グリーンベルは混乱する
飛鳥ちゃん目線。ある日、店に星が丘高校の生徒は駆け込んできます。その正体は。
奥の倉庫へちょっとだけ行ってる間に、お客さんがいらしたらしい。
星が丘高校の生徒で、この季節にコートも着ていない。なんだか、キョロキョロしてるけど花を見てる感じでもないんだよね。
「いらっしゃいませ。お待たせして申し訳ありませんでした。奥に行っていたもので。花についての質問等ありましたら、どうぞご遠慮なく。花の取り寄せも行ってますから」
「あのすみません。私、追われてるんです。ここに少しいていいでしょうか?」
追われてるなんて、穏やかじゃないわ。今はやりのストーカー?それとも、自由業の人とか。
「すぐ警察に連絡します。それまで、あちらに休憩室があるので、そこへ。」
「待って、通報しないでください。校内の不良たちから逃げてるだけで、しばらくしたら、彼女らもあきらめると思います」
まだ午後の1時、土曜日でもない。星が丘高校だけ午前授業なのかしら。とにかく彼女を、丸イスに座らせて、暖かいお茶を出した。さすがに震えてるようだったので。
「星が丘の生徒さんなら、まず敦神父さんに連絡してみましょう。どんな不良かは知りませんけど、ここまで追いかけて来るなんて、油断ならないです。」
「敦神父さんって誰?あのそれにここは、どこでしょう?私、校内の”お祈りの部屋”に隠れてるとこを、彼女らに見つかってしまって、パニックになって飛び出してしまって」
パニくるほど、怖い不良?もしかしてイジメられてる途中に逃げて来たのかも。
「敦神父は、三条教会に今日はいるはずだから。あなた、お名前は?」
「え?名前?て...私って、えっと...」
頭を強く叩かれたのかしら。それなら病院へ行ったほうが早い。救急車をよぼうと、店の電話に手をかけた時、淳一が止めた。
「ったく。いつまでたっても進歩ねえな。ありゃ、女子高生なんかじゃないだろうが」
「淳一、あんた、高校は?」
今日は午前授業とかいいながら、星が丘の生徒の前にどっかり座り、質問した。
「最初に思い出せる事はなに?」
そこで、彼女はイジメられてる事を、話し出した。涙を流しながら。学内でも評判の不良グループに目をつけられ、恐喝されたり時には暴力をうけたりと。
そこまで覚えてるのに、名前が思い出せないっていうのも可哀想に。
「君は人じゃないんだよ。よく思い出してみ。」
「ちょっと淳一、人じゃないなんてひどすぎ。」
「よく見ろ。この子はグリーンベルの花の精霊。それは間違いないんだけどな。精霊の中に何かいるような気配」
はぁ?花の精霊って、ああそういえば、午前中に敦神父が、”前に星が丘にいたシスターが亡くなりました。”って、珍しいけど安い花を店から購入していただきました。風鈴花と聞いたけど。
「これじゃ、俺、安心して札幌にいけない。飛鳥先輩、よく見て。彼女の中心に、ボヤっとでもいいから花姿が見えないか?」
む!集中。言われてみると、かすかに見える。ボールのような緑のガクに白い花。
「これは俺の推測だけど、女子高生の悩みや愚痴を聞いてるうちに、同情しすぎて、影響うけすぎたせいじゃねえ?」
ここまで言っても、彼女は信じられないって顔してる。学年もクラスも、自分の名前すら忘れた事に気づき、少し考え込んでる。
とにかく神父に連絡だわ。といっても花の精霊が視えない人だからね。視えないのが普通だけど。彼女の言っている事を伝えれば、なんらかの手がかりでてくるかも。
とにかく電話と思ってると、ちょうど敦神父が店にやってきた。いつも間が悪いけど、今日だけは、ジャストタイミングだ。すぐに訳を説明して、視えなくても精霊に会わせた。
「あれ。桜木瑠璃さん。どうしてこんな処にいるんです。早く自分の体に戻ってください。どうりで目が覚めないはずです。」
ふふ、淳一も間違うのね。花の精霊じゃなく、女子高生の魂ね。でも、確かにグリーンベルの花がボンヤリと視えたんだけど。
「なるほど、そういうことか。おい、グリーンベル、彼女の魂を離してやれ。桜木さんとやら、もう心配なから出てこい」
「淳一君、君の声が怖いです。桜木さん。あなたをイジメていた不良5人組のうち3人は、傷害事件をおこして少年院へ行きました。残りの2人は退学して、両親ともどもどこかへ引っ越したそうですよ。何より、あなた、1年も眠ったままです。頭には損傷はないようですから、怖がらずに体に戻って下さい」
その言葉で、オズオズとグリーンベルの精霊だろう姿が、横にずれて見えた。若草色の薄いセーターに緑のベルト、白のプリーツスカート、グリーンベルのイメージそのものだわ。
完全にはなれ、精霊はすぐ震えてる桜木さんを、抱きしめた。
<大丈夫、もう心配ないから。>
「怖かったの、あいつらカッターで脅してきて、実際に傷をつけられて、殺されるって思った」
「うんうん、ひどい目にあったね。もう誰もあなたを傷つける人はいないから。体に戻ったら、こんなつらい目にあった事すべて、忘れてるから」
敦神父の言葉が本当になるといいな。
桜木さんの魂は、精霊に連れられてフっと視えなくなった。きっと体に戻ったのだろう。
”敦神父さん、すごいです花の精霊が視える様になったんですね。”って褒めたんだけど、
「残念ながら視えなかったですね。キリっと立っていた彼女がいつのまにか、体を丸めて震える姿になったのは、わかりましたが」
「つまりは、精霊が、同情し抱きしめるうちに、女子高生の感情を持ってしまった。ってこと。結構、面倒っちい。」
まったくだわ。だいたい、イジメから傷害だなんて、いったい学校でどんな教育をしてるのよ。敦神父さん。
「あれは、わが校開校以来の不祥事で、特異な例で、殆どの生徒は真面目で優しいんですよ。星が丘高校にイジメはありません。多分...」
最後に声が小さくなったよ。本当に頼りないというか、でもイジメを完全になくすのは無理なのかしらね。
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