最終話 家族
葬儀などで慌ただしく母さんと話ができたのは3日後だった。
その間、奈穂はお父さんと思われる人が亡くなったことでしばらくショックで直子さんという人物に連れられて何処かに行ってしまった。
僕自身もお父さんと思われる人物に会い、そして亡くなったことで気持ちの整理が必要だった。当然バイトのほうは休ませてもらった。
そして気持ちを落ち着かせるため部屋に篭るようになった。
そのため母さんと話をすることはほぼなくなった。
そして母さんも口数が減った。
母さんも傷ついていたのだろう。
そして重々しい空気を纏い、3日が経過した昼、母さんに呼ばれた。
母さんに呼ばれ、リビングに行くと奈穂と直子さんがいた。
僕は奈穂に会えたが気持ちが動くことはなかった。
僕は、4人分のお茶を出しテーブルに着いた。なかなか切り出せないのか沈黙が続く。
「……じゃあ、まずは紹介するね」
母さんが意を決して口を開く。
「奈穂のお母さんの直子さん」
予想していたことなので、そうなんだ、としか僕は感じなかった。
「初めまして、真輝君」
紹介された直子さんはとても優しそうで穏和な性格な人だと雰囲気で感じた。
「初めまして」
軽くお辞儀をする。
「で、えーと、そのー、直子さんは健一さんの奥さんで」
健一さんの奥さんという言葉を理解することを拒む。
健一さんというのは僕の父であり、先日亡くなった人だ。
「健一さんって僕の父さんだよね」
その認識が間違っていて欲しくて確認する。
しかし母さんはさらに分かりやすく直球にストレートに僕に真実を突きつける。
「そうだよ、奈穂と真輝のお父さんだよ」
「そして奈穂と真輝は兄妹だよ」
母さんは僕の気持ちを置いて続けざまに真実を告げる。
以前感じた何処かで見たことがあるというのは
自分の顔に似ていたため、そう感じただけだった。
さらに僕が初めて会った時に感じたのは一目惚れではなく、兄妹の縁だった。
それを僕は勘違いし、恋に溺れていた。
僕は混乱したため一口お茶を飲む。しかしそう簡単に整理することはできなかった。
そんな僕に構わず、母さんは勢いに任せて言葉を続ける。
「それと母さん、実は一度も結婚したことないんだよ」
僕は何も考えられなくなった。
とりあえず話だけを耳に入れる。
「実は母さんと直子さんは……」
そう言いちらりと直子さんのことを母さんを見た。直子さんはそれを受け頷く。
「健一さんのことが昔好きでね、互いに争っていたんだよ、それで互いに子供を授かっちゃってね」
母さんの優しくも寂しげな声がリビングに広がる。
「先に気づいた直子さんが結婚、私はその後に気づいたがもう結婚しちゃってて手遅れで……」
母さんが一度、話を止める。
母さんは今にも溢れそうになる涙を堪えていた。それでも話を続ける。
「当然、周りから真輝をおろせとか言われたんだけどね、その反対を押し切って産んだんだよ」
母さんは立ち上がりそっと僕を包んだ。
「変な話をしちゃってごめんね、つまりね、健一さんは奈穂と真輝の父さんで、奈穂の母さんが直子さん。私が真輝の母さん。それでも健一さんはどちらの子供も愛し、直子さんも真輝のことも奈穂のこともを愛し、当然私も真輝も奈穂のことを愛してるよ」
もし、今、僕が混乱していなかったら父さんに憎しみを感じただろう。しかし混乱していた僕に憎しみは湧かず、また母さんの言葉で憎しみを感じないことにした。
「お父さんを憎まないでね、私が襲ったようなものだから」
母さんは笑っていたが色々な感情が混じりすぎて子どもの僕は理解できず、ただ頷くしかできなかった。
「ほんとごめんね、直子さんも奈穂も」
母さんは謝り、顔を洗いに行った。直子さんと奈穂、僕は母さんの言葉に水を差さずただ聞いていた。
僕は母さんがいなくなった途端、目の前の飲み物を一気に飲み干して奈穂に尋ねた。
「ところで奈穂は知っていたの?」
奈穂はゆっくり頷いた。
「それと記憶喪失って本当なの?」
「ごめんなさい」
奈穂は首を横に振り申し訳なさそうに謝った。
「良かったー」
僕はそのことでイスに全体重を掛け、脱力する。同時に不安や心配といったものも脱ぎ捨て完全に身軽になった僕は自然と笑みが漏れた。
「それで今後のことなんだけど……」
顔を洗った母さんがリビングに現れる。口調は普段の少し乱暴な口調に戻っていた。
「これから奈穂と直子さんも一緒に暮らすことになるけどいいよね」
母さんは本当に直子さんを恨んでないことをその提案で知った。
そして僕が反対する理由もなくその提案に賛成した。
「あ、あの、それでお兄さんって呼んでいいですか?」
突然、奈穂が照れながら僕にお願いする。そんな奈穂のかわいさに抑えきれず、にやけてしまった。
しかし僕はしっかりといいよ、と答えていた。
そしてそれを聞いた奈穂は照れながら笑顔で潤んだ声で僕を呼んだ。
「お兄さん!」
「また、奈穂泣きそうになって」
母さんがからかうように言う。きっと重々しい雰囲気を壊すためだろう。
「またってどういうこと?」
僕は気になって母さんに問う。
「奈穂って真輝に会いたくて色々調べてここまで来たんだよ、それで会いたかったお兄ちゃんに会うなり泣き出していたじゃん」
僕は長年会いたかったお父さんに会った時に自然と涙が出た。
奈穂も僕に会った時、泣いていたということは僕にそれほど会うことを望んでいたとわかり、嬉しくなった。
「お兄さん、そんなんじゃないんだからね!」
奈穂が真っ赤になりながら否定した。
奈穂の素の姿が見え、僕たちはその日家族になった気がした。
そして僕たちは今後、たくさんの思い出をつくっていく。
ここまで読んで頂き本当にありがとうございました!
今後は2章に突入し、サイドストーリー(奈穂の視点の物語)を予定してます!




