プロローグ『君の終わり』
人々の叫び声だけが聞こえていた。
目の前で人が死んだ、それも一人や二人ではない。
どうしてこうなったのだろう。
惨状を理解できていない脳をフル回転させて男は何がいけなかったのかと自らへ問う。
だが答えは見つからなかった。何故ならこの国を滅ぼしたのはこの世界のものではなかったからだ。
我々がどうしようと、この惨状は間逃れようがなかったのだと。
生き残ったのは2人だけだった。男は傷だらけになりながらもう1人の少女を必死に守り抜いたのだ。
ーーだが遅すぎた。
「ニア、逃げて…」
傷だらけの少女にはもう力が残っていなかった。
少女の体は腹のあたりを深く抉られており、誰が見てももう手遅れだとわかってしまう。男もそれを理解していた。
ーーしたくなかった。
自らの死を悟った少女は、掠れた声で自らの願いを託すように、泣きながら自分を抱き抱えている男へ逃げるよう促した。
ーー君を置いて逃げるわけがない。
「だめだ…!だってまだ…まだ俺は何も返せてないんだ」
声を震わせながら少女を抱き抱える男もまた、全身が傷だらけであり、抱きしめる腕ですら、まともに動くことを拒んでいた。
ーー他のみんなは、死んでしまった。
「ねえニア…、私はあなたのことがずっと大好きだったわ」
虚な目で男を呼ぶ彼女は、弱々しい声で愛の言葉を口にした。
ーーその目を、現実を認めたくなかった。
「何言ってるんだ…生きるんだよ、俺たち2人で!これからもずっと!!」
「あなたは本当に、いつまでも変わらないんだから」
力のない笑いを声にし、彼女は薄れゆく意識の中、最後の力を振り絞り声を出した。
ーー会話が最後になると、理解していたから。
「あなたはまだ生きなきゃいけない人。だからお願い、いつか、今よりももっと強くなったら…必ず、私を助けにきて」
「待て!待ってくれ…!だめだ、君を置いてなんて俺は…だめだ!!」
瞬間、男へ激しい眠気と気だるさが押し寄せてきた。だが男はそれが何なのか知っていた。
最愛の人の力。今までに何度も助けられてきた力。
この力のおかげで彼女と出会うことができ、男の人生は始まった。
だが今、その力は終わりに使われる。
「だめだ…」
認めたくなかった、だが認めるしかなかった。
これが彼女との、最後の会話なのだと。
その言葉を最後に、男は気を失った。
ーーその瞬間、一つの国が滅んだ。