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スプレーカーネーションを抱いて

店長目線。これからますます忙しくなりそうな、水瀬花屋。ある時、子供の母親が訪ねてきます。

 11月から、悟君に受験勉強に集中してもらうため、朝の仕入れのバイトを辞めてもらった。本人はやる気だったのだけど、結局、仕入れた後の仕分け作業もあるので、午前中一杯つぶれる。


 でもうちの店の2階に下宿してる。悟がウチにいたい限りは、遠慮なくいるればいい。家族と同じような気分だし。


 明日から12月という日、私と飛鳥ちゃんは、クリスマスと正月の計画を練っている。


 生け花教室からは、正月を飾る生け花のレッスンをするとかで、松や南天、大輪の菊などを注文いただいた。後は、12月にどれだけ売れるだろうかだけど、去年の数値を参考にはして考えてはみた。が、はっきりいってアテにならない。


「店長、とりあえず、クリスマス用の花のアレンジよろしくお願いします。ブログにのせて”ツリーと花で祝うクリスマス”とかなんとか、でっちあげます。後、”彼女へのクリスマスプレゼントは花束で”キャンペーンもしますから、宣伝用の花束、よろしくです。」


 はい、はい、確認。どっちが経営者なんだかわからない所もあるけど、このぐらいの仕事なら、面倒はない。問題は、この時期、彷徨う魂(幽霊ともいうが)が、格段におおく集まってくる事だ。クリスマスという日を前に、ウチと三条教会が明るく輝いてみえるらしい。


 飛鳥ちゃんとコーヒーを飲んで一息ついてると、迷子の魂がひとつ、店の外にたっているのが、気配でわかった。


「飛鳥ちゃん、店の外にいるようだよ。」

「あ、お客さんですね。なんかそんな気配しました。」

「違いますよ。魂だけのお客さん。幽霊さんです」


 飛鳥ちゃんは、相変わらず精霊も幽霊も、時々、生きてる人と間違える。その理由はなんとなく想像はできる。彼女の力が強すぎるせいなんだと思う。


 きく所によると、彼女の母親の家は、もともと京都の旧家で、”始祖は稲荷神社の使い狐のの血を引いている”という言い伝えも残ってるそうだ。


 飛鳥ちゃんも彼女の母親も”そんなんありえへん”と、鼻でわらってるけど。


「飛鳥ちゃん、常識で考えてね。店はシャッターを閉め閉店してるってわかる。もう9時だ。そこに、急患のように2どうしても花が必要なんです”なんて、客がウチに来るかい?」


 ”なるほど”だなんて、新しい知識を聞いたような顔をしないでほしいな。4月からは、悟も淳一もいなくなって、飛鳥ちゃんだけがウチの戦力なんだから。


*** *** *** *** *** *** **

「すみません、少しお聞きしたい事があるのですが、私の子供達、知りませんか?私は菅といいます。子供は、幼稚園児から小学校高学年まで3人です。一番下が女の子で、上二人は男の子です」


 意を決して訪ねてきたその女性は、体はところどころ赤黒いシミがあり、それ以外は透明な体だ。正直、子供を惨殺された母親は、怨に心を奪われ、ここまでたどり着けないかと私は危惧してた。


「あなたの事を、もっと聞かせてください?」

「そうね、そうすれば、きっと力になれると思う」


 飛鳥ちゃんが、そう言って彼女の手を握ると、不思議と手が光って、少しか彼女の体のシミが取れて行った。浄化したんだ。もちろん、飛鳥ちゃんは無意識だろう。


「私は夫に殺されました。夫は暴力がひどく、私が離婚しようと言い出した次の日、やられました。ええ、もちろん悔しかったです。死んだ事がわかりアイツにとりつきました。横に長男もいたんですけど、もう気にならないほど私は怒っていたので。そのうち、だんだんアイツの姿も見慣れた風景も見えなくなって、気が付くと暗闇に一人でした。そこでやっと我にかえって、子供の事を思い出したんです。」


 怨や執念が強すぎたんだろう。まあ、時々、自分が死んだことを理解できず迷子になる天然さんもいるが。


「つらかったですね。確かにあなたの子供さん3人は、ここに来ました。下のお子さん、ユっちゃんでたっけ?かわいい女の子でした。」


「そう、そうです。由依子です。で、あの子達はどこ?」


 彼女が飛鳥ちゃんに、目を見開きせまったので、あせるかと思ったら、肩や背中を撫でながら”心配ないですよ”となだめてる。恐れや恐怖とかないんだな、飛鳥ちゃんは。母親は少し悪霊になりかけてるのに。


「ところで、子供の来た事、よくわかりましたね。」

「ええ、かすかですけど、たまに3人が歩いてる姿が視える事がありました。居間の天井で呆然と浮かんでる時、一部始終を見ました。あの子達もアイツに殺されたんです。どうやっても何も、私は本当に何も出来なかった。」


 泣き出してしまった。母親の悲しみからくる涙は、彼女をより浄化させてるようで、また悲しみの青い色に染まっていく。


 私はスプレーカーネーションを一本とり、彼女に渡した。


「見て下さい。この花は一つ枝から枝分かれして、三つの小さなカーネーションが咲いてます。あなたのお子さんのようにけなげな姿ですね。彼らにあなたを、送ってもらいましょう。」


 子供の精霊が3人でてきて、母親の手をにぎった。もちろん、彼女の子供達には似てない。彼女は目をパチクリさせて戸惑ってる。


「あの、うちの子達は?」

「マダム・ダリアに天国まで送ってもらいました。お母さんは後からすぐ行くからと説得して。だからあなたもはやく行ってあげてください」


 その言葉で母親と精霊たちは、視えなくなった。


「花の精霊といっても、全然、気にしませんでしたね。死んだらわかるんですね。」


 飛鳥ちゃん、見分けられない事を、きにしてるんだな。今は、私がついてるから大丈夫だけど、それでも少し気を付けた方がいいけとは思う。





週一更新です

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