ミモザアカシアとポッチの女子高生
敦神父に、水瀬花屋に誘われた女子高生・美鈴。今回は美鈴の視点での話しです。
「美鈴さん、ちょうどいい処で会えました。中でお茶でもどうです?」
やっかいな奴に声をかけられてしまった。敦神父がこんな処にいるとは。神父、しつこいんだよな。ちょうど私は、花屋の窓際の黄色い花をみてた時だ。花の名前は知らないけど、何かキラキラしてて、見ていて気持ちが明るくなりそうだから。
”ささ、遠慮しないで”なんて、背中を押されて入って行くと、同じ高校の生徒がいた。学年も多分、同じ。合同授業で見かけた事がある。神父は、横にいた花屋の店員らしき女性に、何やらささやくと、そそくさと出て行ってしまった。おい!放置かい。
「こんにちは、いらっしゃい。ちょうど今、休憩時間。どうぞ座って」
奥に通されて、出て来たのは、20歳は超えてるだろう女性。この店の店員らしい。
「そのコートを着てるから、真里亜ちゃんと同じ星が丘高校ね。ああそっか。あそこはカトリック系の高校だから、敦神父と顔見知りだったのね・」
私としては、お知り合いになりたくなかったけど。星が丘高校は女子高。去年、市内の教会に赴任したとかで高校にも挨拶にきた。全校生徒600人の中で、ある事がきっかけで顔を覚えられた。まあ、私がニキビ顔だから覚えやすかったのかな。
「こんにちは、私、美術部の2年、林 真里亜。よろしくね。前にこの水瀬花屋に私が撮った写真を飾らせてもらった縁で、時々、花の写真を撮る練習してるの。」
「大家美鈴です。同じく2年。帰宅部。なぜか敦神父に顔を覚えられてます」
「ここで働いてるバイトの飛鳥です。真里亜ちゃんと、ブログにのせるから、花の写真の上手な撮り方を研究中。」
そっか、ここでも私、ポッチになるね。私、写真の趣味なんかないし、あまり知識もない。ついでに花は好きだけどあまり知識もないから、飛鳥さんというバイトさんとも、話しがあわないだろう。なれてるけどさ、ポッチには。適当にタイミング見計らって、ここ出よう。
「それにしてもさ、飛鳥さん。敦神父って、ちょっとズレてない?なんていうか、いう事は正しいと思うけど、”問題はそこじゃないぞ”みたいな時ない?」
「あるある。行動もそうよ。この間、儀式に使う大事な香炉を忘れてね、私、慌てて届けにいったのよ。花屋の仕事じゃないのにね。抜けてるのよ」
あっはは。それは愉快だ。確かに忘れ物のをよくしそうだ。ボヤっとしててお坊ちゃま?世間を知らない風というか。
敦神父と出会った時は、私は本当に死にたくなった日だったなあ。私は、思い出してしまった。
その日は朝から全校生徒で”野外ミサ”という名前の遠足。昼食は入るグループもなく一人で、食べた日だった。それはいい。一人は慣れてる。でも帰り路、後ろを歩くグループから、
「大家、どのグループからも誘われなかったのね。ま、性格暗いから雰囲気こわすしさ、第一あのニキビ顔を、見ると不安になっちゃう。自分もああなったらどうしよってさ」
楽しそうな3人組が、前にいるのが私だと知っていて、わざと言ってくる。これってイジメね。女子高だけにやり方が陰湿だ。
私の顔は、その時はニキビがひどかった。前髪をたらしおでこを隠しても、頬のニキビが赤く腫れて、自分でも恥ずかしかった。でも顔だけで人を不安にさせるなら、もう、どこかに引きこもっていたくなった。情けない。私は生徒の列から離れ人目のないところに隠れた。そして、しばらくしゃがんで、心を落ち着かせてた。
そんな時に敦神父が声をかけてきたんだ。ウッカリ、自分の顔の事を愚痴ったら神父は黙って聞いてくれた。愚痴を言った後で、冷静になった私は恥ずかしくなった。神父はいろいろ励ましてくれたけど、私はその場を逃げ出したかったっけ。神父の”皮膚科に相談しては”というアドバイスだけは、しっかり聞いて実行。結果、遠足の時よりかは、ニキビの数が減った。でも、ポッチはかわらなかったけどね。
「ねえ、大家さん、美鈴ちゃんって呼んでいいかしら。この店では下の名前を呼びあうみたいでさ。ね、美鈴ちゃん、美術部に入らない?私みたいに写真をやってもいいし。」
「ごめん、私、絵とか写真とか全然、興味ないんだ」
真里亜だかって女子の誘いに乗れば、私は一人じゃなくなるかもしれないけど、それは彼女に嘘をついてるようでいやだった。
「ああでも、美鈴ちゃん。店の花、見てたでしょ。花は好きなのよね。」
「あの・・まあ、目についたというか、そこだけ明るいかんじがして。」
どうして私は、こう話しベタなのだろう。自分でもどうしようもない。一人、暗く落ち込んでると、後ろから男性が声をかけて来た。
「ウィンドウの花は、ミモザアカシアという花ですよ。2月14日の誕生花です」
「そういえば、店長、めずらしくポスター貼ってありましたね。”バレンタインにはチョコと花とシャンパンを”ってキャッチコピーで。でも、未成年はアルコールは飲めないから、ちょっとどうかなって思ったんですよ」
店長って、若いな。一重で涼やかな目もと、スッキリした顔の形、和風イケメン。まあ、私にはどうせ関係ない世界の人だろうけどさ。その店長が、腕を組んで深いため息をついた。
「はあ~。しょうがないんだよね。これも商店街の取り組みでさ。ほら、バレンタインにチョコだけ売れるのは、業腹って、花業界と酒屋業界が考えたんじゃないかな。まあ一応、誕生花のミモザアカシアを飾ったけど。」
商売の世界って、いろいろあるんだな。確かに未成年は、チョコくらいしか買えない。花だって、男子に贈っても普通は喜ばないだろう?女性からはチョコ。男性からは花 と送りあう形にもっていきたいのだろうか。
「そういえば、敦神父はそっちにいました?今日はこれから力仕事を手伝ってくれるはず」
「いえ、いませんよ。多分、逃げたんでしょうね。勘弁してあげてください。今、忙しい季節にらいいです。祭事もそうですが、会計のほうも面倒らしくて。教会を掛け持ちしてるから仕事の量が半端ないらしいんですよ。」
「神父さんってもっとノンビリしてると思ってました」
だよね。あの神父の頭は、万年お花畑で、ほよ~っとしてそうだ。さて、そろそろ帰るかと思った時、挨拶と一緒に男子高校生が入って来た。
「へ~花屋に男子のバイトもいるんだ」
黙ってるつもりが、つい口にでてしまった。
「そうっすね。花屋は見かけとは違って、力仕事・水仕事・危険な作業 で、ハードっすよ」
エプロンをつけながら、その子は答えてくれた。
「淳一君、敦神父がいないから、保冷庫の整理を手伝ってくれない?一回全部花を出したいし」
「じゃあ、さっそくかかりましょう。どうせ先輩、サボってたんでしょ。」
生意気そうというか、少し不良っぽくみせたい?仏頂面がかえって、イケてない。
「今は休憩時間だったのよ。真里亜ちゃんと美鈴ちゃんと。若い女子が3人もいると、店も華やかでしょ。」
飛鳥さんは笑いながら、返事を強要したが。
「あっは。華やかってなんだ。ただの地味顔女子会じゃないか?」
ひど、私はともかく、飛鳥さんは美人だし、真里亜ちゃんもかわいいのに。飛鳥さんが抗議しようとする前に、店長に怒られてる。いい気味。
「なんだよ、ここではみんなが”地味”なんだよ」
主張を曲げないバイト男子に、飛鳥さんは、アっといって、手を敲いた。
「そうよね、ここの花。今日は特にミモザアカシアが綺麗ね。この花達よりは、少しだけど私たちは地味よね。店長も。淳一ももちろんね」
”淳一”のところだけ強調してる。ああなるほど、そういう事ね。確かにウィンドウのミモザは、冬の光をあび、なんだか喜んでるかのよう。この中では一番美しくて華やか。枝に黄色の小さな花をたくさんつけたミモザ。枝がこんもりしててフワフワにみえる。本当に華やかな花だ。花から視線をもどした。でも何か気配を感じて、振り返ってみると、黄色のドレス、いわゆるお姫様ドレスの女の子が、こちらを見て微笑んだ。え?と思い目をこすって見直すと、花だけだった。何かの錯覚?あの子、ミモザの花のような明るくてやわらかな子だったな。
一瞬、ボヤっとしてた私に真里亜ちゃんが、声をかけてきた。
「ね、この綺麗は花をもっと綺麗に撮りたいと思わない?」
「えっと、そうね。ちょっとやってみてもいいかも」
そうして、真里亜ちゃんと顔をあわせて、笑った。ひさびさに気持ちが晴れ晴れしてくる。正直、花の写真を撮る事 は、少し興味わいてきたし。
数日後、学校で敦神父とすれ違った。今日から四旬節に入るので、そのための説教だそうな。なるべく体を小さくしたが、やっぱり呼びとめられた。
「美鈴さん、写真をやるそうですね。いいですね。頑張ってください」
はあ...もしかして、あの花屋に無理に誘ったのは、結局、美術部に入る事になったのは、神父の計画?いやいやいや。それはないわ~。
鼻歌がでそうなくらいの上機嫌で歩く神父の後ろ姿を見て、思い直した。
ミモザアカシアの花言葉は「友情」というのを、私はしばらくして知った。
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