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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
夢と旅路
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ただの決意

 同時刻。

 ニアが捕えられている牢獄とはまた別の牢獄。


「…俺は間違ってたのかな」


 冷たい地面に横たわったオーゼンは、ふとそんな言葉を呟いていた。

 反響音は、その空間の中にオーゼン以外に人がいないことを知らしめる。


 その事実に、オーゼンの瞳は影を得る。


 しかし、これから自身が処刑されるのだと聞かされても、特に恐怖は感じなかった。

 実感がないからか。

 あるいは、そうなっても仕方がないと心のどこかで理解していたからか。


 だが、オーゼンを苦しめていたのは、それとはまた別の要因だった。


 自身の行動に対し、絶えることなく沸き続ける自責の言葉。

 自身が命をかけるほどではなかったのではないか。

 そんな言葉が聞こえない人声の代わりに脳裏を埋め尽くす。


 ——砕いて言ってしまえば、後悔の念。


 変わらない現実を突きつけるように、思考はオーゼンの体をさらに凍りつかせる。

 

 瞳を閉じる。

 軽く深呼吸を繰り返し、少しでも後悔を和らげるように全身の力を抜き、

 

「——いた」


「…?」


 聞き間違いかと思うほどの微かな声が、耳元を掠めた。


 だが、咄嗟に顔を上げても、そこに人の姿はない。

 その状況に、オーゼンは遂に幻聴が聞こえるまでに追い詰められてしまったのかと笑みをこぼす。


「…ははっ、誰もいないに決まっ——」

 

「…おーぜん、いきてる?」


「…!!」


 鮮明に聞こえてきた、聞き覚えのある声。

 オーゼンは、ようやくそれが幻聴でないことを確信する。

 

 変わらず辺りに人の姿はない。

 誰もいない空間から響く声に、驚きを通り越して困惑を抱いてしまう。


「えっと…嬢ちゃんか?」


「よかった、おーぜんいきてる」


「そんな簡単に死ぬほどやわじゃないんだけど…、あ、ちょっと待っててくれ」


 苦笑を浮かべたオーゼン。

 思い出したように檻の外へと顔を覗かせる。


 そうして改めて周囲に人の気配がないことを確認すると、安堵の息を吐く。

 

「それで、嬢ちゃんはなんでここに?てか何処にいるんだ?」


「…うしろ、うえ」


「は?うぉぉ、!!…っ!!」


「…おーぜんびびり?」


「俺からみたら生首が生えてるようにしか見えないんだから驚くのが妥当だと思うんだけど…」


 ウミのいう通りに視線を動かしていく。

 だが、やがてその目に映ったのは長い髪を垂らしながらこちらを見つめるウミの姿だった。


 一見すれば、生首が垂れているように見える光景。

 オーゼンは胸を抑えながら、目に浮かんだ涙を誤魔化すように問いかける。


「…それで、なんでここにいるんだ?ニアは無事か?」


「にあ…つかまった」


 短い沈黙ののちに告げられた言葉。

 オーゼンは微かに目を見開き、やがて微かに拳を震わせる。


 ウミが1人で現れたことからも、その可能性はよぎっていた。

 ニアの性格からしても、きっと自分を犠牲にしてウミを逃すということに、なんの躊躇いもないだろう。

 

 自責の念が胸を締め付ける。


「…そうか、すまないな。俺のせいで」


 その言葉を、ウミは否定も肯定もしない。


 数秒にも満たない沈黙。

 それは、オーゼンの後悔をさらに加速させ——、


「——まかされた」


「…?」


 静寂を破るように、ウミもまたポツリと呟いた。

 その言葉に、オーゼンは無意識に瞳をウミへと向けていた。

 

 気づけば、ウミの姿は消えていた。

 代わりにそこには、少女であればギリギリ抜けられるかという、小さな穴が空いていた。


 それは、不思議と先ほどまで気づかなかったもの。


「にあに、おーぜんのことまかされた」


「ニアに…?」


 その言葉に、胸の奥が熱くなる。

 

「そう、だからたすける。おーぜんたすけて、にあもたすける」


 か弱い少女の言葉。

 そこには、迷うことのない覚悟が見えた。


 そうしてオーゼンは、やがてその表情に笑みを浮かべる。

 力の抜けてしまった拳を、再び握りしめる。


「…そうだな、あぁそうだ。手を貸してくれ、嬢ちゃん」


「がってん」


 そこにはもはや、独りよがりに死を受け入れていたオーゼンの姿はない。


「助けに行こう、ニアを」


 囚われの少年は、小さな少女の言葉に再び立ち上がった。

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