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私は愛華と距離をとった。向こうのほうから近づいてきたけれど、ずっとそっけなくしているうちに、翔子たちが来て引っ張っていって、愛華は後ろ髪を引かれるような顔つきで離れていくというのをくり返した。ただ、その後は、翔子たちとしゃべったりするのに、あのコも楽しそうだった。
ところが、しばらく経ったら、また彼女たちの関係は以前の、愛華がへりくだる状態に戻ったのだ。
きっと、翔子たちは、実際は好きではない愛華と仲良くするのが面倒にでもなったに違いない。
だから、散々言ったのに。愛華のバカ。
今回はいじめへの進展を回避するのは無理かもしれない。でも、しょうがないよね。一度痛い目に遭わなきゃわからないんだ、あのコは。
放課後の教室で、翔子たちが愛華をどこかへ連れていくのを目にした。何か雰囲気がおかしい。どこか誰にも見られない場所でひどいことをする気かもしれない。
けど、仕方がない、よね……。
私はカバンを持って帰宅しようと教室から廊下へ出た。
「莉緒」
名前を呼ばれて、視線を向けると、それは君枝だった。彼女も私と似てクラスの輪から外れているといったタイプで、愛華と私と翔子たちの関係性において、どことも近くない中立的な立場だ。
「愛華、いじめられちゃうよ。あんたたち仲良かったよね? いいの?」
「別に。もう翔子たちのほうが仲いいでしょ」
私は、愛華と翔子たちがこじれた状態なのを私がわかっていることを、君枝が把握していると承知のうえで、敢えて言った。
「あのコたち、なんでああなったか知ってる?」
「さあ? そもそも翔子たちは愛華が嫌いで、無理して仲良しをやるのがしんどくなったんじゃないの」
「違うよ」
君枝は強い眼差しを私に向けた。
「翔子たちがあんたの悪口を言うのを、愛華が怒ったからだよ」
「え?」
「あんた、ここのところ愛華に対して冷たくしてたでしょ? それで翔子たちがあんたを悪く言って、『そうだね』ってテキトーに受け流せばいいものを、絶対に許さないで、『莉緒は私のたった一人の大事な親友だ』って。だから翔子たち、『たった一人って、あんなに優しくしてやったのに、うちらは親友じゃないのかよ!』っていうので怒りが爆発したんだよ」
「うそ……」
「だって、翔子たちが自らそう言うのを聞いたんだから、間違いない」
……。
私はその場から走って離れた。翔子たちといるはずの愛華のもとへ行くために。
どこ? どこ?
人目につかない場所を探し回った。
いた!
校舎裏で、翔子たちが愛華を取り囲み、何か嫌がることをやっている。
「やめろっ!」
私は翔子たちに体当たりをした。
「ああ? 何だ、てめえ!」
私は、体を使ったケンカなんて、したことすら記憶にないくらいだ。おそらく翔子たちだって大差はない。愛華には道具を使用したりしていたぶるつもりだったと思う。
しかし、突進してきて、たいしたことはないが攻撃された、怒りや焦りなんかによってだろう、私と愛華を蹴ったり、倒れると踏みつけたりと、普通に暴力を振るった。向こうのほうが人数が多いし、私たちはやられ続けた。
「ふざけんなよ、お前ら! これで終わりだと思うなよ!」
しばらくすると翔子たちは、あまりやるとこのことが外部に知られる事態になるとでも思ったようで、そう言って急ぎ足で去っていった。
すると、自分も暴行されて苦痛なはずなのに、愛華がすぐに私のもとに来た。
「莉緒、大丈夫?」
「いてて……」
私のほうがいっぱいやられて、あちこち痛かったけれど、なんとか体を起こした。
「ありがとう」
愛華が私を抱きしめた。
「ごめんね、私のために。どうしよう、これで終わりじゃないって言ってたよね?」
「平気だよ。多分、明日とかにはやられたところがハレたりアザになったりするから、思いきり先生にチクってやろう。言い逃れできないでしょ。それでも、もし学校にいづらくなったら、一緒に別のところへ転校するか、じゃなければ一緒にどこかで働けば」
もちろんそれは簡単な話ではない。思いつきの、出任せの言葉だ。
ところが、愛華は真剣な表情でこう返した。
「うん。約束だよ」
そして、また私に抱きついた。
「ねえ、翔子たちに、私のことをたった一人の親友だって言ったって聞いたけど、本当なの?」
「うん」
愛華はしっかりとうなずいた。
「どうしてそんな余計なことを口にしたのよ? 怒らせるだけなのに」
「だって、本当だから」
愛華……。
私は涙が込み上げた。
ありがとう。愛華のおかげで、小学生のときのことで人を信じられなくなりかけていた私の魂は死なずに済んだのだ。なのに今も見捨てようとするなど、愚かな人間の私を、そんなに思ってくれてるなんて。
これから先、たとえ離れ離れになることがあっても、ずっと、ずーっと、あなたは私の大切な友達だよ。




