そのドッキリ、命がけ
セキュリティなんて気にしている場合じゃない。ナム達は網膜を読み取ったカメラアイがけたたましい警報を鳴らす中、地下のエネルギー制御室を目指した。
追いかけてくる警備員は、全員モカのワイヤーソードの餌食になった。さすがに「男剥き」はしなかったが。
エレベーターはICカードと網膜スキャンの二重ロックで使用できなかった。閉じようとする防御扉を蹴破り階段で地下を目指す。
「・・・くそ!閉じちまった!!」
地下階のエネルギー制御室へ向かう通路はすでに防御壁が作動し、閉ざされていた。
「奴ら、ホントにこのセキュリティかいくぐって爆弾仕掛けたのかよ!?」
「きっと味方がいるんだよ。エベルナの入区管理局の内部に。」
壁を叩くナムの疑問にモカが答えた。
「なるほど、そいつが禿ネズミの地下通路のパスワードも知ってやがったってワケか。・・・ってこれ、どーするよおい!?」
モカが腕時計を見た。あと・・・3分!!
何か打開策を求めて辺りを見回したナムは、はた、と動きを止めた。
これは・・・タバコの匂い!?
「ガキ共、どきなぁ!!!」
耳をつんざくアニメ声より速く、ナムはモカに飛びついて床に伏せた!
重機関銃、しかも回転式多銃砲の前に、頑丈な防御壁は木っ端微塵に吹き飛んだ!
「・・・リーチェ姐さん、ナイス!!」
すかさずナム達は飛び起き、後ろも振り返らずに走り出す。
その後ろ姿を咥えタバコのベアトリーチェが笑顔と共に見送った。
「さぁてと♡、こっちは片づいたからダーリンのお手伝いでもしようかしら♡♡ ・・・でも宇宙空港で機関銃ぶっ放しちゃったらさすがに誰か死んじゃうかな~?ん~、困っちゃう♡♡♡」
重機関銃とは1人ではとても携帯できない大型の機関銃で、回転式の多銃砲ともなればその重量は桁外れである。
それを肩にひょいっと担いだベアトリーチェは、足取りも軽やかに非常階段へ向かって歩き出した。
その怪力は桁外れだった。
エネルギー制御室の爆弾はすぐに見つかった。
AIが管理する無人の室内でロディが放ったスパイ・ビーが羽音を鳴らして旋回していたのは、無数の計器類やモニター画面が瞬く中央司令デスク。
すぐに駆け寄って確認すると、ロビーで見た物とまったく同じものがデスクの裏に貼り付けられていた。
「あったぞレヴィちゃん!どうすりゃいい!?指示をくれ!!」
ナムは通信機に怒鳴った。
「よっしゃ、先ずは貼り付けられとった時、上になっとった方を開けるんや!」
目の前で繰り広げられる派手な銃撃戦をよそに、スレヴィが床に置かれたKH時限弾をこじ開けた。
箱いっぱいにみっちりとはめ込まれた白いカプセル状の物体に、切手ほどの大きさの基盤が取付けられている。
「チラチラ光が走っとんの、見えるやろ?真ん中の光が集まっとる大きいヤツを最後に残して、そいつを1個ずつ電磁メスで潰していくんや!・・・って、うぉあぁ!!?」
いつの間にか敵が後ろに回り込んでいた。大型のナイフを逆手に持った武装兵が、スレヴィを襲う!
咄嗟に頭を庇って縮こまったスレヴィの頭上を、「ピンクのハートを抱きしめたクマさん」が飛行した。
バキッッッ!!!
武装兵は折れた自分の歯をまき散らしながら吹っ飛んだ。
「おぉ、ナイスな曲線美!!さすが87cmの大臀筋!!!」
「・・・シンディ、フリフリのワンピース着るのはいいけど、スカート下なんか履いとけって教えただろ?」
「ロディさんお説教は後にして!マルギーこれ以上サイズバラすなー!!!」
見事なソバットを決めたシンディがスカートを翻して次に襲ってきた武装兵にアッパーカットをたたき込む。この非常事態に何かのタガが外れたようで、勇猛に拳を振るう姿がなんだか楽しそうだ。
しかし相手はプロである。シンディのこめかみをアサシンライフルの銃口が狙う!
次の瞬間、火を噴いたライフルの銃声よりも高くこだましたのは、弾が跳弾する金属音。
何故か、ロビー中が静まりかえった。
ロディ達も、逃げ惑う報道陣達も、銃器を構えた武装兵達でさえも、呆然と固まった。
忽然と現れ人々の目線を一振に集めた義腕の巨人が、メタリックブルーの腕を撫でながらにんまり笑った。
「いいパンチするようになってきたじゃねぇか、シンディ。明日から俺がしごいてやろう。」
「え~!!?」シンディはさっきのアッパーカットを後悔した。
「よっしゃ、時間が無ぇ。全員まとめて掛かってこい!」
義腕の巨人、マクシミリアンはロビー中に轟くだみ声で戦闘開始を宣言した。
慣れない手つきで電磁メスを繰り、目を皿のようにして細かい基盤と向き合っていたナムが汗だくの顔を上げた。
「出来たぁ!レヴィちゃん、次は!?」
『よっしゃ、最後は同時に真ん中の光ってる部分を焼き切るんや!3つ数えるから、合わせてや!
・・・3、2、1、そいや!!!』
両手を握り合わせて祈るモカに見守られながら、ナムは電磁メスの刃を基板中央の光に押し当てた。
ジュ!
基板から細く嫌な匂いの煙が上がる。
ナムは爆弾のデジタル画面に目を走らせた。
止まって・・・ない!!?
すでに10秒を切った時間を示す数字は規則正しく値を減らし続けている!!
「レヴィちゃぁぁぁぁぁぁん!止まらねぇぇぇぇぇぇ!!!!」
『アカン!!失敗やー!!!』
通信機の向こうでシンディとマルギーの悲鳴が聞こえた。
「全員、爆弾から放れて伏せろ!!」A・Jが叫んでいるのも聞こえる。
ナムは爆弾をできるだけ遠くへ投げ捨てた。
「モカ、逃げろ!」
「1人じゃイヤ!死ぬなら一緒に!!」
「え、ホント♡・・・じゃなくって!ひぃぃぃぃぃ!!!」
もうどうしていいか分らず、2人はオロオロと手足をバタつかせて混乱した。
ついにタイマーが3秒を切った時、ナムはモカに飛びつき覆い被さるようにして床に伏せた。
死が目前にせまる時、脳裏によぎった面影に思わず内心舌を打つ。
なんで今アイツの顔思い出すんだよ。ぶん殴りたくなるだろ!
ナムはモカを抱きしめ固く目を閉じ歯を食いしばった。
・・・・・・・・・あれ?
そ~っと、目を開ける。
腕の中のモカと目が合った。彼女も呆然と目を見張っている。
爆発、しない???
2人は恐る恐る立ち上がり、床に転がっているKH時限弾に近づいた。
デジタル画面のタイマーは、『00:00:01』。もう動いていなかった。
『・・・驚いたやろ?』 通信機からスレヴィの声がする。
『実はもう止まっとったんや。この爆弾造ったヤツ、万が一解除された時の腹いせにタイマー表示はギリギリまで動くようにプログラムしたんやな。安心しぃや、もう爆発せぇへんで!』
ケタケタと笑うスレヴィの声は、「ふざけてんじゃねぇこのボケナスがぁ!!!」と口汚いアニメ声と打撃音に消し去られてしまった。
ナムはモカを見た。
モカもナムを見つめていた。
2人はしばらくなんとも言えない表情になったお互いの顔を眺めていた。
そして同時に、へなへなと床の上にへたり込んだ。




