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私の友達の愛華は、学校のクラスの人気者だ。顔は可愛いし、性格は素直だし、男女みんなから慕われている。
かたや私は、ブスではないと思うが愛想が悪いし、そんなに表立って何かしたりはしないもののひねくれているのがわかるのだろう、近寄ってくる人はおらず、愛華以外に友達と呼べる相手は一人もいない。
ただ、愛華も実はそこまでは好かれていない。男子からチヤホヤされるのは本当に違いないけれど、女子たちの好意的な態度は上辺だけの割合が高い。
それは私が妬んで言っているのではない。実際に愛華がいない場面で、女子たちがあのコの悪口をしゃべるのを、私は何度も聞いているのだ。それこそ、彼女らの多くが、男子にモテる愛華に嫉妬しているというのが、嫌う大きな理由だろう。あとは、人間性がまっすぐなところや、そんなまっすぐなまま高校生の今までいられたことに対する、腹立たしさとか。
愛華はピュアだから、自分が陰でけなされているなんて、これっぽっちも想像しない。だから、私はよくこう言ってあげる。
「あのコ、あまり性格良くないと思うよ」
悪口をよくするコをそういった具合に話題にして、真実を知っても傷が浅く済むようにという配慮だ。
なのに、彼女はいつもこのように返すのである。
「人のことを悪く言わないほうがいいよ」
はーあ、呆れる。いっそ全部ぶっちゃけちゃおうかと思うけれども、告げ口したのがバレたらやばいし、何より愛華はその話を信じないだろう。
ある日、愛華に元気が見られず、私は問いかけた。
「どうかした?」
「……実は、翔子ちゃんたちが私を悪く言ってるのを耳にして」
翔子と菜月と美景は、常につるんだ状態の三人組で、クラスの中心的な存在だ。別に牛耳ったりなんかはしていないが、みんな敵にしたくないという意識だろう、単純に他人から否定的に思われたくないだけの愛華以外は。
「それを愛華が聞いたのを、向こうは知ってるの?」
「ううん」
愛華は首を横に振った。
「ほら、だから言ったでしょ、そういう人たちなんだって」と口から出かかったけれど、落ち込んでいる彼女にはかわいそうかと考えて、やめた。
「私、鈍感で、そんなつもりはないのに傷つける言葉を口にしちゃったりするから、そのせいだと思う」
愛華はつぶやいた。
「違うよ。愛華って男子たちに人気があるでしょ。だから、嫉妬してるだけだよ」
私がせっかく教えてあげたのに、この期に及んでも愛華はこう返した。
「そんな理由で翔子ちゃんたちが悪口を言うはずないよ。絶対に私に原因があるんだ。何しちゃったんだろう……」
まったく。
反論しても無駄と判断して、私はそれ以上しゃべらなかった。
それからというもの、愛華は翔子たちにへりくだった態度をとるようになった。
「そんなことをすると、向こうはつけ上がって、逆効果だよ」
学校からの帰り道での、その私の忠告にも、やっぱり愛華は耳を貸さなかった。
「だって、私がひどいことをしちゃったんだから」
「え? そう言われたの?」
「いや、多分だけど」
何なの? ここまでくると、純粋というより、バカなんじゃないかと思えてくる。
「もう、いいよ。ずっとやってればいいじゃん」
私はムカついて、愛華のもとから走って離れた。
「あ、ちょっと、莉緒ー」
後ろから愛華が声をかけていたが、振り返らずにそのまま去っていった。
以降、相変わらず翔子たちに下手に出る愛華を、私は黙って遠くから眺めた。
愛華は自分が冷たくされる正当な訳があるはずと思い込んで、良く言えば健気に、へりくだり続けたのだ。
そのうち図に乗った翔子たちが愛華をいじめだす雰囲気がプンプンしていた。
「ねえ? なんで?」
「私、何か悪いことした? 教えて。直すから」
はっと、私は目を覚ました。
「夢か」
ほっとした。
今の愛華の姿は、小学生のときの私と重なる。感情の細かい部分、特に妬みとか苛立ちとかネガティブなものが理解できず、どうして自分が悪く言われたりするのかがさっぱりわからない。
それで、必死にすり寄って、火に油を注ぐことになって、余計に嫌われて。
結果、現在の「近づくなオーラを出している」とよく指摘される振る舞い方になったのだ。
愛華に、やっぱり今の態度をやめさせることにした。私と同じ思いをさせたくないし、いじめになったら阻止するのは容易ではないだろう。
自宅が学校に近いあのコは、登校してくるのが毎日早い。翔子たちが来る前に言って、下手に出るのを改めさせよう。
そう考え、電車通学の私は、最寄り駅に着くと、学校までダッシュした。
「愛華!」
予想通りすでに教室にいた彼女のところに、そのまま向かった。
「どうしたの? 息が上がってるけど」
愛華は驚いた様子で私にしゃべった。
「翔子たちとのことだけど」
「ああ、うん」
ん?
なぜか愛華は微笑んだ。
「おはよー」
やばい、翔子だ。
翔子も、本人の席ではなく、こっちにやってきた。
「愛華。今日、大丈夫だから、帰りね」
彼女も笑顔で、愛華にそのように話しかけて、自らの机へと離れていった。
「あれ?」
私が、仲が良くなった感じの二人に、違和感の声を漏らすと、それに気づいて愛華は言った。
「翔子ちゃん、許してくれたんだ」
「許した?」
「うん。思った通り、私が無自覚に傷つけちゃってたのをね、謝り続けたら」
……許すも何も、おそらく、いや、絶対に、愛華はひどいことなんて言ったりやったりしていない。きっと翔子は冷たくするよりも仲良くしたほうが男子との関係で得策とでも考えたに違いない。
「それで、何なの? 帰りって」
「『今度、学校が終わってから、駅前のモールで遊ぼう』って話になってたの。莉緒も来る?」
……。
「行かないよ、そんなの」
私は愛華にプイッと背を向けて、自分の席へ移動した。
都合よく利用されるだけなのに、どうしてわかんないんだろう。もうやってらんない。




