モカの告白① 少女の中の「闇」
フェイとコンポンは格納庫に、サマンサ、シンディ、アイザックは自室に居た。
シンディが不満そうに口をとがらせる。
「なぁに?まだ晩ご飯じゃないでしょ?もう少しで完成するのに・・・!」
「お前、まだ作ってたのかよ?止めとけっていったのに。」
「う、うるさいわね、人の勝手でしょ!何かしてあげたいんだもん!」
「そんな手じゃ逆に心配されちゃうよ、シンディ。」
「うるさいてば!ほっといてよ!!」
呆れるコンポンとフェイに、シンディは狼狽えながらも怒鳴り返す。
彼女は今、時間があれば部屋にこもって何やらチクチク裁縫している。モカにプレゼントする物を作っているそうなのだが、不器用な子が針を持つと大抵こうなる見本のように、彼女の両手は絆創膏だらけになっていた。
フェイとコンポンも「何とかモカさんを元気にできないか」といろいろ策を練っている。
「食い物で釣る」「花束を贈る」「仮装して物陰から驚かせてみる」「ダジャレ100連発」「有名人のモノマネ披露」等々。
ナムが呼びに行った時には格納庫隅のガラクタ置き場で額を寄せ合い、効果があるとは思えないアイデアをいろいろと言い合っていた。
ルーキー達は格納庫でカフェオレを一緒に飲んだ日からすっかりモカに懐いている。それだけに心配する気持ちも大きいのだろう。
「ホントにいったいなんなの?早く説明して!」
サマンサは苛立っていた。
彼女は他のメンバーと違い、リュイの命令に反抗的な所がある。いきなり呼ばれて怒っているようだ。
マックスが口を開こうとした時、廊下から慌ただしい足音が近づいてきた。
リュイが現れた。
厳しい表情に目を見張る。この男が無愛想なのはいつもの事だが、それに輪を掛けて物々しい。
そのリュイが片手に掴んだモノを見たナム達は、さらに驚き息を飲んだ。
「モカ!?」
モカが腕を掴まれ引きずられている。
リュイは一同の前を横切り、おぼつかない足取りの彼女を空いている椅子へと乱暴に振り投げた。
投げ出されたモカが崩れるように椅子へ倒れ込み、震える自分の身体を抱きしめるて蹲る。
ビクビクと怯える彼女は、まだ異常な状態のままだった。
「モカ!?・・・ちょっと、アンタ何すんの!!?」
サマンサが怒りの声を張り上げる。
リュイはそれを無視し、怯える少女に駆け寄ろうとしたカルメンとビオラを片手で制した。
同じくモカの方へ駆けだしたベアトリーチェを止めたのはマックスだ。
「・・・何があった?」
マックスはベアトリーチェの肩を掴んでゆっくりと後ろへ下がらせ、覚悟がこもった声で聞いた。
「招集命令だ。」
メンバー達に振り向きもせず、リュイ一言言い放つ。
傭兵達に緊張が走った。異様な空気が食堂内に満ち始める。
百戦錬磨の猛者である傭兵達は露骨に動揺などしなかったが、諜報員達は困惑して狼狽えた。
特にルーキー達にはこの状況が理解できない。キョロキョロと大人達の様子を伺うコンポンが、たまりかねてロディのつなぎの袖を引っ張った。
「なぁなぁ、ショーシューメイレイって、何?」
「エメルヒ司令からの呼び出しだよ。」
答えるロディの顔はごんぶとの眉毛を潜めて暗かった。
「いつもは傭兵部隊だけだ。全員でなんて今までなかったのに・・・。」
部下達のざわつきを背に受けて、リュイは椅子に蹲るモカを正面から見下ろした。
指令を告げるリュイの声は、冷酷だった。
「明日の朝、総員で『エベルナ』へ飛ぶ。
アレの狙いは、お前だ。モカ!」
モカの肩がビクッと震えた。
ぎこちなく、ゆっくりと顔を上げてリュイを見上げる。
痛々しいほど見開いた目が上官を捕らえ、唇が微かに動く。
しかし声は出なかった。青ざめ震える唇は今にも止まりそうな浅い呼吸を繰り返す。
自分を抱くモカの手に、より一層力が入るだけだった。
「アレに狙われた獲物がどうなるかは知ってるはずだ。最悪の事態を考えろ!」
さらに厳しく、リュイが言う。
モカはぎこちなく首を巡らせ、自分を取り囲むナム達を見上げた。
心配そうな仲間の顔をゆっくりと眺め行き、最後にルーキー達に目をとめた。
フェイも、コンポンも、シンディも、泣きそうな顔で見つめ返してくる。
モカは両手で顔を覆い、力無く膝の上に伏せた。
「何故、アレがお前を狙うのかがわからん。
話せ。お前に起った事全て、洗いざらい全部だ!!」
張り裂けそうな緊迫感に瞬きさえ躊躇われ、ナム達は無言で固まり事の成り行きを見守った。
重い静寂の中、モカの苦しげに喘ぐ息づかいだけが聞こえる。
リュイもまた身じろぎ一つせず目の前で苦しむ少女を見据えている。
永く重い沈黙。
たまりかねたサマンサがキッとリュイを睨み、口を開きかけた時だった。
「・・・わたし、は・・・」
掠れた声、弱々しい震える声。
モカが口を開いた。
独裁者の息子の出現、帝国の復活、少女の異常な錯乱、そして、エメルヒの招集。
この一連の事柄について、何かを語ろうとしているのだ。
我を忘れるほど取り乱し、恐怖に震え怯える少女が語る物語。
それはナム達の、リュイですら想像もできない「闇」だった。
「・・・わたしは・・・リーベンゾルの・・・
『後宮』で生まれた・・・性奴隷の、娘です・・・!」
モカは激しく震える自分の身体を、さらにきつく抱きしめた。




