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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
夢と旅路
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55/105

応えるは信頼

「どうやって…!?」


 何事もなかったかのように起き上がるニアへ、男は言葉を漏らしていた。


 そんな男へ、ニアはわざとらしく笑いかける。


「理解できないって顔だな。だがまぁ起きたんだから理解するしかない訳だが」


 その時、男はニアの姿に妙な違和感を抱く。

 全身には傷があり、頭部も変わらずついている。


 一見すれば、何もおかしくはない光景。

 だが、訴え続ける違和感に、男はニアの体を見まわしたことによりようやく答えへと辿り着く。


「…あなた…どうやって手枷を?」


「なに、お前が俺の上に考えなしに乗っけてくれたおかげだよ。腕まで切れるかと思ってひやひやしたけどな」


 ニアの両腕を繋いでいた枷は、いつの間にか消えていた。

 代わりにそれは、先ほど傀儡がニアへと乗り掛かった地点に横たわっている。


 男は目を見開く。


 その光景を見たニアは、やがてわざとらしく手に持った桜月から刀身を引き出してみせる。


 光り輝く刃が、男は存在を知らせる。

 刹那、男は理解する。


「…まさか…!!」

 

「ご名答…とはいっても、もうほとんど答えだけどな」


「命を賭けた土壇場で、斬ったとでも…!?失敗すれば命を落とす、そんな状況の中で…!!いや、先程の言葉…あなたまさか…!!」


 言葉を無視し、ニアは桜月を腰へとかけていく。


「何故…では何故、お前は死んでいない!?耐えられるはずなどない!あの人数を、お前のような小さき者の体で!」


「あぁ、耐えてないさ。でも一つだけ言うとすれば…そうだな、あの乗り掛かりは確かに厄介だが対策が不可能ってわけじゃない」


「何…!?」


「そんなに知りたいなら教えてやるよ」


 ニアの上に乗り掛かった傀儡の数は、10を超えていた。


 それほどの数に乗り掛かられて、何故生きているのか。

 その答えは、ひどく単純なものだった。


「ただ1人、意識を失わせた…ただそれだけだ。もし土台になってる奴の1人でも気を失えば、そいつは上に乗っていた奴らを巻き込んで勝手に崩れ落ちていく。…あいにく、考えなしに乗り掛からせてたお前の視点からじゃ、そんなことに気づく事もできない訳だ」


「そんな馬鹿げた方法で…!」


 牢に捕えられている間、ずっと考えていた。


 1度目の戦闘。

 ウミを逃した際、傀儡は誰1人としてウミの方へ意識を割かなかった。


 そこにニアは、ある確信を得ていた。


ーー標的…即ち、命令された人物以外に、意識は割けない…!!

 


 その確信の通り、意識を失った傀儡は崩れるように滑り落ちていった。

 積み上がる他の傀儡達を巻き込み、乗り掛かられたニアが耐えられるほどまでに。


 その違和感は、ただ見ていただけの男には決して分からない。

 

「お前の天啓は思考を読む…いや、掻き乱す…?類のものかと思ってたんだが…どうやら違ったみたいだな」

 

「…っ」


 男を見据えながら、ニアは静かに呟く。


 先程から、男はニアの思考を完全に読めていない。


 天啓の発動に回数条件があるのか、別の要因が関係しているのかは分からなかった。

 それでも、男の天啓が不完全になったという、その確証さえあればよかった。


 歩み寄るニアとは対に、男は足を引き下げていく。

 辺りを囲う傀儡は、もはやニアの目には映っていない。


 逃走を図る男の元へ、ニアは大きく一歩を踏み出し——、

 


「「…!?」」


 直後、音を立てて揺れた草木に、ニアは踏み出した足を引き下げる。

 男もまた音の立った方へと視線を向けている。


 ほどなくして、人影が茂みから現れた。


「ニア!」


「にあ!!」


「ウミ…それにオーゼンまで、なんでここに!?」

 

 いるはずのない人物の姿。

 それに、ニアは驚愕の声を漏らしてしまう。


 茂みから顔を覗かせた二つの人影は、瞬く間にその場の注意を攫っていく。

 

 瞬間、呆気に取られるニアへ、オーゼンはわざとらしく指差すと、


「ここは頼んだ、本体は俺たちが叩く!」


「たたく!」


 笑顔と共に放たれた、緊迫した状況を壊すような、明るい声色。


 肩の力が抜けるのを感じる。

 だからこそ、こちらもまた笑ってみせると、


「あぁ、了解した。こっちは任せろ」


「っ、あの者達を追いなさい!」


 二つの影が、茂みの中へと消えていく。


 途端、男は旋律と共に、傀儡へと命令を飛ばす。

 だが、その道中にニアが立ち塞がった。


「悪いな、舞踏会はまだ開演途中だ」


「貴様…っ!!」


 立ち塞がるその様子は、どこか楽しげだった。


 地獄は未だ健在。

 逃げることも、放棄することも許されない。


 なら、するべきことは決まっていた。

 ニアは周囲をぐるりと見まわし、再び男へと目をやると、


「時間稼ぎ、きっちりやらせてもらう」


 その表情には、笑みが浮かべられていた。

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