起死回生には上腕二頭筋
目の前を黒光りするマシンガンの銃口がチラつく。
襲撃者は約20名。厳つい表情の男達が油断なく周囲を見回し、少しでも動くと怒鳴られる。
そんな状況の中、マルギーは他の訓練生達と一緒に両手を頭の後ろに回して佇んでいた。
射撃訓練中だったマルギー達は、いきなり現れた武装集団の襲撃を受けた。
瞬く間にA棟は制圧され、内部にいた者は全員1階ロビーに集められた。
諜報員はホールドアップで許されているが、傭兵は電磁ロック式手錠で後手に拘束されている。
カルメンとビオラもその中にいた。
リュイが率いる13支局隊は、諜報員でも半端な傭兵などより腕が立つ。2人は銃や電磁ムチで奮闘したため傭兵達と同じく拘束された。
「このドジ!アンタがトロいからとっ捕まったんだよ!蜂蜜女!」
「そっちのマヌケでしょ!人の所為にすんじゃないわよ!野蛮女!」
こんな時でも口汚くお互いをののしり合う。こんな2人は悔しそうに項垂れる傭兵達よりよっぽど肝が据わっている。
その後ろにはキッと口を引き結んで鎮座する『鉄巨人』。
彼女が耐えているのは不甲斐ないこの状況だろうか、女2人の喧しさだろうか・・・?
(これからどうなっちゃうんだろ・・・?)
マルギーは不安になって俯いた。
コン!
頭になにか小石のような物が当たった。
「ほぇ?」
飛んできたのは小さなキャンディ。床に落ちて転がっていた。
(なにこれ?どっから飛んできたの?)
周囲を見回した。ロビーの隅に目がとまる。
大きく育った観葉植物の鉢の陰に、ど派手なTシャツを着た昨日来の友人の姿が見えた。
彼は右手の指を揃えて右肩に当てた後、その手をマルギーの方へ差し伸べた。そしてニンマリ笑うと、顔の前で手刀を切った。
(手話だ!『任せたぞ、よろしく!』って、何それ???)
目を丸くするマルギーの様子に意図が通じたと思ったらしい。
友人=ナムが、いきなり叫ぶ!
「モカ、行け!!!」
「はい!!!」
鋭い銀光が空を切る!
マルギー周辺の武装兵達が声の方へ銃口を向けた!
「え?」
「あ、あれ!?」
「きゃー!」
武装兵達が悲鳴を上げる。
コンバットスーツがワイヤーソードの刃でズタズタに切り裂かれ、全員見事にパンツ一丁!意外にもカラフルなおパンツばかりで目にも眩しい。
自称「変質者」の目の前で、武装兵達の鍛え上げられたマッチョな肢体が露わになった。
マルギーの脳内テンションメーターが、MAX値をぶっちぎる!
「いやぁーーー♡! 大胸筋と腹直筋と、上腕二頭筋ーーーーー♡♡♡!!!」
「えええぇぇーーー!!?」
喜色満面で大絶叫!
ギラギラする目で眺め回す「変質者」の出現に、武装兵達は大混乱に陥った。
「はぁ?!上腕二頭筋??!いったい何事だ!!?」
異常な絶叫が武装兵達の意識と目線をマルギー1人に集中させた。
その隙に、フェイ・コンポン・シンディが素早くカルメン達に忍び寄る。
彼女達の手錠に特殊なシールを貼ると、ロディがモバイル端末に素早く何かをインプットして画面を軽くスワイプする。
端末からの信号を受けたシールが微弱な電流を流し込み、電磁手錠のロックを解除した。
ロディが発明した電磁ロックの解除装置、名付けて「ロックオフぺったん」である。
「ロディさんのネーミングセンス、ナムさん並みに変だ・・・。」
自分の役目を終えたフェイが、隅のベンチ裏に隠れてぽつりとつぶやいた。
ナムは植木鉢から躍り出た。
慌てふためくパンツ一丁の男達を襲撃し、全員一気にたたき伏せる。
奇襲に気付いた武装兵達が騒然となった。無数の銃口がナムの派手なTシャツを狙う!
しかしトリガーは引かれる事なく、狙撃はA・Jの銃に阻止された。
「グッジョブ、エーちゃん!!」
「喧しい!あだ名で呼ぶな!!」
「だーかーらー、ニックネームはあだ名じゃないって・・・ぅお!?」
親友(?)と言葉を交した時、隙を突かれて後ろを取られた。
「調子にのるな、小僧!」
人相の悪い武装兵がライフルの銃身で殴り掛かる!
バキッ!!!
真横からの蹴りが綺麗に決まった。中国拳法の蹴りだ。
武装兵は奥歯を散らして吹っ飛んだ!
「レヴィちゃん、かっくいー!ほらやっぱり強いんじゃん!♪」
拳を構えて武装兵達を威嚇するスレヴィに、ナムは陽気に声を掛ける。
返ってきた返事は、露骨過ぎるほど世知辛い。
「一蹴り1,000エン、拳なら2,000エンや!」
「えー!!?」
暴利に驚くナムの前で、武装兵が殴り倒され電磁ステッキを奪われた。
マルギーが電磁ステッキを手に勇敢に敵へと切り込んでいく!
電磁ステッキはスタンガンに似ている。的確に相手の急所を捉え、刀身を当てて手元のスイッチで相手に電流をぶち込み倒す。
彼女に不意を突かれた武装兵3人は、声も出せずに昏倒した。
「おぉ!お前やるじゃん!」
「へへ、まーね♪ ねぇナムさん、あとで 胸筋 見せてくれる?」
「えー・・・?」
余裕があるのはここまでだった。
相手はプロの武装集団である。
不意打ちなどそう何度も通用する手段じゃない。隊長らしき男がダミ声で指示を飛ばし始め、相手の迎撃体勢が徐々に整い始めた。
「リグナム下がれ!後はアタシらがやる!」
自由になったカルメンが敵から奪った銃を構えて叫んだ。
間近にいた武装兵をソバットで倒し、電磁ムチを調達したビオラもカルメンと並ぶ。
「そうよ!後はあたし達が・・・って、ひぃ?!」
勇ましくいきり立つ女2人の背後から、ぬっと黒い影が立ち上がる。
カルメンとビオラは石化した。
彼女達だけではない。ナムも、A・Jも、スレヴィもマルギーも、武装兵達までもが硬直した。
「・・・いや、私がやる!」
地を這うような低い声。
巨体に漲る怒りのオーラが周囲を圧倒、武装兵達の戦意を消失させた。
『鉄巨人』、始動である。
敵将の隊長が討ち取られるまで、ものの10秒も掛からなかった。




