第17話 探り
もともとランク外で、誰からも厄介者扱いされているシュウは、特定の部隊に所属しているということはなかったが、それでもカバネバミに入隊するということで、色々と手続きは必要だった。
そして、一番厄介なのは、ヘイユンだ。彼女はあくまでも中国支部から派遣されてきた身であり、所属変更とはいかない。中国支部の正式な許可を得て、日本の東京本部のカバネバミ部隊に駐在する、という形で事務処理をしなければならなかった。
ヘイユンと龍花が、その手続きのために四苦八苦している間、シュウは応接ソファに座らされて、竜之介とエレナの相手をさせられている。
「俺達が『寄生虫』と呼ばれているのは、知ってるだろ」
「ええ、まあ……」
「その由来を聞いたことはあるか」
「さあ。弱ったゴーストを横からかっさらうから、ですか?」
「ちげーよ。俺の名字は蜷川。このエレナは蛇村。リオは虹崎。全員、名字に虫偏が入っている。だから、『寄生虫』」
「はあ……」
「死んだ二人は特に名字に虫は入ってなかったんだけどな。かわいそうに、俺達目立つ三人組が全員虫偏の名字なもんだから、十把一絡げに寄生虫呼ばわりされていた」
「そう、ですか」
としか返しようがない。竜之介の話の行方が見えないので、どう答えるのが正解かシュウにはわからない。
「俺から話せることはただ一つ。お前もまたこれから『寄生虫』と呼ばれるのを覚悟しろよ。そして、ランク外のお前は、そんな『寄生虫』部隊にさらに寄生する役立たずであるってことも自覚しておけ」
「二つ」
横からエレナが割り込んできた。
相変わらず、スマホゲームに夢中になっていて、自分がどれだけ無防備な姿勢を取っているか、無頓着である。ソファに体育座りする形になっているため、スカートの下のパンツが丸見えになっている。シュウは目のやり場に困り、エレナが何か声を発しても、彼女のほうを見ることが出来ない。
「あ? 二つって、なんだ?」
竜之介は怪訝そうにエレナのことを見た。
「隊長がドヤって『俺から話せることはただ一つ』って言ってたのに、結局、二つのことを話しているから、二つ」
「おお、そうか。なるほど。確かに二つだ」
ハハハ、と竜之介は声を出して笑った。
「ねーねー、ちょっと質問してもい~い?」
エレナはゲームを中断して、スマホから顔を上げて、シュウを見てきた。その瞳はキラキラ輝いており、かなり興味津々な様子だ。
「シュウって、ランク外の無能力なんでしょ。どうやって、ゴーストと戦ってるの?」
いきなり呼び捨てか、とシュウは苦笑しつつ、自分と同年齢のエレナに親しく接してもらえるのは悪い気はせず、少しばかり饒舌になって、これまでの戦い方について話をし始めた。
「基本は体術と、あと、この桃木剣を使って戦っている。俺には宝貝は使いこなせないけど、それでも多少の霊力は備わっているのか、ゴースト相手に効果はあるんで。戦い方は、独学で覚えた感じかな」
「よく生き残れたよね、そんなんで」
「一回だけ、大怪我負ったことあるけど、その時は何とか救護部隊に助けられて、生き延びたんだ。でも、俺はあんまり無茶はしないから。N級ゴースト、それも、まだ瘴気が実体を伴う頃合いを見計らって戦うんで、危険は少ないほうだと思う」
ゴーストは、冥界からやって来る。それは一般人でも知っている当たり前の事実であるが、さらにゴーストハンターだけが理解しているゴーストの仕組みがある。
冥界から来た直後は、どのゴーストも実体を伴わない。みな、瘴気の状態からスタートする。そこから徐々に実体化し、最終的にN級~UR級のいずれかに確定する。
瘴気の状態は、銃や剣による攻撃は効かないが、道術や宝貝ならダメージを与えられる。そこで退治しておけば、厄介なSR級以上のゴーストでも、簡単に倒せる。だが、そうは簡単に行かない。いまだ、ゴーストハンター達は、瘴気の状態のゴーストを検知するシステムを確立していないからだ。実体化してからでないと発見できない。
ともあれ、シュウがこれまでに倒してきたのは、ほとんどが瘴気状態のゴーストか、あるいはN級のゴーストである。
「ふぅん、なるほど、なるほど。戦法としては、けっこう私達と相性いいかもね」
「そう、ですか?」
「そーだよぉ。何も、無理してつよつよの状態のゴーストと真っ向勝負する必要ないもんね。私達は弱っているゴーストを叩く。君はまだ弱い状態のゴーストを叩く。前か、後か、の違いだけで、戦い方は似たようなもんでしょ」
「確かに……そうかもしれないですね」
「あ、そうそう。敬語やめてね。せっかくの同い年なんだから。タメ口でいーよ」
「はあ」
そんなことを言われても、気が引けてしまう。相手は忌み嫌われているカバネバミの隊員とは言っても、それでもランクはB。ランク外の自分よりずっと格上の存在だ。
しかも……一説によると、カバネバミは戦い方が意地汚いだけで、実は本気を出して戦ったら全員Sランク相当の実力を持っているのではないか、という話もある。もちろん、その真逆、BランクどころかEランク程度の実力しか無いから、弱ったゴーストばかりを狩っているんだろう、という噂もあるけれど。
「なあ、八ツ神。先に聞いておくが――お前、隠し事はないだろうな」
「え?」
ドキッとした。竜之介の質問は、唐突でありつつ、的確に自分の急所を突いてくるものだ。
「これから俺達はチームとして動く。そこで、隠し事があるようだと、任務に支障をきたす。自分自身の能力について、話せることがあるなら、今のうちに全部話しておけ。どうだ? 何か言うことはないか?」
試すような眼差し。ジッ、と真正面から、竜之介は見つめてくる。ついでにエレナもまた、シュウのことを注視している。よく見れば、窓際でぼんやりと東京の絶景を眺めていたはずのリオも、いつの間にかこっちに顔を向けている。
「……何も、特別な能力はありません。俺は、ランク外ですから」
途端に、三人の発する気質が、異様なものへと変化した。
これまでは、それなりに客として迎え入れていた雰囲気はあったが、それが、一気に冷めたような気配だ。
まるで、自分のことをモノのように見ている。
得体の知れない不気味さを感じて、シュウは思わず誰とも目を合わせないように、わざとらしく手続き中のヘイユンの方へと顔を向けた。
「よし! じゃあ、まあ、話の続きは歓迎会でもしながら聞くか! リオ、ビールとつまみを用意してくれ!」
いつの間にか、元の様子に戻った竜之介は、パンッと手を叩いて、快活な声を上げた。エレナとリオも、一瞬見せた冷たい空気感は消し去っており、ニコニコと笑っている。
さっきの異様な気配は何だったのだろうか。
シュウは若干の不安を抱きつつも、とりあえず歓迎会を開いてくれるとのことなので、今はそのムードに乗っかるか、と思った。
「あのさあ、私、まだ手続き中なんだけど」
ヘイユンが文句を言ったが、竜之介達三人は、みんな彼女の声を無視していた。




