第二十三話 激突、お色気サイコロバトル
※作者註
ここでまた、サイコロを振らせていただくことにする。ひとつはMのために、もうひとつは、まりものために。出目が大きい方が、すばやく行動できる。補正値はなし。キャラの敏捷さとしては、幾多の戦闘をくぐってきたMが上だが、この状況ではまりもの方が有利。なぜならまりもは親指を少しだけ動かせばよく、それに対してMは、右手を上げて呪文を詠唱し、人差し指をまりもに向けなければならない。従って、条件はごぶごぶなのだ!(くわっ。
賽は投げられた。Mの出目は4……、まりもの出目は……、6!!
Mの放った「八塩折」は、その昔ヤマタノオロチをも昏倒させたという強烈な酒である。その効果が一瞬にして少女の全身に注ぎ込まれ、彼女は意識を失い、長い髪をなびかせながら、地上に向けて落下し始めた。
「いけない!」アンノが慌てて後を追い、小さな身体を抱き抱えた。露出の多い衣装から、ふっともれる色気がアンノの心をくすぐる。それはまるでブラックベリージャムをたっぷりかけたショートケーキのような甘美さだ。と、その時Rが「あっ」と小さく声を上げた。
「すまん、俺の技が少し遅かったようだ……」身体を隠そうとするRをチラチラと身ながら、Mが言った。Rの着ていたシックな制服は消え去り、素肌に下着をつけ、その上に白い半透明のコートを羽織っただけの状態となっていた。コートの前を掴み、両手をしっかりと胸の前に合わせた。巨大なMの左腕の上に座っているからまだいいが、そうでなければ全身のラインが透けて見えてしまうだろう。
「R様、その姿もまたお美しいですよ」コイーン! コイーン! アンノのRに対する好感度が上がった。
「あ、ありがと……」ぽっと頬を赤らめるR。空が少し青みがかってきている。急がねば、とMは思った。一同は一度地上に降りることにした。下は砂漠地帯だったが、ちょうどオアシスが見えたのでそこへ着地した。RはMの腕から降りて、草むらにしゃがみ、全身を隠した。アンノが少女を、草の上に寝かせた。黒い下着のような露出の多い衣装と思われたが、こうして落ち着いてみると、ただの少女向けの夏物の衣装だった。
「R、そいつが恐らく、球状まりもだと思うが、どうする? 今ならトドメを刺せるかもしれない。それによってこの衣装の設定が解除されるかどうかは、わからないが……」チラッチラッ。
「このままじゃ恥ずかしくて人前に出られないよ……。なんとかならないかな?」
「そうだな……、アマテラスの技、『黒蛇』で快楽漬けにしてしまうか……。俺の持つ『八塩折』でも近いことは可能だ。だがそのストレスが新たな危険を生む恐れが高い」
「私が開けちゃった地獄門みたいに、だね」
「そうだ……」
「地獄門? なんなのですかそれは」アンノがMに尋ねた。
「悪いがその説明は後だ。俺の技、『八塩折』には催眠効果もある。それを使って仲間にしてしまうか……」
「ふうん、便利そうだね。でも何かリスクはないの?」
「ある。催眠が解けてしばらく凶暴化する。RPGでいうと、バーサク(狂戦士化)、だな」
「うーん、それもかわいそうだね」
「ああ、暴走を抑えるために、結局殺さざるを得なくなることが多い。だったら最初から殺してやった方がいい」
「あ、でも、設定は戻してもらわないと」
「そうだった……、うーん……。しょうがない。暴走はなんとか俺が食い止めよう」
Mはまりもの身体の中の、酒の量を調節し、彼女を催眠状態にした。目をあけたまりもは、うるんだ眼で三人を見上げた。
「誰? ここはどこ?」
「それより、お前の名前を教えてくれないか?」Mが言った。
「私? 私は球状まりも」
「俺達は、MとR、そしてアンノというものだ。お前にこの世界の設定を変更して欲しい。まりもの異世界憲法というアイテムを削除して欲しいんだ、いいかな?」
「うん、わかった」まりもはあっさりと、設定をゴミ箱に移動した。恐るべきMの技の効果であった。すばやくRが、開いた所にダミーのアイテムを作り、ロックをかけた。これでまりもが設定していたすべてのアイテム設定スルットが、Rのものとなった。
(Mさん、ついでにまりもちゃんを、私の仲間にしておくね)
(ん? 憲法にそう書くのか?)
(うん、できるかどうかわかんないけどね)Rは「MとRの異世界憲法」に、仲間についての条項を追加し、まりもの名前を加えた。
こうして異世界憲法の神は、Rの仲間になった。だがMはまだ緊張を緩めなかった。このあと訪れるまりものバーサク状態……、それを想像し、またもMの額に、嫌な汗が流れた。




