女王様と下僕の朝食風景
こんにちは。読んで下さった方、ありがとうございます!
厚切りフレンチトーストとフルーツヨーグルト♡
おしゃれな朝食を召し上がる女王様の横で、ナムは昨夜の武勇伝を聞いた。
輝く美貌と艶めかしい肢体、清らかな聖女でも妖艶な悪女でも完璧に演じ分ける演技力。
ビオラはチームのハニートラップ要員だ。彼女にかかれば大抵の男は堕ちる。
そして必要な情報を聞き出された後、タカられ貢がされぼったくられてすってんてんになる。
今回の戦利品は、素晴らしい光沢を放つ毛皮のコート。さぞや高かったに違いない。
ナムは昨夜の悪党が気の毒になった。
「あたしの父親はね、傭兵だったのよ。」
ビオラはヨーグルトに浮かぶ桃を突きながら話しだした。
「名うてのチームの隊長だったわ。羽振りが良かったから儲けてたのね。私は家族と地球でいい生活をさせてもらってた。
でも父は「大戦」で行方不明になったの。
母と年の離れた2人の兄も、父を探しに外惑星エリアに向かってそれっきり。その時身を寄せてた父の知人に裏切られてね。私、人買いに売られちゃったの。」
人身売買組織のアジトでカルメンと出会い、2人でリュイに救出されたのだという。
ただし、カルメンは「私のついでに」助けられたのだそうだが。
「局長は私を助けてくれただけじゃなく、父や母、兄達の消息まで突き止めて教えてくれたわ。
みんな死んじゃってたけどね。『大戦』の混乱時にそんなの簡単にできることじゃない。
エメルヒからも守ってくれた。私にとっても局長は大恩ある命の恩人よ。
・・・あんた、昨夜ご飯抜きだったんだって?バカね!」
そう言って、ビオラは半分残ったフレンチトーストの皿を押しよこした。
お気持ちをありがたくいただいた。バターが効いてて美味かった。
「こらナムさーん!!!」
突然後ろからソプラノボイスの怒号。ナムはほうじ茶、ビオラはミントティーを勢いよく吹いた。
振り向いてみるとシンディが目をつり上げて仁王立ちしていた。
「何だ?なに激怒ってんだ?」
「何?じゃないわ!ナムさんてば昨日、お風呂入ってないでしょー!!」
・・・何だよそんな事か。
「言ったろ?火星じゃ水は貴重だから、フロとかシャワーは3日に1回・・・」
「昨日で5日!入ってない!!!」
あ、バレてら。ナムは内心舌打ちした。
基本、火星は乾燥していて寒い。身体を動かしてもほとんど汗をかかないし、体臭もあまりしない。そのせいでナムだけでなく基地の男衆は風呂だのシャワーをサボりがちになる。しかも、ナムはどっちかといったら入浴が面倒で嫌いだった。
しかしこのシンディには少々困る。細かい事によく気がつく上に、やたらと人の世話を焼きたがっては口うるさい母親のようにガミガミ騒ぐのだ。
よく標的にされるのはナム、ロディ、コンポン。特によく叱られるコンポンなどは彼女を「オカンちび」と呼び、その度に騒々しい口ゲンカが勃発する。
この喧しい事この上ない子供のケンカを止めるのも、ここ最近のナムの仕事になっていた。
「昨日、チャンと入るって約束したじゃないですかー!フケツ!!そんなんだとその内今着てる服みたいなキノコとか生えてきちゃうんだから!!!」
本日のナムの出で立ち。ボトムは普通にジーンズだが、赤・黄・緑と信号機のような3重のフリルが胸元を飾るストライプのシャツ・・・。
キャンキャン騒ぐシンディをなだめていると、急にザワッと背筋に悪寒が走った。・・・ヤバイ、来た!!
「・・・あらあらたぁいへん♡」 妙に艶っぽい、それでいて冷酷な声が頭上から降ってくる。「私とした事が見過ごすなんて。シンディ、教えてくれてありがとね♡」
喜色満面のアイアン・メイデン事サマンサが構えるのは、ロディが開発した改造高圧洗浄機。ナムは時々、弟分の天才ぶりが恨めしくなる。
女王様と下僕の朝食は、高圧洗浄機の轟音と絶叫で終了となった。
ベース基地の最奥には「局長室」がある。
チームを率いるリュイの私室で、ここに入室を許可されているのは副官・マックスと、モカだけ。他の者は許されていない。
衣類や大量の本、銃器類が雑然と置き散らかされた部屋の中央には古いテーブルとソファがある。今テーブルの上のTVモニターでは、若いニュースキャスターが昨夜工業地帯の一角で起こった事件を報道しているところだった。
『昨夜遅く、バイオテクノロジー研究所に押し入った窃盗団が、研究所に勤務する研究員を人質に立てこもる事件が起きました。駆けつけた警察と連邦政府軍治安部隊が強行突入して人質救出を試みましたが、人質はすでに殺害されており、窃盗団は治安部隊との銃撃戦で全員射殺されたとのことです。
犠牲になった研究員、セルヒオ・アルバーロ氏(47)は、勤務態度が真面目な実直な職員で、誰からも好かれており・・・・』
「・・・口封じだな。」 マックスが立ったままでコーヒーを飲みながらつぶやいた。
「最初からそのつもりだったんだろう。」 モニター前のソファでは、リュイが腕組みして座っていた。
「未成年強姦魔、確かにいざってぇ時捨て駒にするにゃあ、丁度いいクズだが・・・。」
「強姦魔を研究所に潜り込ませた奴は?」
「見つかって無ぇ。アイザックが応ってるが、研究所を辞めた後は影も形もありゃしねぇ、とよ。」
解せない。足を突っ込みすぎて消されたか、それとも・・・? リュイは自分のカップに残ったコーヒーを飲み干し、カップをテーブルに戻した。
「モカを呼べ。掃除させる。」
「・・・お前、あの子をこき使い過ぎなんじゃないか?」マックスは顔をしかめる。年上のせいかマックスはリュイに敬語を使わない。
局長室の掃除に限らず、衣類の洗濯・食事の世話・諸々の雑務など、リュイの身の回りの事はほとんどモカがやっていて、多忙であるのを知っての苦言だった。
「掃除だったらウチの嫁のほうが上手いぞ。リーチェに頼め。手際はいいし几帳面だし気立ても顔も肢体も超一流・・・」
モカを気遣ってたはずがいつもの超絶嫁ラブバカップル節にすり替わりそうになった時だった。
「なにピーマン残しとんじゃこのクソガキがあぁぁぁぁぁ!!!!」
「ウチの嫁」の怒号・フェイ・コンポン悲鳴・派手な破壊音の三重奏と、「わー、ナムさん、傷は浅いっすー!!!」と、子供を庇ったと思われる勇者の弟分の悲痛な叫びがキッチンから聞こえた・・・。
「断る。」
「そうか。」
マックスは素直に自分の腕時計式通信機でモカを読んだ。




