第2話 世界で唯一のランクを持つハンター
もう出発の時間なのに、まだ来ていないハンターが一人いて出発できずにいた。
リーダーの成剛祐は暗い顔で時計を見ながら、まだ来ていないメンバーがいつ来るのか心配していた。
「ところで、連盟からフリーランスハンターを一人つけるって言ってたけど、いつ来るんだ?」
ハンターたちは連盟に加盟しているが、ギルドに雇われていない者をフリーランスと呼んでいた。
ギルドに所属しない理由は、一人が好きな者や、特別な特技がないなど様々だった。
連盟はフリーランスハンターにも仕事ができるようにギルドとの橋渡しをしていて、今回のレイドで急な欠員が出たため、連盟の紹介でフリーランスハンターが来ることになっていた。
「おや!これは誰だ?!成さんじゃないか?」
突然後ろから聞こえた声に、成剛祐とパーティーメンバーが振り返ると、そこには今回合流するフリーランスハンターがいた。
「おお?!君は朴赫洙じゃないか?ここで何をしているんだ、もうこんな危険な仕事はやめるって言ってなかったか?」
「ははは!嫁さんがもうこんな危険なことはやめて、貯めた金で店を開こうって言ってやめたんだ。でも、うち夫婦の経営能力がダメで、店は大失敗。借金を返さなきゃいけなくなってな。ははは!」
「ははは!借金返すって言いながら笑う奴は初めてだよ。とにかくよく来た。君みたいな実力者と一緒なら今回のレイドは簡単に成功しそうだな。」
「俺も復帰戦を成さんと一緒にできて、この上ない幸運だよ。」
長い付き合いのガヌと朴赫洙は肩を組み、仲間のところへ向かった。
今回のレイドのために結成されたパーティーは、成剛祐をリーダーに、6人が集まっていた。
Bランクの魔法使い成剛祐と同じBランクのヒーラー、韓智慧、Cランクのタンク、安益賢、Cランクの戦士任柱赫、Dランクの盗賊咸弼成。
彼らは皆銀の騎士団に所属するハンターで、巨大ギルドらしくパーティーメンバーの顔ぶれは華やかだった。
朴赫洙は店を開いたものの数億の借金を抱え、返済のためハンターの世界に戻ってきた。
初めて見た成剛祐率いる精鋭メンバーのパーティーを見て、このレイドは簡単に達成できて大金も稼げそうだと期待していた。
パーティーメンバーと挨拶していると…
「おや?!あいつは…」
最後尾にいる都賢秀を見つけ、顔をしかめた。
「兄さん、まだあんな能力もない吸血虫みたいなやつを連れてるのか?」
ハンターをやめる前に同じパーティーでレイドをしたこともあり、都賢秀をよく知る朴赫洙は彼をけなしたが、成剛祐はそれをたしなめた。
「人に吸血虫だなんて言うな、かわいそうなやつじゃないか。」
「兄さんは人がよすぎるよ。都賢秀は世界で唯一のランクを持つやつだぞ。」
世界で唯一のランクというわけのわからない言葉に文句を言う朴赫洙を見て、他のパーティーメンバーも皆同じ考えのようで、顔には不満が溢れていた。
過去25年間、多くの人々が異能を覚醒しハンターとなったが、その能力は皆同じではなかった。
高い能力を持つ者もいれば、低い者もいた。
国連傘下の世界ハンター協会は、ハンターを体系的に管理するため能力を測定する機械を開発し、その能力によりランクを分類した。
最高ランクはS、最低はEまでの6段階に分けられていた。
3年前、このパーティーメンバーたちから不満を受けていた都賢秀にも覚醒の幸運が訪れた。
都賢秀は異能が覚醒したことを知り、ハンターは大金を稼げると聞き、喜んで連盟に行き測定を受けたが、そのランクは…
あまりに低すぎて測定不能だった。
協会は異能を覚醒したことを認め、ランクを与えねばならなかったが、測定不能なほど低い男にEランクを与えると公平性に問題があると考えた。
長い議論の末、決まったのは…Eランクより下のランク、世界でただ一人のランク、Fランクを作り、それを都賢秀のランクとすることだった。
Fランクの都賢秀は見た目はハンターだが、一般人の中で少し運動していた者よりも体力と筋力がほんの少しだけ良いに過ぎなかった。
そのため都賢秀はレイドに参加しても戦闘はできず、増えた体力を活かして荷物持ちを担当していた。
ハンターは命をかけてダンジョンで魔物を討伐し、多くの資源を持ち帰るため、国民から尊敬され、国からも支援されていた。
しかし、一般人同然の能力の都賢秀を見て、市民たちは自分たちの税金で活動費をもらうのはおかしいとSNSで批判し、同じ仲間のハンターからも冷たい目で見られていた。
特に何も悪くないのに非難される都賢秀は悔しくて、協会の登録を抹消してハンターをやめたいと思うことが何度もあったが、やめられなかった理由があった。
嫌な思いをしてもレイドに参加できなくなるのは困るので、パーティーメンバーの冷たい視線にも卑屈に手を擦りながら愛想を振りまいていた。
「お、お久しぶりです、朴さん…お元気でしたか?今日も兄さんの射手の腕に期待してます…」
都賢秀がヘラヘラ笑ってバカっぽく挨拶しても、朴赫洙は彼を気にもせずパーティーリーダーの成剛祐に文句を言い続けた。
「戦闘に参加もできないやつを連れて行って俺の分が減るのは反対だ。あいつは連れて行くな。」
朴赫洙の言葉に、成剛祐はため息をついた。
「都賢秀の分って言っても低級魔力石一つ分に過ぎないだろ。」
「それでも働かないやつに金をやるのは同じだろう!」
成剛祐は都賢秀の仕事がないことを否定もせず、取り分も多くないのに文句を言わない優しい青年だと思っていた。
しかし朴赫洙の目には都賢秀は何もせず魔力石一つだけもらう機会主義者に見え、他のパーティーメンバーも同意していた。
ただ一人を除いて…
「やめなさい!これからダンジョンに行く仲間同士でそんなことを言い合うなんてどういうことですか!」
ヒーラーの韓智慧だけが都賢秀をかばっていた。
パーティーメンバーの紅一点でありヒーラーの韓智慧がかばうと、不満を言っていた者たちは黙った。
傷を癒すヒーラーはレイド中、パーティーメンバーの命を預かる存在なので、ヒーラーの目に敵意を持つとレイドをうまくやれなかった。
加えてパーティーリーダーの成剛祐も…
「そうだ、頑張ろうとしている若者にあまりひどく言うな。そして賢秀を連れて行かないなら荷物はお前が持つんだぞ?」
「パーティーメンバーの荷物は誰が持つんだ?」という成剛祐の問いに、パーティーメンバーはまた口を閉ざした。
都賢秀は能力が低すぎて戦闘に参加できない存在だが、意外にも需要は多かった。
一度ダンジョンに入ると短くて一日、長ければ数日間滞在するため持ち運ぶ荷物も多い。
基本的に自分の荷物は自分で持つのがハンターの暗黙のルールだが、レイドは危険な魔物との戦いなので疲れている上に重い荷物も持たなければならず、荷物はすべてのハンターの悩みでもあった。
一方都賢秀は能力は低いがハンターなので、ダンジョン内では筋力と体力が向上し、100kg以上の荷物も楽に持ち上げられた。
そのため都賢秀を荷物持ちに雇えばキャンプ用品や食料をすべて任せられ、自分たちは戦闘に必要な物だけ持てるので、戦闘により集中できた。
しかも都賢秀が欲しいのは魔力石一つだけなので、多くのパーティーが都賢秀を連れて行こうと列を作るほどだった。
戦闘ができない都賢秀の生き残り戦略だった。
朴赫洙は成剛祐の言葉に口を閉ざした。
自分は射手なので矢を多く持たなければならず、他のメンバーより戦闘に必要な荷物が多いが、都賢秀が荷物を持ってくれれば楽なのは事実だった。
「ええい、わかったよ…」
朴赫洙がため息をつき退いたことで、都賢秀のパーティー合流が決まった。
今回のレイドに参加できないのではと不安だった都賢秀は、同行できることになり安堵の息を漏らした。
「ありがとうございます、赫洙兄さん。俺、がんばります…!」
感謝していたが、朴赫洙は聞くことなく去り、都賢秀は気まずそうに口をもごもごさせていた。
「彼はあの有名な『脳撃の射手』朴赫洙ハンターですよね?」
韓智慧は最後まで根に持つ朴赫洙を失望の目で見つめながら近づいてきた。
「見るのは今日が初めてだけど、人柄は噂とは違いますね。」
韓智慧は普通の会社員だったが、去年異能を覚醒し審査を受けた新米ハンターだった。
ハンターの冒険譚を聞いて育ち、ハンターは心の英雄で、自分も有名なハンターと会うのを期待していたが、実際会ってみると第一印象が良くない者が多く、かなり失望していた。
「ヒョンスさんもそうです。どうして他人の不当な扱いに抗議しないんですか?」
韓智慧は都賢秀も情けなく見え、一言言ったが、都賢秀は相変わらずヘラヘラ笑い頭をかいていた。
「俺がレイドの役に立たないのは事実ですから。」
韓智慧は軍人の父の元で育ち、兄弟も皆軍人なので「男は皆強く気概があるべきだ」という少し古臭い考えを持つ女性だった。
だから都賢秀と仕事をするのは今回で3回目だが、この気概のない姿勢が気に入らず、見るたびに小言を言っていた。
「いや!男がそんなことで…!」
「もちろん俺もプライドが傷つくことは何度もあるけど…仕方ないよ。妹の入院費のために頑張らなきゃ。」
またプライドのない言葉を言う都賢秀を見て小言を言おうとしたが、妹の入院費の話に何があったのか気になった。
「俺の妹は今、マナ総合病院に入院してるんです。」
「ああ!」
妹がマナ総合病院に入院していることを聞き、韓智慧はすぐに都賢秀の事情を理解し、口をつぐんだ。