せーの)


 ここまで来て後は開くだけなのだからと特に時間を掛けることなく手早くゲートを開く。

 もはや発動も慣れたものでしっかり道が繋がったのを確認しそれを維持しつつゲートから少し離れて見守っているとすぐに二人の人影がゲートから姿を表した。

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