過去へ連れ戻すその笑み
「ちょ、ちょい待ち!!待ってくれ!!!」
ナムは時限弾を持った手を高く上げて喚いた。
Tシャツの裾から般若のバックルが顔を出す。
それを目にしたサムソンが、いささかうんざりした表情になった。
「手を下ろせ。お前は金輪際ホールドアップするな。般若はもうたくさんだ。」
「いや、考える時間くれって!転職するんだったら条件聞いとかないと・・・」
「お前、さっき手に持ってる物見なかったか?そんな時間どこにあるんだ!」
「今いる部隊、仕切ってるヤツがヤベーんだって!
局長が頭のイカれた暴力オヤジで、勝手に抜けるとどんな目に遭わされるかわかんねぇんだよ!」
苛立ち始めたサムソンを、両手を下ろして「まぁまぁ」と宥める。
そのまま腕を組み、真剣な顔つきで考え込んだ。
「え~と、アンタなかなか部下思いだし、強ぇしイブシ銀の渋みがあってカッコいいし、見込まれちゃったら転職してもいいかな~とは思うんだけどさぁ・・・。」
「・・・もういい。死ね。」
サムソンはトリガーに掛けた指に力を込めた。
しかし、その指は引き絞る前に固まった。
銃口が狙う標的が笑ったのだ。
ふてぶてしく、狡猾に!
「やっぱ、止めとくわ♪ ・・・ロディ!!!」
「うぃッス!!!」
突然、耳障りな羽音が響きサムソンの手から銃が弾き飛ぶ。
驚く間もなく背後から武装兵達の悲鳴が聞こえてきた。
振り向くと彼らは三匹の蜂に襲われていた。
針で刺す代わりに強烈な体当たりをかましてくる、玉砕上等の特攻だった。
形勢逆転である。
さっきから周囲を飛んでいるカメラ搭載蜂型ロボに気付いていたナムは、さらにニンマリほくそ笑んだ。
「ナムさん!大丈夫ッスか!?」
岩陰からロディが現れ叫ぶ。
タブレット型モバイルの画面でカメラ搭載蜂型ロボを操作する舎弟に、ナムはサムズアップで無事を伝えた。
ロディに気付いた武装兵が構える銃は、横から払われるように弾き飛んだ。
別の岩陰からA・Jが身を乗り出して銃を構えている。正確に銃だけを狙う腕前は本物だった。
「エーちゃん、ナイス!!」
ナムは地を蹴りサムソンに肩から突っ込んだ!
「ぐっ・・・?!」
さすがのサムソンもに吹っ飛んだ。
地面に倒れる彼を尻目に敵方を走り抜け、ロディに駆け寄り背中に庇う。
その途端、棍棒を構える反対の手からひょいとKH時限弾が奪われた。
「へ?ちょ、えぇ!?」
慌てるナムの横で、スレヴィがニヤリと微笑した。
電磁メスをクルクル回し、KH弾のカプセルを開けて中をいじる。
調子の悪いオモチャを調べているかのようだった。爆弾に狎れてしまっている者には小惑星を破壊する威力のある時限弾でもそんな扱いになるのかも知れない。
「ホイ、解除っと。コレでもうこいつはただの産業廃棄物や。」
「うぉぉ!マジかレヴィちゃん、スゲーぞお前!!?」
「スレヴィさん、カッコいいッス!!!」
「解除1個につき、10万エンや。」
「・・・。」
そんなやり取りをしてると、いきなり横殴りにタックルされた。
岩陰に折り重なって倒れ込むなり、凄まじい銃撃が始まった!
一瞬でも伏せるのが遅かったら蜂の巣になっていただろう。
「プロ相手にボサッとしてたらヤバイっしょ?このお礼は大臀筋でいいよ♡」
地面に押しつけられたナム達の上で、変質者・マルギーがニッと笑う。
ナムはパンツを下ろす自分の姿を想像し、血相変えて身震いした。
「あのそれ、ロディさんのでお願いします。」
「!? 何でッスか!!?」
ロディの苦情を遮るように、金属が空を切る音がした。
キィン!
煌めく銀光が武装兵達の利き腕を狙う!
ナムはマルギーをどかして飛び起きた。
「モカ!?」
「ここに来る途中で見っけたから連れてきたんだよ。1人じゃ逃げたくないって言うしね。」
マルギーの説明はほとんど耳に入らなかった。閃くワイヤーに襲われ混乱し始めた武装兵達の合間に目線を走らせモカの姿を必死で捜す。
銃を撃ちまくるA・Jがシンディと一緒に潜んでいるの大きな岩。そこから少し放れた所にある、何かの建屋跡の陰に彼女は居た。
ワイヤーソードを構えるモカは、目が合うと安心したように微笑んだ。
(よかった、ナム君無事だった!)
モカは小さく吐息を付いた。
爆弾も解除出来たようだ。あのオーサカ民・スレヴィが、まさか爆弾狂とは・・・。
しかし、抜き差しならない現状はロディやマルギーから詳しく聞いた。宇宙港ゲートにKH時限弾があと2つも仕掛けられている。信じがたいがどうやら本当の事らしい。
(時間がなくなっちゃう!早く宇宙港ゲートに行かなくっちゃ!
先ずは、この場を何とかきりぬけて・・・!)
敵方はA・Jの気でも狂ったのかと思われるほどの乱射で混乱している。
モカはナム達と合流するべく、身を屈めて走り出した。
その時だった。
切り立った崖の下から、もの凄い勢いでそれが飛び出してきたのは・・・!!!
ズドオォオン!!!
地響き建てて、それはモカの目の前に降り立った。
A・Jは思わずトリガーを引く指を止めた。
シンディが小さく叫んでA・Jの背中にしがみつく。
マルギーも恐怖の悲鳴を上げて後ずさり、ロディとスレヴィは目を剥いて絶句した。
武装兵達でさえ状況を忘れ戦慄し、恐怖に顔を歪ませる。
倒れた姿勢のままそれを見上げるサムソンだけが、忌々しげにつぶやいた。
「こんなところに居やがったのか・・・バケモノめ!!!」
静まり帰った修羅場の中、着地姿勢のそれがゆっくりと体を起こす。
全身、血まみれの姿だった。両手に何かをぶら下げている。
モカを捜すよう命じられた武装兵2人。人には見えないほど、見る影もなくボロボロだった。
「・・・ひ・・・っ!?」
足下から聞こえた微かな悲鳴に、それが気付いた。
異常に光る双眸が、恐怖で動けなくなった少女を執拗に眺め回す。
そして、それは笑った。
怖気が走るほど、禍々しく。
狂気に満ちたその笑みは、少女におぞましい記憶を呼び起こさせる。
彼女をあの残酷な、忌まわしい場所へと引きずり戻す!
うち捨てられた採掘場に、少女の絶叫が轟いた!!!




