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失った思い出  作者: ういもと
第1章 真輝の物語
21/52

21話 お父さん

「お父さん?」


直感で目の前にいる人物がお父さんだと気づいた。そのため声が震え、今にも泣きそうになる。


「そうだよ」


優しくて頼もしい、そんな一言に僕は堪えきれず子どものように泣いた。


顔を歪ませ、涙で顔をぐしゃぐしゃにさせながらボロボロと。


長年見せていなかった分を補うように僕は泣いた。


「父さん、父さん、父さん……」


目の前にいる父さんを何度も何度も何度も呼んだ。


理由は自分でもわからない。


ただ、父さんと呼びたかっただけかもしれない。


そして呼ぶ度に「どうした」「なんだ」と優しく父さんは答えてくれた。ベッドのシーツは涙で色が濃くなっていた。


「真輝、淋しい思いさせてごめんな」


お父さんが弱々しく僕の頭をゆっくり撫でる。


「大丈夫だよ、父さん、生き続けて僕とこれからたくさん思い出作ろう」


忘れたって、なくたって、今の思い出はたくさん作れる。


それは僕がこの間、気づいたことだ。


「そうだな、今も大切な思い出だよな。最期に会えてよかった、奈穂もね」


優しく奈穂と僕の頭をなでる。


僕と奈穂は涙の存在を忘れるほど泣いていた。


そんな二人をさっと後ろから誰かが包んだ。


誰かは顔を見なくても母さんだとわかった。


「久美子も直子も来てくれたか」


父さんがゆっくり顔を母さんの方に向ける。その隣にも女性がいるのか声がした。


「当たり前だよ」


その声は30代くらいだと思われる声だった。


「何言ってんだよ」


母さんがいつもの調子でわらっていた。しかし涙を堪えているのがわかった。


「久美子も直子もすまなかったな」


父さんは母さんと直子さんに謝った。


「何言ってんだよ、もういいって」


母さんはそれを自然に笑って流す。


「ほんとそうですよ」


直子さんも微笑む。


「最期みんなに看取られるなんて幸せだな」


「何を言ってんだよ」


「そーだよ」


その場にいた全員が今にも泣きそうだった。


そして一定のリズムを刻んでいた電子音が一つの音に変わった。

ここまで読んで頂きありがとうございました!

明日、完結します!

そして2章スピンオフ作品が開始予定です!

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