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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
扉を開ける「鍵」
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司令室での攻防

殺気だった人の群れが宇宙港チケットカウンターへ押し寄せる。

通常なら航空チケットはネットで購入するものだが、昨夜未明から航空各社予約サイトはパンクしたまま。予約受付再開の予定すらたっていない。

なかなか手に入らないチケットに、客達の怒りの矛先は宇宙港職員達に向けられた。

幾つかの主要な中継港では客達の暴徒化を恐れ、とうとう連邦政府軍に救助要請、宇宙護衛艦がスクランブル出動する事態にまで発展した。

太陽系中の「暴徒」達が、一斉にエベルナへ侵攻を開始したのである。

武器の代わりにマイクとカメラ、旗印に社名を掲げ、特攻隊長は各社より抜きの敏腕記者。

「報道の自由」を免罪符にした「暴徒」達の襲来に、エベルナ宇宙港は混乱を極め、収集などもはや付くはずもない状態だった。


エベルナ宇宙港の壮絶な様子を伝えるニュースをPCモニターで見ていたエメルヒは、うんざりと画面をOFFにした。

混乱しているのはエベルナだけではない。

リーベンゾル・タークが『後宮』の生存者救済を宣言してから、この手の「交通渋滞」は太陽系中でしょっちゅう起こる。

あちこちでペテン師が「我こそは『後宮』の生き残り」と嘘八百叫ぶたびに、広いようで狭い太陽系を「暴徒」達が一斉に移動する。迷惑な事この上ない。

「よくもまぁ、こんなど田舎の禄でもねぇラジオ番組聞いてやがるもんだぜ、まったく!」

忌々しげにつぶやいて、いきなりデスクの上に両手を突いた。

そして真正面から睨んでくる女2人に、禿げてる頭をガバッと下げた。

「今回のことはまったくすまねぇ!

素人に立ち聞きされるとは、畜生!俺もヤキが回ったもんだぜ!!」

「そんなことより、一刻も早く対応して下さい!」

カルメンが禿げた頭に激しく詰め寄る。

「今すぐモカを連れて火星に帰ります!!エベルナを出る許可を下さい!!!」

「局長達が帰るのなんて待ってられないわ!早くあの娘を安全な場所へ連れて行かないと!!!」

ビオラもデスクを叩いて催促する。

2人が統括司令室に入るのは初めてだ。下っ端諜報員の彼女達にはおよそ縁の無い部屋である。

成り上がり趣味の調度品や仰々しいインテリアに毒づいているヒマはない。

とにかくモカを守りたい。そんな思いが2人に上官への礼儀を忘れさせた。

「い、いや待て落ち着け!悪ぃがそれは出来ん!」

エメルヒが慌てて頭を上げる。

「何で!!?」

「今見たろ?今、太陽系中の宇宙港はメチャクチャだ。

マスコミ共のせいで空席のある船なんか1機もねぇよ!火星どころか隣の小惑星にだって行けねぇってのに、どーしようってんだ!カルメン、ビオラよぃ!?」

「シャトルを出して下さい!一番早い奴を!!」

「だー、もう、落ち着けって!

もう連邦政府軍が規制にのりだしてんだ!

間もなくエベルナ宙域は一般宇宙航空機の航行が禁止なる!カラス一匹飛べねぇよ!!!」

「・・・そんな!」

「それにだ、仕事が早ぇなクソッタレ!

もう連邦政府軍特殊公安局から事実確認の打診が来てやがる!

コレが正式な捜査協力依頼になるのは時間の問題だ!そうなると俺にゃもう拒めねぇ!

特殊公安局(やつら)に楯突きゃどーなるか、お前らだって知ってんだろ!??」

カルメンとビオラは絶句した。

政府公認の暗殺集団、特殊公安局。局長(リュイ)抜きで敵に回すわけには、いかない!


ようやく鎮まったカルメン達に、エメルヒは一息ついた。

「大丈夫だ、俺に任せろ、実はもう手を打ってある。

モカちゃんを一度、地球へ逃がそう。」

「地球へ?シャトルは飛べないんでしょう?」

ビオラが柳眉をしかめる。

「トーキョー大学医学部の宇宙船機がある。

ありゃぁ俺の顔を使って要請した連邦政府軍公認のシャトルだ。もう航行予定を事前申請してあるし、連邦政府に顔が利く『心臓外科医の権威』もいる。

そんなわけで地球への帰還が特別に許された。今離陸準備をしてる所だ。」

「じゃ、私たちも一緒に行きます!」

「いや、ダメだ。それは止めとけ。」

同乗を申し出たカルメンを、エメルヒはやんわり、しかしきっぱりと制した。

「目立つのは良くない。地球に行くのはモカちゃんだけだ。」

「でも!!!」

「カルメン、ビオラよぃ!」

エメルヒはチェアにゆったりと座り直し、詰め寄る2人を睥睨する。

その目には彼の「裏の顔」が垣間見えた。

「お前らもいい大人になったなぁ。

リュイが拾ってきた時はまだほんの小娘だったのに、いい女になったもんだ。

・・・だったら、わかるよな?

お前らが行くっつったら、他のガキ共も行きたがるだろ?

シンディちゃんに、フェイとコンポン。あいつらまだ子供だぜ?」

カルメンが拳を握りしめ、ビオラは唇を噛みしめた。

今の一言でルーキー達が人質に取られたようなものだ。これでもう、逆らえない。

エメルヒがいやらしく嘲笑する。

「そんな顔すんなって、美人が台無しだぜ?カルメン、ビオラよぃ!

安心しろ、地球にゃ信頼出来る部下がいる。いい仕事する奴らなんだ、そりゃもうしっかり守ってくれるぜ?

もうあの子にゃ誰にも手ぇ出させねぇよ!

お前らもだが、モカちゃんは俺にとって娘みてぇなもんだ。ど~んと任せとけって、な?」

(・・・この禿ネズミ!!!)

2人はふてぶてしく笑う男の横っ面をひっぱたきたい衝動に必死で耐えた。

地球へ連れて行かれたモカの運命はわかりきっている。

しかし自分達ではエメルヒには太刀打ちできない。

(・・・悔しい!)

ビオラの目に涙がにじむ。

(局長・・・!)

カルメンは奥歯を噛みしめ、俯いた。

エメルヒが2人を眺め、さらに口を歪めてニヤリと笑う。

「それじゃ悪ぃんだけどもよ、モカちゃん呼んでくれや・・・。」

大げさな身振りで2人の背後の扉を指し示した、その時!


ドバーーーン!!!


扉がいきなり蹴り開けられた!

飛び込んできたピンクとグリーンの市松模様に、エメルヒとカルメン・ビオラは目を剥いた。

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