21話 お父さん
「お父さん?」
直感で目の前にいる人物がお父さんだと気づいた。そのため声が震え、今にも泣きそうになる。
「そうだよ」
優しくて頼もしい、そんな一言に僕は堪えきれず子どものように泣いた。
顔を歪ませ、涙で顔をぐしゃぐしゃにさせながらボロボロと。
長年見せていなかった分を補うように僕は泣いた。
「父さん、父さん、父さん……」
目の前にいる父さんを何度も何度も何度も呼んだ。
理由は自分でもわからない。
ただ、父さんと呼びたかっただけかもしれない。
そして呼ぶ度に「どうした」「なんだ」と優しく父さんは答えてくれた。ベッドのシーツは涙で色が濃くなっていた。
「真輝、淋しい思いさせてごめんな」
お父さんが弱々しく僕の頭をゆっくり撫でる。
「大丈夫だよ、父さん、生き続けて僕とこれからたくさん思い出作ろう」
忘れたって、なくたって、今の思い出はたくさん作れる。
それは僕がこの間、気づいたことだ。
「そうだな、今も大切な思い出だよな。最期に会えてよかった、奈穂もね」
優しく奈穂と僕の頭をなでる。
僕と奈穂は涙の存在を忘れるほど泣いていた。
そんな二人をさっと後ろから誰かが包んだ。
誰かは顔を見なくても母さんだとわかった。
「久美子も直子も来てくれたか」
父さんがゆっくり顔を母さんの方に向ける。その隣にも女性がいるのか声がした。
「当たり前だよ」
その声は30代くらいだと思われる声だった。
「何言ってんだよ」
母さんがいつもの調子でわらっていた。しかし涙を堪えているのがわかった。
「久美子も直子もすまなかったな」
父さんは母さんと直子さんに謝った。
「何言ってんだよ、もういいって」
母さんはそれを自然に笑って流す。
「ほんとそうですよ」
直子さんも微笑む。
「最期みんなに看取られるなんて幸せだな」
「何を言ってんだよ」
「そーだよ」
その場にいた全員が今にも泣きそうだった。
そして一定のリズムを刻んでいた電子音が一つの音に変わった。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
明日、完結します!
そして2章スピンオフ作品が開始予定です!




