第二十一話 やばい地点
高校三年生の時のことだ。
恒例の全校マラソン大会が行われた。
1年生から3年生までの全部が男子も女子も同じ場所から一斉にスタートを切り、そこに戻って来るコースではあるが、身体が重くて恐ろしく走るのが遅くなった女子共は途中でショートカットする短いものだ。
男子のコースは長いだけでなく、女子が省略をする場所には、どこまでも続くクソ長い坂があって、そこを下り切った場所でUターンをして上り続けるーー毎年、ゲロを撒き散らす奴が何人も出るエグい内容で、男子の運動部は上位30位にどれだけ入賞者を出すかを競い合うものだった。
喋るとやたらと「なまら」という言葉を連発する同級生の繁は、男子バスケのキャプテンらしく、自ら上位入賞をと、呆れるほど力んでいたが、どういう訳か高校に入ってからずっと帰宅部だった俺の方が短距離も長距離も足が速く、その年も、スタートダッショで飛び出した繁を、ダラダラ坂で捕らえて追い抜いてやった。
ーー後は、女子と同じ平らなコースを5キロくらい走りゃゴールだぜ。
前に見えるトロくさい集団ーーどう見ても走るには無理があるだろうケツをした女子の一団を抜き去った俺は、今年も30位に入れそうだとほくそ笑んでいた。
ーー運動部でもねえし、タバコもバコバコ吸っちゃうけど、それでも俺は走りゃあ速いんだぜ。
そんな余裕をかましていた時だ。後ろの方からだ。「ギヨエエエエエ!」とか「ヘンタイ!」などと叫ぶ女の声が聞こえ振り返ると、さっき抜いたはずのヘロヘロだった女子共が鬼のような勢いで迫って来る。
「なっ、なに?! ぬうううおおおおおおお!!」
俺は腕の振りを無理やり速くさせて強引にスピードを上げたが、あえなく追いつかれ、そしてシャツまで掴まれた。
「ちょっ……おっ…お前ら……反則だ反則……離せバカ」
振り解こうとして蹴躓いた俺は地面に押し倒され、更に、のし掛かってきた何人もの女子に潰されて吐きそうだったが、逃げようとする女子の一人のジャージをズリ下げてとっ捕まえた。
顔は見たことがあるが名前を知らない、あぶなくパンツまで下げそうになった胸のデカイ女から聞いた。
俺に抜かれた後だそうだ。男の叫び声が聞こえ振り向くと、ジャージとパンツを膝まで下げた男が、いろいろと出した状態で走って来たらしい。
その何日か後だ。周りの様子を伺うような素振りの繁が、なにかが書かれたノートを俺に見せてきた。
「マラソンでよ〜、ここだ、ここ。なまらヤベーんだって」
ノートにはヘッタクソな地図が描かれていて、よく見ると、女子共がギャーギャー騒いでいた地点に近い場所にバッテン印がついている。
「いや……お前に抜かれたべ。抜き返してやろうって、なまらリキ入れて追いかけたんだけどな、ハラ痛くなっちまってよ。便所なんでねえからコースから外れて、周りから見えねえ草むらでしたんだけどな、紙なくてよ、紙」
どうやら、草むらでケツを出した姿でどうしようかと思い悩んでいると、スーっと後ろからテッシュを持った手が伸びてきて、ケツまで触られたと真顔で語る繁。
それからだ。俺たち仲間内では、絶対にウンコをしてはならないヤバイ地点だと、印の付いた繁の描いたヘッタクソな地図のコピーが配られた。
やばい地点ーーー完




