乙女の上限無限大
時として友情はほんの一瞬で芽生えるものである。
修羅場が収まったA棟ロビーでは、少女達の暖かい交流が始まっていた。
「もぉやらない絶対やらないやらないったらやらない何が何でももぉしない・・・!」
「そんな~、モカさんって言ったっけ?またやってよ、男剥き♡」
「い~や~で~すぅ~!!!」
羞恥に悶えるモカと変質者マルギーの攻防に、怒れるシンディが参戦する。
「ちょっと、聞いたわよアンタ!
アタシの事ちびっ子呼ばわりしたくせに、歳は1つしか違わないっていうじゃない!」
「ん?あぁ、背がちっちゃくって可愛い♡って意味だから気にしないでよ。
でもキミ、まだ14歳だったんだね。 Eカップ ってすごいじゃん!
その胸、これからまだまだ育つでしょ?いや~、たまんないね~♪」
「きゃー!ブラのカップまで看破ー!?」
シンディは両手で胸を隠してモカの後ろへ逃げ込んだ。
モカが微妙な表情で、自分とマルギーの胸を見比べる。
「えと、マルギーちゃんって、15歳・・・年下、なの?」
「うん。そーよ?でも身長が165cmあるからよく大人と間違われるんだよね。
・・・あれ?モカさん?どーしたの???」
露骨に項垂れるモカに、焦ったマルギーがシンディに問いかける。
「なに?どした?なんでモカさん、落ち込んじゃったの???」
「アンタ、身長だけじゃなくて胸もそこそこデカいからね・・・。
・・・って、あーもー、今は胸の事とかどーでもいいでしょ!?この非常時に!!」
「そうね!今大事なのは胸筋より大臀筋ね!
ほら、あそこでふん縛られてる敵の隊長さん、きっといい大臀筋してるよ?
モカさんさぁ、凹んでないで1つ、ちゃちゃっと剥いちゃってくれない?♡」
「いーやーでーすぅー!!!」
やり取りを眺めていたフェイが、隣で佇むロディに聞いた。
「ロディさん、ダイデンキンって何?」
「・・・尻。」
律儀に答えるロディは当然、どん引きまくっていた。
一方、変質者が「いい大臀筋」と絶賛した敵の隊長がふん縛られてる一角では、真面目でまともな人達が事態の収拾に励んでいた。
ナム達は着床ポートで起こった「事件」をシャーロットに報告した。
その上で、テオヴァルトが言った「隠し通路」について聞いてみる。
「メイン司令塔地下通路を使うにはパスワードが必要だ。」
シャーロットが淡々と説明する。
「通路はエベルナ宇宙港ゲートにある入区管理局に続いている。基地側と管理居側、どちらの入口もパスワード入力で解錠するセキュリティでロックされている。」
「パスワードは?」
「エメルヒ司令と、管理局で司令が懇意にしている上層部の役人共しか知らない。
もともとあの通路は使用目的事態が悪どい。司令がおいそれと教えてくれるとは思えんな。」
「・・・エベルナ基地の地下じゃ、禿ネズミの懐行きマネーカードが流れるベルトコンベアーがあるってウワサ、ホントだったんだな。」
ナムはおどけてつぶやいた。
場を和ます冗談のつもりだったがシャーロットの能面が深みを増した。
どうやらほぼ事実のようだ。当たらずといえど遠からず、といったところか。
シャーロットが再び口を開いた。
「地下通路は使えない。だが、おそらくこいつらはそこを通って基地に入り込んだ。」
ナム達はハッと息を飲む。
推して知るべきは地下通路の先、入区管理局の現状だ。
「無事とは思えん。そんな場所にまだ見習いのお前達を送り出すわけにはいかない。
一応傭兵と呼ばれている、そこの間抜け共ならともかく!」
まだ拘束されたままの傭兵達を睨む「鉄巨人」の、憤怒の形相が恐ろしい。
敵の奇襲を許し、為す術も無く制圧されたうえ、ロディの「ロックオフぺったん」が足りなくて、まだ自由を回復出来ていない。
そんな不甲斐ない部下達に対する、シャーロットの怒りは想像するのも恐ろしい。
(うっわ、おっかねぇ・・・。)
怒髪天を衝く「鉄巨人」にこれ以上声を掛けられない。
ナム達は思わず2,3歩後ずさった。
「なぁなぁ、俺たちが売られて傭兵にされそうになった時、助けてくれたんだよな!?」
そんな状況にまったく気づけない、マイペースな奴がたまに居る。
元気に駆け寄ってきたコンポンが、怒れる「鉄巨人」を見上げて屈託なく笑う。
(いや、お前、空気読め!
つか、その人、統括副司令だぞ!頼むからせめて、敬語を使え!!!)
ナム達の顔から一気に血の気が引いた。
しかし貧民街で生まれ育ったコンポンは、敬語の使い方がわからない。
しかも天然系の脳天気。怖いモノなど、何もない。
無教育天然系の元気な子供は、怯えて固まるナム達をよそに、デッカい声でお礼を言った!
「ありがとな。 シャ ー ベ ッ ト さん!!!」
(ふおぉぉぉ??!)
張り詰めた緊張が崩壊し、青かったナム達の顔が一気に真っ赤になった。
ビオラが慌てて唇を噛みしめ俯き、A・J・スレヴィは虚空に目を向け必死で耐えた。
自己対処が間に合わず吹き出してしまったナムを、カルメンがど突き倒す。
「バ、バカ、コンポン!そんな呼び方・・・!」
窘めようと口を開くが、こみ上げる笑いにさすがのカルメンも言葉が出ない。
さっきまで怯えていた傭兵達も、顔をしかめて身もだえた。
笑いたいのに、笑えない。そんな微妙な空気がさざ波のようにA棟ロビーに広がっていく。
そんな中、コンポンは不思議そうに兄姉貴分を見ていた。
状況がまったくわかってない。彼は再びシャーロットを見上げ、話しかけた。
「じゃ、なんて呼んだらいいの? オ バ さ ん !!!」
一瞬で空気が凍結した。
赤くなったナム達の顔色も、青いどころか白くなる。
統括司令基地No.2の上官に対して、とんでもない大暴言!
驚愕と恐怖で言葉もでない。ナム達は再び固まった。
「何言ってんだコンポン!!」
フェイとシンディが大慌てで駆け付けてきた。
「このくらいの年齢の女性に『おばさん』とか言っちゃダメだよ!まだ『お姉さん』だよ!!」
「そーよ、失礼でしょ!バカね!!
女はハタチ過ぎたら年齢カウントは自己都合でOKなのよ!死ぬまでずっと乙女なの!!!」
「シンディ、お前それ、ウチの母ちゃんから聞いたな?」
床に這いつくばったナムがぼそりと小さくつぶやいた。
モカが恐る恐るシャーロットに近づいた。
「あ、あのスミマセン、統括司令副官・・・。」
遠慮がちに声を掛け、驚いて目を見張る。
基地中の傭兵達から恐れられ、たった今プロの戦闘集団1個小隊殲滅せしめた女戦士の目は、喧しく騒ぐ子供達を映して暖かく、笑っていた。
「私の名は、シャーロットだ。」
幾分優しさのこもった声で、彼女は言う。
「だが、ここは規律がある部隊組織だ。私のことは『司令副官』と呼べ。」
「は~い!!」
子供達の元気な返事に、シャーロットの目がさらに細くなる。
しかし、すぐにその目は実戦を重ねた傭兵の、油断なく厳しい目になった。
A棟ロビーに1人の男が入ってきたのだ。
「微笑ましい光景だな。
ところで、俺の部下達を倒したのは、誰だ?」
ナムは床から飛び起き、ルーキー達を背中に庇った。
着床ポートで出会った、隻眼の男。
返り血を浴びた凄惨な姿だった。




