屈辱の戦士達
KH時限爆弾、撤去完了!
その吉報はシンディのリストバンド通信機からエベルナ基地で戦う戦士達に届けられた。
「よかった!全員無事か!?」
カルメンがピアスの通信機で応答する。
『大丈夫、みんな無事よ。ナムさんとモカさんはここにいないんだけど、怪我とかはないって。』
元気そうなシンディの声に、険しかったカルメンの表情がようやく和らいだ。
かつてA棟があった場所は完膚なきまでに破壊し尽くされていた。このおかしな「どっかんクッション」がなかったら、弟妹よりも自分達が危なかったに違いない。
「・・・でも、ロディさんのネーミングセンスってやっぱり変だ。」
「そーね。兄貴分の影響かもね。」
フェイのつぶやきに、ビオラが笑顔で答える。壮絶な修羅場から生還を果たしたフェイは、疲れてはいるものの以前のように泣いたり怯えたりしなくなってきている。
修羅場に慣れてきているのね。決していい事ではないのだけど。
ビオラはフェイのまだ小さい肩に手を置きそっと抱き寄せた。
「また助けてくれてありがとな!・・・え~っと、フクシレイカン、様!」
もう1人の子供はタフだった。瓦礫の山を見回す女戦士に元気に駆け寄りお礼を述べる。
シャーロットはまだ険しい顔で周囲を警戒していたが、途端に優しい目になった。
「『様』はいらない。コンポン、だったな?お前はもう少し言葉使いを勉強しなさい。」
「勉強嫌いだけど、オバちゃんがそう言うならやってみるよ。大事なことなんだよな?」
「そうだ。強くなるのと同じくらい大事なことだ。」
・・・これ以上とんでもないことを口走らないうちに、と、すっ飛んできたビオラが無教育天然系の子供を引っ立てていった。
「統括司令副官殿!」代わりにカルメンが駆け寄ってくる。
「バギーを貸して下さい。あいつらを迎えに行かないと!」
シャーロットは再び厳しい表情に戻り、無言で頷いた。
激しい銃撃戦だったが、人的被害は最小限に留めることが出来た。
勝った、と言うのはおこがましい。KH時限弾のリミットが近づき敵方が撤収しなければ危ない所だった。
サムソン・・・。
シャーロットは去って行った旧知の戦士を思い、苦々しい思いを噛みしめる。
彼女はその男がどれほど危険な存在か知っていた。
うち捨てられた採掘場は、再び静寂を取り戻していた。
あちこちに転がった空薬莢と、固い地面に染みこんだどす黒い血の跡が激しい修羅場が有った事を物語っていた。
リュイは敵のステルス機が去って行った方をじっと見据え、佇んでいた。
たった今、敵方の見事な撤収を見届けた所だ。仲間を傷つけた者達をみすみす見逃すのは気が進まなかったが、仕方ない。
今深追いするは危険だ。連邦政府公安局が動き出した。こちらも早々に撤収しなければならない。
リュイは崖の上を見回した。
そして血だまりの中に倒れている1人の戦士の方へと向かう。
力無くうつぶせに横たわる戦士は血まみれで、投げ出された手には無残に折れたトンファの柄を握りしめている。
無言で見下ろし靴先で戦士の頭を軽く小突く。僅かに動いた。まだ生きている。
片手で襟首を掴んで引きずりあげ肩に担ぐと、耳元に戦士の掠れた声が聞こえた。
「・・・すんません・・・局長・・・。」テオヴァルトは自らの失態を恥じ、上官に詫びる。「・・・次は・・・仕留めます・・・!」
リュイは答えなかった。黙ってテオを担いで歩き出す。
テオの手から、使い物にならなくなったトンファが離れて落ち、地面に乾いた音を立てた。
ステルス機は宇宙空間での慣性走行に入った。
『リーベンゾル到着予定時刻は、20時間と16分後です。』ホログラフの四角い画面の中で、中年の女がニッコリと微笑んだ。
『ご気分はいかがですか?ターク様。』
「あぁ、ありがとう。やっと落ち着いたよ。」
上半身を立ち上げたリクライニングベットの上でリーベンゾル・タークが女に微笑み返す。
さっぱりと身を清め清潔な白の検査服に着替えた彼は、もう「それ」ではない。再び穏やかな紳士に変貌していた。
「・・・しかし、首が少々痛い。」
『かしこまりました。お帰りになりましたらすぐ「医師」にみていただくよう手配いたしますわ。』
「ありがとう。ロゼリッタ。」タークは深いタメ息と共に、深々とベットに体を預けた。
「妹に会えたよ。素晴らしい、まったく素晴らしいよ。あの娘は神がこの私に下さった希望、まさに奇跡そのものだ。」
『それはようございましたわね。ターク様。』
「私はあの娘を幸せにするよ、ロゼリッタ。苦労を掛けた分、ずっと手元に置いて慈しんであげよう。そうとも、もう片時も手放さない。心ゆくまで愛し尽くすのだ。
私のものだ、あの娘は私だけのものだ、もう誰にも渡さない私のものだ私のものだ私のものだ・・・!」
次第に激昂していくタークの首に医療ロボットが無針注射器の先端を押し当てた。
ビクン、とタークの体が跳ねた。強ばった体からゆっくりと力が抜けて行く。
『お疲れなのですわ。ターク様。少しお休みあそばせ。』
「そうだね。ロゼリッタ・・・。」
タークは静かに目を閉じた。瞼の裏に怯えて震える少女の面影を見つめながら眠りに落ちる男の口元は、禍々しく歪んでいた。
同じステルス機内の貨物庫では、武装兵達が寝台に寝かされる事も無く呻き苦しんでいた。
全員満身創痍で悲惨な有様だった。しかし目の前に上官が現れると顔を上げ、苦悶の表情を押し隠す。
「無理はするな。みんなよくやった。せめて今は休め。」
サムソンは彼らを見回しねぎらった。
そういう彼自身も、気を抜けば意識が遠のく激痛に耐えている。部下達に弱い姿を見せるわけにはいかないが、立っているのがやっとの状態だった。
肋骨は5,6本折れてるだろうし、右足の甲は踏み砕かれている。
特に利き手はへし折られて血まみれだ。サムソンが折り捨てたテオの右腕のように。
・・・次は、仕留める・・・!!
サムソンは隻眼に壮絶な憎悪を宿し、完璧と称されるバケモノへの復讐を誓った。




