その63
ゲートから現れた二人は俺たちを確認するとたちまち笑顔を向けてきた。
「あ、お兄さん! お姉さん!」
「えっと、色々ありがとう。お陰で無事仲直りできました!」
「おう、よかったな。んじゃゲート閉じるからもうちょい離れてくれな……多少覚悟しておけよ」
こちらに元気な声を告げる二人にわだかまりは見えず、向こうでしっかりと仲直りできたことが伝わってきた。
報告でも聞いていたが本当に仲直りできたようでこちらも嬉しくなるがひとまずゲートを閉じるために二人に指示を出す。
同時に覚悟を促したのは認識改変の誘導の成功の可否がゲートを閉じた瞬間で決まると思われるからだ。
カケルくんを向こうに送ったときもヨウくんのときも改変はゲートを閉じた瞬間に行われたから多分間違いないはず。
そうして二人がゲートから十分離れたのを見て俺は一つ深呼吸するとゲートを閉じた。
すると一瞬まるでテレビの画面が乱れたように周囲の景色が一瞬ブレたかと思うと何もなかった机には教科書が並び、部屋の真ん中に小さなちゃぶ台も現れていた。
そしてその上には何やらノートと漢字のドリルが開かれた状態で乗っていてノートには筆跡の異なる字でそれぞれ漢字が書き込まれているようだった。
更に机の周囲の床には他の教科の教科書やドリル、ノートが散らばっていてまるで誰かがここで勉強してそのまま片付けずにいたかのような光景だ。
その光景に思わず頬が緩むのを感じつつ携帯で過去のニュース調べれば、小学生が起こした傷害事件など影も形も見当たらないことを確認してグッと拳を握る。
「よおおおおおおし! 狙い通り! 完璧だ!」
「ッ!? 突然叫んで、どうしたのお兄さん?」
やってきたことの結果が予想以上にうまくいったことに思わず叫び声を上げて喜びを表してしまったが、傍にいたカケルくんとヨウくんを驚かせてしまったようだ。
苦笑しながら軽く謝りつつも、無事に当初の計画が成功したことを二人に伝えれば、二人は最初はポカーンとしていたが次第に理解が追いついたのだろう、目を輝かせた。
「ほ、ほんとに!?」
「僕がカケルくんを怪我させちゃったとこととか騒がれてないの?!」
「おう、この通り綺麗さっぱりとな。とはいえニュースにならない程度に喧嘩したってことになってるかもだが……この部屋の状況から察するに二人は多分昨日はここで勉強会を開いていたってことになってるから多分問題ないとは思うぞ。まあ、一応周りの反応に注意しとけな」
騒ぐ二人に念押しして説明すれば大いに喜びはしゃぎだす。
そんな二人の様子に笹倉さんと目を合わせると彼女の表情がぱっとほころんだ。
それに釣られて俺も笑みを深めて改めて二人の様子を見て頷く。
こんな気持ちのいい光景を見ることができたのだから介入して本当によかった。
そんなことを思いながら俺はしばらく二人の様子を見守っていた。
そしてようやく一段落したその後だが、ヨウくんの親に話を聞いたりもして本当に万事解決したのを確認し、そうであるならばと早々に二人と別れることとなった。
カケルくんもヨウくんも、いろいろ助けられたことを理解しているようでどこか心苦しい様子を見せていたが、これ以上関わったところで仕方がない。
まあ、せいぜい人を思いやれるような人間になってくれ、なんて格好のいいことをいって無理矢理納得して貰った。
「なかなか大変だったよね……って言ってもほとんど新城くんがやったことで私はあんまりだけど」
「いやいや認識阻害とか他にも色々サポートしてもらってたし、笹倉さんの協力あってこそだよ」
「そう? じゃあ、これも二人の共同作業ってことになるのかな。初めての……って訳でもないか」
そして我が家へと向かうその道中で今回の事件を振り返りながら笹倉さんと言葉を交わす。
やや自分を責めるようなことを言っていたのですぐさまフォローしたがどうやら別に気にしているわけでもなく会話の一端でしかなかったのだろう、笹倉さんはあっさり受け入れて冗談を口にしようとし、少し表情を曇らせた。
彼女の言葉に俺も初めての共同作業はなんだったかと思い出してみれば連盟でのあれを思い出す。
なるほど思い出してみればそれが初めての共同作業とも言えなくもないが確かにいい思い出とは呼べない代物だから彼女の反応にも納得だと苦笑する。
「ま、アレは忘れよう」
「だね。にしてもなんだかんだで二日で解決って考えてみたらこれってすごいことだよね」
「あー、言われてみたらそうかも。まあ異世界のこととか認識改変について知ってたからこそだけどさ、もし認識改変の誘導が失敗してたら相当険しい道だっただろうなあ」
「その言い方だと諦めるって選択肢はないんだ?」
ひとまず記憶を振り払うとあらためてカケルくんたちの事件に関する話題に戻る。
早期に解決したのは運が良かったからこそで、改変の誘導が失敗していれば今頃は非常に焦りながら次の策を考えていたことだろう。
「なんとかしようって介入してできませんでした、なんてのはかわいそうだからな。それにそんな情けないこと言ったら笹倉さんに見捨てられちゃうかもだし?」
「いやいや今回のは相当厳しいってことは分かってたしそんなことで見捨てたりなんてしないよ……でもそういう考え方は嫌いじゃないよ」
「お、それは良かった。ところで逆に何をしたら見捨てられるか聞いておきたいんだけど」
俺の回答はまずまずの好評価だったようで優しく微笑む笹倉さんのお言葉が我が身に染みる。
ついでに今後見捨てられるような行動を取りたくもないから予めそれを聞いておこうと尋ねてみた。
「うーん……どうだろ。多分……何があっても見捨てるなんてできない、かな」
「え?」
「だってさ、新城くんは私を救ってくれたんだよ? 殆ど何も知らないのにただ好きだからって助けてくれて、私はそんな新城くんのことが好きになってさ。だからもし心が挫けるようなことがあったとしたら今度は私が助けてあげるし、道を間違えたら私が正してあげる」
そう言って口元に笑みを浮かべがらも真剣な目でこちらを覗き込んでくる笹倉さんにしばし見惚れてしまう。
俺だってもちろん彼女の想いを疑ったことなんてないし、どこかで見捨てられないだろうと安心していたけれど、こうしてハッキリ言葉にされるとやはり嬉しいものがある。
「とまあ、いくら言葉を重ねても将来私がどう行動するかなんて保証できないけどね」
「……いや」
それから苦笑しつつも先程の言葉に注釈を入れる笹倉さんであったがあそこまで彼女に言わせておきながら俺はだんまり、とはいかない。
「さっきの言葉、信じるよ。だからその……ありがとう。本当に嬉しい」
「そう……? うん、じゃあ……どういたしまして!」
とはいえあまり上手いことを言えず思ったままのことを言う事しかできなかったのだが、それでも笹倉さんは少し考え、それから嬉しそうに笑ってそんなことを言ってきた。
その様子にどうやらまずまずのことを言えたらしいと安心して、その後は思いつくままに会話をしながら俺たちはゆっくりとした速度で空を飛びつつも帰路を進むのであった。




