1話 悲しい真実
第1章のネタバレが含まれるため先にそちらをお読みください。
「お父さん、大丈夫!」
私は高校でお父さんが倒れたことを聞き、病院に駆けつけた。
勢いよく開いた扉の先には昨日まで元気だったお父さんが真っ白なベットに酸素マスクを付けて横になっていた。
「おー、奈穂か」
首を私に向け、くぐもった声で私のことを呼ぶ。その姿はまるで別人だった。
「大丈夫なの?」
私はベットの前で屈み、叫んだ。
そうすることで少しでも聞こえづらいお父さんの声を聞こうとした。
「あー、大丈夫だよ、心配かけてごめんな」
お父さんは私の頭を優しく撫でた。
それはお父さんが心配をかけまいとするいつもの癖だった。
「奈穂……」
扉を開けて入ってきたお母さんが私のことを呼ぶ。
いつもおっとりしてあまり喋ったり表情を見せないお母さんの目元が赤くなっていた。
それで私は悟った。お父さんの病気が重いことに。
そのため、私は毎日お父さんの病室に通った。
そして高校の話をした。
部活のこと。
テストのこと。
明日も来ること。
その言葉通り毎日放課後にお父さんの見舞いに行った。
それは1ヶ月続き夏休みに入っても変わらなかった。
しかし病状も変わることはなかった。
そんなある日、ある女性が度々お父さんの病室に入っていくのを見かけた。
その人は病室でお父さんと気さくに話していた。少し攻撃的な口調が特徴でお母さんとは全く異なる人だった。
よく分からないが本能に近い直感でこの女性と関わってはいけないという気持ちが働き、直接合わないようにした。
そのためその人が病室にいることに気づいたら扉越しに会話を聞いていた。
しかし話の内容は全く聞き取れず、気になって仕方なかった。
そして私はある時、直接お父さんに尋ねてしまった。
そのことがとても残酷なことだとは知らずに。
「いつも見舞いに来る怖そうな女性は誰なの?」
ベッドの横のイスに座り何気なくお父さんに尋ねる。
お父さんはそれを聞き、悲しそうな表情になった。
「奈穂も知っていい頃かな」
お父さんは独り言のように呟き、病院の天井を眺めた。
そして長いこと考えていた。
私はお父さんが何を話してくれるのか不安で仕方なかった。しかし聞くべきだと思った。
「奈穂、もし兄がいたらどうする?」
深く考えたお父さんが天井を見たままポツリと言葉を出した。
「え……」
お父さんの話の意図が分からなかった。しかしお父さんの質問には答えなきゃいけないと感じた。
「会いたいかな」
困惑している頭をほっといて答えたため素直な言葉が漏れる。
「そうか……それならいっか」
お父さんの言葉が狭い病室に響く。
「お母さんには何も言わないことを約束できる?」
お父さんは首を動かし、まっすぐな目を私に向けた。
私もお父さんの目を見て深く頷いた。
それを見たお父さんは身体を起こそうとした。
「あ、お父さん、寝てなきゃ」
私はお父さんを横にしようとするが断られる。
起き上がったお父さんはペンと紙を持っていないかと尋ねたので私はボールペンと持っていた花柄の日記帳の最後のページを破いて渡した。
お気に入りだったがお父さんに日記の内容を見られるのが恥ずかしかったため破いた。
お父さんはその紙を受け取り何かを書き始めた。
「これはね、奈穂の兄の住所だよ。そして
奈穂がいつも見てる女性はそのお母さんだよ」
「どういうこと?」
私はお父さんの言葉が理解できなくてわかりやすい言葉を求めた。いや、理解していたがそれを拒んだのかもしれない。
しかしそんな私でも理解できるはっきりとした言葉で事実を告げる。
「お父さんね、二人の女性の子どもを産んじゃってね、一人が奈穂。もう一人が奈穂が見かけた久美子さんの子どもの真輝だよ」
それを聞いた瞬間、私は無意識に反射的にお父さんの頰を叩いた。
自分でもびっくりするくらいその哀しい音は大きく真っ白な病室に響いた。
私はお父さんを叩いてしまったショックや、お父さんに聞いた真実に混乱して病室から逃げた。
私は泣いていた。
私は一枚の紙を持って泣いていた。
カバンや日記帳を置いて、ただただそこから遠くに行きたくて走った。




