理由がわからなくて
地球連邦政府軍の横槍が入って中断した「リーベンゾル帝国復活宣言」の放送。その直後から太陽系中が大混乱に陥った。
先ず、メディアが一斉に騒ぎ出した。
連邦政府機関や軍基地に押しかけ高官の会見を要求、半ば暴徒と化し、軍隊が出動する騒動が至る所で起った。
外惑星エリア・小惑星エリアに住む人々は「大戦の再来」を按じ、避難、移動を開始。
航空会社予約受付システムがパンクし、各地の宇宙空港は押し寄せる避難希望民で収集がつかなくなる。
反地球連邦の理念を掲げる闇組織が相次いでタークを支持を示した。
連邦加盟国内では武装集団によるテロへの危機感が日を追うごとに増していく。
対応に追われる連邦政府と連邦政府軍は不手際を各国の政府・要人から責められ続け、地球連邦からの離脱を検討する国が3割ほど増えた。
そんな中、元凶のタークは精力的に活動を開始する。
取材の依頼は大手報道機関から地方の貧弱新聞社に至るまで快く受け、情報提供を惜しまなかった。
「大戦」時のリーベンゾル軍の残虐行為を責める厳しい意見にも逃げる事なく、誠意ある態度で贖罪の姿勢をみせる。
そしてメディアを通じ、繰り返し地球連邦への従属拒否と戦争の意志はない事を、太陽系中の人々に訴えた。その姿は堂々と頼もしく、「事実確認中」と逃げ回る連邦政府高官が滑稽に見えるほど真逆だった。
「元・元首が何を思い何を欲していたかは、今となっては誰にも解りません。」
あるTV局の特集番組に出演したタークは、そう言って眉を潜めた。
「血の繋がった実子である私でさえ、彼と相まみえたのは数えるほどしかないのです。
『大戦』後の彼は『後宮』に入り浸りでした。そこで何がなされていたかは・・・発言を控えさせていただきます。
今はただ被害者の方に謝罪したい、その一心ですよ。」
「なぜ、『後宮』の被害者への救済にこだわるのですか?」
インタビュアーの質問に、タークは哀しそうな表情になった。
「私の母も『後宮』の犠牲者です。彼女は幸せな人生を送る事ができなかった。
救いたいのです、母と同じ思い苦しみを味わった方々を。」
TV画面いっぱいに、タークの影ある微笑が映し出された。
今や彼の好感度はうなぎ登り。TVもラジオも新聞も雑誌も、彼の話題で持ちきりだった。
テオヴァルトはモニター画面をOFFにした。
リモコンを無造作にテーブルの上に放り投げ、食道の空いてる席に腰を下ろす。
「きれい事抜かしやがって。口じゃ何とでも言えるわな。」
口調に苦々しい物がある。キッチンから焼きたてのホットサンドをのせた皿を持って入ってきたベアトリーチェも同様だった。
「そうね、信用できない。他に何か裏があるに決まってる。油断できないわ。」
10年前の「大戦」経験者達の意見は厳しい。
缶ビールをあおっていたマックスが顎でベアトリーチェの皿を示す。
「それ、モカのか?」
「えぇ、あの娘サンドイッチ好きだから。あの日からほとんど何も食べてないの。心配だわ。」
ベアトリーチェが眉を潜めてタメ息を付いた。
タークの「復興宣言」以降、モカの精神状態は深刻なものになっていた。
ふさぎ込み、極度に緊張して声を掛けただけで飛び上がって悲鳴を上げる。
食事がのどを通らないずやつれてきた。
もしかしたら眠れてないのかもしれない。顔色が悪く、元気どころか生気もない。
「聞いても何も話してくれないの。私が怖いみたいで・・・。
ねぇ、あんた達。これモカに持ってってあげてくれない?」
ベアトリーチェが別のテーブルにいるカルメンとビオラに声を掛けた。
ビオラが哀しそうに首を振る。
「だめよ、リーチェ姐さん。私たちも同じよ。目も合わせてくれないわ。」
「せめて理由がわかれば何かしてあげられると思うんだけど・・・。」
カルメンも表情を曇らせた。
「ホントにどうしたらいいんッスかね・・・。」
隅のテーブルでスパイ・ビーを調整整備しているロディもごん太眉毛をしかめている。
どうしたらいい?何をしてあげられる?
メンバー達の誰もが途方に暮れていた。
(怖がられてんの、俺だけじゃないのか・・・。)
ナムはロディの横で、ぼんやりとモカを心配するメンバー達の様子を眺めていた。
少し安心している自分がいる。何故かよくわからない。わからない事がイライラする。
ナムは頭の後ろを掻きむしった。
マックスが暗い表情でビール缶を口に運んだ時、通信機が鳴った。
「あぁ、食堂にいる。ん?全員はいねぇが・・・。了解。」
リュイからのようだ。マックスはビール缶を置いて立ち上がった。
「カルメン、リグナム!サマンサとアイザックと、ルーキーのチビ共呼んでこい!」
マックスの声にある種の緊張感がうかがえる。
局長の「全員招集」は滅多にあるものじゃない、何か重大な事があった時だけだ。
例えば、仲間の命に関わるような・・・!
「ハニー、ホットサンドは後回しだ。」
マックスは努めて穏やかに愛妻に告ると、テーブルのビール缶を遠くへ押しやった。
今はもう酒など飲んでいられる事態ではない。




