エピローグ・限定的な情報と ~生きることを諦めさせない~
終 章
エピローグ・限定的な情報と ~生きることを諦めさせない~
月の半ばに差し掛かったその日。
主神殿・医務殿内にある実技棟で、呪いの検証が行われることになった。
「そうは言っても、すでに何度か起きていて、いくつかのデータはあるんだがな……」
溜め息混じりに手元の記録書類を見ながら言うシリウムの他に、大神官であるチェスパスも医呪神官としてこの場に呼ばれている。
後は、被験者であるインスとアインはもちろんのこと、二人に付くことが内定している護衛官が二人。
いや、アインに付く神殿護衛官はクロードなので、皇孫皇女の専属護衛騎士団の一員としても、また地の神剣の誓約者としても皇女の極秘討伐隊としての同行は決定している。
だから内定しているのはもう一人の方。
インスに付く皇宮護衛官は、実力や年齢的なもの、また合わせて国家機密の関係から候補は一人に絞られていた。
その、内定している皇宮護衛官であるステール=ベルンは、聖皇国最強と呼び名の高い騎兵団を擁する辺境伯家の寄子家の出身。
元々、インスの担当として割り振られることも多く、うっかり神剣に関する話を皇孫皇女であるジャンヌ本人の口から聞いてしまったこともあって、今回も白羽の矢が立った。
何というか、本来なら関わらずにいられたはずなのに、うっかり聞かされている事実があるため、なら全部共有しよう、と言うことでどっぷりと国家機密に絡みとられそうになっているのは……ご愁傷さまと言うしかないだろう。
「ただ、すべてお前たちの体内で魔力が動いた時のデータでしかない」
顔を上げ、視線を向けてきたシリウムに対して、インスはこくりと頷く。
流石にインスは普段通りの様子。
だが、アインは隠しきれない緊張と不安を浮かべて、時折左目を擦りながらもギュッと、インスに抱き着いている。
「……そうですね。私も、アイン君も、感情の乱れで体内の魔力が反応してしまうことは、流石にどうすることもできません……」
そんなアインの肩を抱いて、宥めるように軽く叩いて、眼を擦る手をやんわり止めて静かにインスは言うが、二人ともその制御能力は他の追随を許さない。
確かに、本来魔力と言うものは常に動き続け、形を変え続けている力。
人の体内にあっても、血の巡りと同じように身体中を自然に巡り続けていて、停止していることなどない。
けれど、明確に魔力が動く時がある。
それが、魔法を使う時と、感情の乱れに引きずられた時。
魔法を使う時は当然。
自身の魔力を用いて、力を借りたい対象に働きかけ、魔法の形を作ってもらい、望む効果を得るのだから、明確に魔力を動かすことになる。
対して、感情の乱れに引きずられた時、というのは、ある程度制御が可能。
感情と、魔力の動きとを切り離し、押さえ込むことが出来さえすれば、どれほど感情を乱しても魔力は動かない。
そもそも、身体の外に出してもいないのだから、内側で押さえ込むこと自体は不可能ではない。
ただ、そうは言っても、魔力は精神との結びつきが深く、完全に感情と切り離すことも不可能。
だからある程度の制御が可能なだけで、押さえ込み続けることもできない。
もし、そんなことが可能な状態になっていたら、それは心が壊れてしまっているということ。
感情という機能が喪失し、ただの手順として魔法を使うだけの人形だ。
「そうだな……そして、その際に酷い苦痛に襲われることになり、場合によっては内臓系へのダメージとして現れる……特に病巣等があるわけではないが、程度の差はあれど損傷自体が発生する、ということだ……その場合、回復魔法による治療や内服薬等での回復促進などは有効だ」
重々しく言うシリウムはアインに視線を向け、びくりと肩を震わせたアインは不安そうにシリウムを見上げる。
「……そうは言っても、回復魔法は患者の治癒力を活性化させ、怪我や病気の治りを助ける魔法……インスの治療にアインが回復魔法をかけたところで……場合によっては意味をなさない……」
小さな怪我はもちろん、大きな怪我や病気の場合も、アインがインスに魔法をかければ、表面的には癒せても、治療する端から呪いの効果で負傷する可能性。
「応急手当ぐらいは、騎士団でも必修技能だから問題はないだろう……だが、それ以上や、薬学等に関する知識や技術を習得している者がいない」
考えれば考えるほど、詰んでいる。
聞くうちに、そのことが分かったのだろう、クロードやステールの顔に……どちらも無表情ではあったが……隠し切れない驚愕の色が覗く。
いや、ステールの方は驚愕というよりも絶望か……
「いえ、流石に、専門家ほどではありませんが、多少の医学の心得くらいはありますよ?」
「「……は……?」」
しかし、そこであっさりと口を挟んだインスの言葉に絶句する。
シリウムとチェスパスは思わず声を漏らし、クロードとステールも目を見開いてインスを見た。
「……すごい……」
そして、吐息のような声で呟き、純粋に尊敬の眼差しで見上げるアインが眩しい。
「……ちなみに、どこで?」
「幼いころに育てて下さった方から?」
眉間を揉んで確認したチェスパスに、にこりと笑って首を傾げたインスの返事にやっぱりか……と溜め息を漏らす。
「……教皇猊下は、医呪神官ではないはずだが……?」
「……教皇猊下は神官呪師が学べるすべてを網羅しておられる……当然、医呪神官の知識や技術もお持ちだ……」
難しい顔で腕を組み、呟いたシリウムに対し、若干疲れた様子で言うチェスパスの説明に驚く。
「……まさか、ラント呪師に、しかも就学前に教えているとは思わなかったがな……」
「医学と薬学は必要に迫られたからにすぎません。それに、魔法を教えられたわけではありませんよ?」
溜め息混じりのチェスパスに、念のためとインスが言えば、それはそうだろうと頷き返す。
「神官呪師ではない医師や薬師も当然いるのだから、そういった者らが学ぶ内容を教えることに、法的問題はない」
問題はないが、恐らく年齢一桁の時点で教えられていたということなのだから、教えた方も学んだ方も常軌を逸している。
「……ただ、なにぶん、実践経験が少ないもので……」
しかし、問題は別にある。
基本的な知識や技術を学んでいても、それを使う場面がなければ上達はしない。
幼いころに技術の習得のために多少はさせられたが、圧倒的に場数が少ない。
ましてや、実践的な場面で行ったことも殆どなかった。
「それでも、基礎は修めているわけだな? よし、出発までに叩き込む」
「……は……?」
ふむ、と一つ頷いたシリウムの言葉に、インスは目を丸くする。
「ついでだ、許可を得てからにはなるが、アインにも基礎を教える。本来なら、十五歳の実践訓練以降に医学を専攻した者が学ぶ内容だが……」
こうなれば、生存率を高めるためには必須だろう。
重々しく告げたシリウムの視線を受けて、びくりと震えたアインは……
「……はい……頑張ります……」
けれど、こくりと素直に頷く。
様子に、他の者らが微かに眉を顰めるが、止めることもできない。
シリウムの言う通り、生存率を、生還するための方法を、少しでも増やさなければ……
(((……最悪、途中で全滅する……)))
そのことを、インスも、クロードとステールも、そして上層部の者たちもよく理解していた。
「姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~」番外編・聖皇国列伝秘聞・第9弾
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞⑨~国家の虚構に喪失の玉露を~ (完)
これにて、『皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞』第9弾「国家の虚構に喪失の玉露を」、完結です!
これから行われる「呪いの検証」に向けた確認が行われ、インスが「医学の知識」を持っていることが明かされました。
更に、許可が出てからにはなりますが、これからアインも学ぶことになる予定です。
絶望の淵から生還したばかりの二人。
彼らに課せられた呪いの重さと、逃れられない討伐隊への同行という未来は、未だ重くのしかかっていますが、これらの知識が二人を少しだけでも支えてくれることを願わずにはいられません。
この第9弾は非常に重い物語だったかと思いますが、最後まで彼らを見捨てずに見守ってくださり、本当にありがとうございました。
しかし、休む間もなく彼らの過酷な日々は続きます。
明日からは番外編第10弾が開始です!
本編再開前の最後の番外編1日2回の連続投稿となります。
引き続きお付き合いいただけますと幸いです!!
【ミニコラム掲載中!】
活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
【読者の皆様へのお願い】
「呪いの仕様が鬼畜……!」「ちょっ!?無茶ぶりがすぎる!」「不憫がすぎる~(´;ω;`)……少しは休ませてあげて!!」と、彼らの詰みすぎている無理ゲー状況に思わずツッコミを入れつつ心配になってしまった方は、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をお願いいたします!
皆様からの応援が、絶望的な旅の準備(?)に挑む彼らが生き残るための力(と作者の大きな励み)になります!
また明日からもどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト
引き続きお付き合いいただけますと幸いです!!
※番外編シリーズはこちら!
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※本編シリーズはこちら!
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