隻眼の男
アサルトライフルを構えた男達はざっと数えて10人。身のこなしにまったく隙が無い。
(マジかよ、ガチでプロじゃねーか!)
ナムはやむを得ず両手を上げ、驚いて固まるルーキー達を背中で庇い舌打ちした。
エベルナ統括司令基地は小惑星上に造られた大規模な植民コロニーの荒野にある。こんな辺鄙な場所に近づく者などまずいない。
しかもセキュリティや防御システムが何重にも仕掛けられいて、エメルヒの許可無く基地に入れる者もいない。
そんな場所にフル装備の武装兵がこれだけの数入り込んでいる。
どうやって入り込んだか知らないが、間違いなく全員猛者だ。
「おとなしくしてりゃ危害は加えん。だが出発は認めん。全員機内入れ。」
唯一銃器を構えてない男が冷ややかに告げた。
長い灰色の髪を後ろで一つに結んだ長身の男。
彼がナム達に歩み寄ると武装兵達が道を空けた。
(こいつが指揮官か。)
ナムは目の前に来た男の目を正面から見返した。
男は隻眼だった。
顔の右半分に瘢痕があり、皮膚がイビツに引きつっている。
「怖がらないのか。いい度胸だな。」
隻眼の男は薄く笑い、ナムのTシャツをしげしげと眺めた後、踵を返す。
「この機の責任者は?」
「私よ!」
シャトルの昇降口にいたエーコがモカを背中に庇って答える。
「私はトーキョー大学医学部循環器科の外科医。『教授』《プロフェッサー》よ。
ここにはボランティアで来ている学生や無関係の子供もいる。彼らを解放してちょうだい!」
「医者・・・?なら内科医はいるか?」
「えっ?いる、けど・・・?」
質問の意図が読めずエーコが戸惑う。男は武装兵達に振り返った。
「ロベルト、コーウェン。診てもらえ。」
「は?い、いやしかし・・・。」
名指しされた武装兵が狼狽した。
確かにどちらも顔色が悪く、額がうっすらと汗ばんでいる。
「ドクター、この2人は数日前から体調が優れない。
腹痛と微熱の症状で苦しんでいる。こんな状況で恐縮だが、診てやってもらえないか?」
エーコは少し考え、モバイル携帯を取り出して耳に当てた。
「ヨジュン医師はいる?昇降口下へ来て。急患よ。」
「感謝する、ドクター。」
意外にも隻眼の男は礼儀正しく頭を下げた。
「なかなか医者にかかれる身分じゃないんでね。
礼と言ってはなんだが、学生と子供は決して傷つけないと約束する。」
「あ、逃がしちゃくれないのね。でも部下思いっすね。」
ナムはとぼけた口調で誤魔化しながら、さりげなくジリジリ後退する。
それに押されて背中に庇うルーキー達も後ずさる。敵との間合いが近すぎる。少しでも距離を取っておきたかった。
男の隻眼が目ざとく光る。
「動くな!」
(ちっ!)
ナムはピタリと足を止めた。
(も少し放れておきたかったんだけど、しゃぁないか!
取りあえずこんだけ距離がありゃ、これから始まる修羅場にルーキー共が巻き込まれる事はないだろう・・・。)
何かを察した隻眼の男がナムを睨む。
「言っておくが、おかしなマネをしたら約束は反故だ!
子供だろうと学生だろうと容赦はせんぞ!」
「ひぃ!?」
ルーキー達とボランティアの学生達が、悲鳴を上げて震え上がった。
「じゃあ俺も言っておこう。
病人にゃ手を出さんつもりでいくが、そっちの出方によっちゃ『殲滅』だ。」
聞こえてきたのは、ナムの声じゃない。
隻眼の男が弾かれたように振り返り、武装兵が一斉にライフルの銃口を1点に向ける!
しかし・・・!
「ぐあ!?」
「ぎゃ・・っ!?」
「うぐぅ!!」
短い悲鳴があちこちで上がり、武装兵が倒れていく。
不意を突かれたとはいえ、速攻3人瞬殺された。
「すまんな、お医者先生。患者が増えちまった。」
襲撃者が不敵に笑う。
両腕の打突武器がひゅん、と唸った。
「テオさん、かっくいー!!!」
ナムの背中から身を乗り出したコンポンが、テオヴァルトの勇姿に歓声を上げる。
隻眼の男の眼光が、鋭くなった。




