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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
帝国の復活
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君が眠りにつくまでは

頭が混乱して考えが追いつかない。ナムは愕然と立ち尽くした。

目の前がクラクラして、心臓が痛いくらい暴れている。

拳を握る手の中では爪が食い込み、体中が燃えるように熱いのにガタガタ震えて止まらない。

心の整理が追いつかない。泣きたいのか怒りたいのか、もしかしたら笑いたいのか自分でもさっぱりわからない。

ただ、呆然と目の前でモカの過去を語るリュイを見つめる事しか出来なかった。


「明日エベルナへ飛ぶ。全員そのつもりでいろ。」


驚くべき事ばかりの話しを終えたリュイが椅子から上がった。

返事をするどころじゃない。誰も口を開けなかった。

呆けたように佇む部下達を置いて去ろうとするリュイと、ほんの一瞬、目が合った。

黒い双眼の奥で何かを訴えかけてきたような気がしたが、気のせいだろうか?

リュイはすぐに背を向けると食堂から出て行ってしまった。


それを見た途端、複雑に絡み合った感情の中から怒りが一気にふくれあがった。

モカの顔が脳裏を過ぎる。

いつも穏やかに微笑んでいる彼女があんなに苦しむのを見るのは初めてだった。

『・・・わたし、は・・・実の父親、に・・・。』

今も耳に残る掠れた声が胸を突く。

体中の血が逆流し、叫び出したくなるほどの強烈な衝動が襲ってきた!

(何が「局長」だ!

ここで一番エラけりゃ、あそこまでやってもいいのかよ!!?)

ナムは近くにあった椅子を掴み、やり場のない怒りを込めて思いっきり壁に叩きつけた!

もともと安物だった椅子は、鉄筋コンクリートむき出しの壁に派手な傷を残して粉々に砕け散った。


椅子が木っ端微塵になる音に放心状態で固まっていたメンバー達が覚醒する。特に女達は全員悲鳴を上げて飛び上がった。

「あんた、何やってんのよ!ビックリするじゃない!!」

「あ~ぁ、椅子!!どうすんだこれ!!」

カルメンとビオラが金切り声を上げ、マックスとテオヴァルトが散乱したテーブルや椅子を元通りに直し始める。

キッチンに引っ込んだベアトリーチェがバケツとモップを持ってきた。ルーキー達に渡して指図を出す。掃除が始まるようだ。

手伝おうとするサマンサをロディが必死に引き留める。サマンサは破滅的に家事が出来ない。彼女が掃除に参加すれば被害が広がるだけである。

胸に様々な想いを抱えたまま動き出すメンバー達。

そんな中、入口付近で壁にもたれていたアイザックがそぉっと右手の拳を開く。

去り際にリュイが放ってよこしたモノが入っていた。

潰されて壊れた、ロディが作ったものではない盗聴機が、3つ。

2つは米粒くらいで家電に取付ける設置型、もう1つは巧妙に偽装した洋服のボタン型盗聴機だ。

アイザックは自分の身なりを見下ろした。

白い生成り地のシャツの、一番下のボタンがいつの間にか無くなっていた・・・。


「閉口令。漏洩は命が無いと思え、か。なるほどね。」

アイザックは低い声でつぶやいた。

「・・・・・・バケモノめ!」


幸いこのつぶやきは椅子に八つ当たった舎弟を叱る姉貴分達の声に紛れ、誰の耳にも届かなかった。



局長室の中は真っ暗だった。

リュイは明かりを付けようと壁のスイッチへ手を伸ばし、思いとどまった。

きっと今の症状では部屋の照明にすら恐怖する。よく起こす発作の中でも重い症状だ。


「・・・あいつは、死んだ、きっと、死んでる、もういない、大丈夫・・・。」


冷え切った室内のどこかから、微かに「呪文」が聞こえる。

しばらく耳を澄ましていたリュイは、デスクの方へ足を向けた。

無駄に大きいだけのデスクは部屋の奥に据え置かれている。一見マホガニー製の高級な造りだとはわからないほど衣類や本が積み上げられているデスクの下に、モカはいた。

近づいても気づかない。

デスク下の狭い空間に体を縮めて蹲り、ガタガタと痛ましく震えている。

耳を塞ぎ目を閉じて、忌まわしい過去の幻影を拒絶する。

そして、必死であの「呪文」を繰り返す。モカがつぶやく「呪文」は、外を吹き荒れる火星の風の音に静かに、悲しく共鳴した。


「・・・いない、大丈夫、もういない、きっと死んだ、あいつは、死んだ・・・。」


黙って見下ろしていたリュイは、怯えるモカの腕を掴んだ。

突然乱暴に引きずり立たされたモカが、小さく叫ぶ。

「・・・嫌・・・!!?」

錯乱してもがく姿に、この男らしからぬ感情が瞳を掠めてすぐに消えた。

リュイは、モカを抱きしめた。

強く荒々しい、不器用な抱擁だった。


少女の身体から少しずつ力が抜けていく。

微かな泣き声が聞こえ始めた。震える小さな手がオズオズとシャツにしがみつく。

呪文が聞こえてきた。今度は、少女を抱きしめるリュイの口から。


「・・・そいつは死んだ、もういない。大丈夫、ここにはいない・・・。」


静かな、穏やかな声で唱えられる「呪文」は、腕の中の少女が安らかな眠りにつくまで絶える事はなかった。

お読みいただいた方の中で、不快な思いをされた方がいらっしゃったらごめんなさい。

平和で、子供さんを大切にできる世の中が一番です・・・。


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