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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
ルーキー来襲!嵐を呼ぶファーストミッション
34/403

女王様の凱旋~次の嵐の予感~

小さな筒状のカプセルに満たされたとろりとした溶液。

その中でやっと目で見えるほどの粒が2,3個漂っている。

「で?この子は何の細胞なのかな?」

ビオラは右の手のひらでカプセルを弄びながら、左手で男の尻をつねり上げた。

乙女のようなか弱い悲鳴を上がった。

「コンバット・ベアーのキメラ細胞ですぅ・・・。」

男が消え入りそうな声で答えた。


ビオラは今、マルスの繁華街のホテルで自分を連れ込んだチンピラ達のお相手をしている所だった。

チンピラ達の予定では、こうして泣き喚くのはビオラの方だったに違いない。

口にするのも憚られるほど淫猥な妄想に胸をときめかせ、ビオラをホテルの部屋へとエスコートしたチンピラ達は、あっという間に全員しばき倒されふん縛られた。

シミだらけの絨毯の床に無様に転がる白目を剥いたチンピラ達。その中で唯一手加減して倒したキザな男の背中の上に、ビオラがドッカリ腰を下ろしている。

ドレスのスリットからこぼれる魅力的な生足を高く組み替え、パッション・レッドのルージュを引いた唇に妖艶な笑みを浮かべて男をいたぶるその姿は、どこから見ても「女王様」のそれだった。

(コンバット・ベアー? 参ったわね、「大戦」で使われたキメラ兵器じゃない!)

女王様が柳眉をしかめた。

今回のターゲットがいた研究所は、太陽系中全ての国家で厳重に製造を禁じている軍事用キメラ生物を製造している事になる。

恐ろしく由々しい事だった。


かつては火星にも地球連邦政府直轄のキメラ生物研究所があった。

そこではキメラ生物兵器が開発・生産されていたが、ある日偶然誕生した強い個体が驚異的な力で暴れ出して施設を破壊。多くのキメラ獣・キメラ植物が脱走する事件が起った。

脱走獣の多くは火星の過酷な自然環境に適応できず死滅したが、幾つかの凶暴性の高い肉食獣が生き延び、驚く事に繁殖に成功。量産目的で遺伝子操作されたキメラ獣は、驚異的な繁殖力で火星全域に生息域を広げていった。

これにより、ただでさえ遅れていた火星開拓は見捨てられるように立ち枯れた。

火星基地での朝練時にキメラ獣がコンポンを襲った時、ナムが「理由がある。」と言ったのはこの事件を差している。この事件は火星の人々の間で暗黙の内に語られる「火星開拓打切りの真相」だった。

しかもキメラ獣の野生化は、火星だけに起った事ではない。

「大戦」で使用されたキメラ生物兵器の多くは戦後回収される事なく、その地で野生化して人々の生活を脅かした。凶暴なキメラ獣に襲われて命を落とす人は後を絶たず、太陽系中で深刻な問題になっている。

この世のどの生態系にも属さない異形の生物・キメラ生み出すのは、それほど危険な事なのだ。


ビオラは再び男に聞いた。

「そんなアブナイ子の細胞ちゃん、誰にお渡しだったの?」

「それは・・・いろいろと・・・。」

言いよどむ男の尻に、真っ赤なマニキュアの爪が食い込んだ。

「軍関係の方ですぅ!名前は勘弁してくださぁい!!」

軍関係ですって?まさか、地球連邦政府軍?!

いったい、なぜ・・・!?

「・・・ミッションはコンプリートしたけど、まだなんかあるかもね。」

ビオラは男の首に、右手中指にはめた指輪を押しつけた。

「ふぎゃっっっ!!!」

踏んづけられたネコみたいな悲鳴を上げて、男がガクン、と失神した。

ビオラの指輪はルビー。深紅の煌めきの奥に電流が流れる細かい配線が見える。

指輪型スタンガンである。「おしゃれな武器が欲しいわ♡」という姉貴分のリクエストに、ロディがチーズケーキ10個で快諾して創った傑作だった。


つまらなそうに立ち上がり、ビオラはホテルの部屋を後にした。もちろん「戦利品」は忘れない。

ホテルのロビーを出たところで華奢な金のブレスレットに声を掛ける。

「帰るわ。ブツは手に入れたしね。

ったく、見かけ倒しの連中だったわ、イヤんなっちゃう。

ブランドのスーツ着ていい車転がしているから相手してやったのに中身はカス。

あの程度でアタシほどのいい女とよろしくやろうなんて、図々しいにもほどがあるわね。薄汚いラブホなんかに連れ込んでくれちゃって、ホント、馬鹿にしてるわ!

ま、毛皮のコート買ってくれたから許して上げるけど♡ 言わなくっても貢いでくれるなんて、美しいってホント罪ね~♡♡♡

あ、リグナムに迎えに来いって伝えてくれる?」

ロディ作のブレスレット型通信機から聞こえるカルメン罵詈雑言。

それを小気味よく聞き流し、艶やかな毛皮のコートに身を包んだビオラは繁華街のネオンに姿を眩ました。

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