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赤いスイトピーと二日遅れのバレンタイン

今回は、敦神父目線です。活躍?してます。

 ”大丈夫、この天気なら、まだお客さんも来ないでしょう。”


 と、弟の亘が配達に出たものの、一人で店番というのも少し心細い気がしますね。まあ、なんとかなるでしょうが。


 小雪がちらつく今日、弟で店長の亘は急な配達が入ったとかで、私に店番をまかせて慌てて出かけた。ほんの30分で戻ると。”そのくらいの時間なら私が代わりに配達しますよ”

という私の申し出に、”兄さんは、方向音痴だからかえって時間がかかる”と冷たく拒否された。

その他、配達先で、次の注文につながる営業トークも不可欠なんだとか。


 お客さんは来ない、という予想は見事に外れた。中年のご婦人が、やってきた。狭い店内にあるいろんな種類の花やアレンジ花を、見て回ってる。


 あまり煩くつきまとわず、私は会計の席に座ってることにした。内心は”花束をアレンジしてください”とか、”この花にあう花はどれかしら”とか聞かれたら、困る。


”教会は、よく花を使うのに、兄さんの花選びのセンスは落第です。注意力足りないんじゃない?”という、厳しい指摘を受けてから、自信がない。


 幸いな事に、そのご婦人は、スイトピーとカスミ草のアレンジ花を、選んだ。


「ありがとうございます。税込みで400円になります」

婦人は、代金を払い、なぜか花を見てため息をついた。高い値段設定だったとか?


「ほら、ポスターにもあるじゃない。花とチョコとシャンパンでバレンタインをって。一日遅れだけど、花だけはなんとかね。」

ご婦人の目の下には隈が出来て、手もガサガサだった。腕は筋肉質。きっと肉体労働系の仕事なのだろう。


「ここの商店街のケーキ屋さんは、私の知り合いなんです。チョコケーキとか少し安くしてもらえますが、いかがですか?」

ケーキ屋の主人は、教会の古い信者で、この地区の教会に赴任してから。何かと頼りにしてる。


「ありがとうございます。でも、うちの主人は病気で間食、特に甘いものは医者から禁止されてるのです。私は大丈夫なんですけどね。元々甘党の主人を目の前にして、食べるのは気がひけますから」


 しまった~。いらぬおせっかいでした。ああ、亘に怒られるかもしれません。


「この”赤いスイトピー”が、私、大好きなんです。歌も好きだった。花を見て、主人もきっと若いころを思い出して、元気を出してくれるかも、って思って。」


 そんな歌、あったんですね。後で飛鳥ちゃんに聞いてみましょう。


 その後、そのご婦人といろいろと世間話になった。ご主人はいわゆる糖尿病で、運悪く、軽い脳梗塞を起こし、今は静養中だとか。ご主人も”赤いスイトピー”を歌ってた松田聖子の大ファンなのだとか。子供は独立したけど、生活費は彼女が稼ぎ、リハビリの時以外は一人で家にいるご主人が、最近、ふさぎ込み気味なのだとか。


 私に出来る事は、こうやって話しを聞く事だけだ。ああ一つありました。彼女に赤いスイトピーを3本、サービスで増やしました。


”本当はもっと本数があればいいのですけど、これで花の甘い香りが楽しめるでしょう。ご主人のいい気分転換にもなります、それに松田聖子さんという歌手の話しでもしたらどうです?”


 そういってご婦人を送り出した。

**** *** **** *** **** ***


「兄さんは、お人よしすぎです。まあ、だから教会も5つも、持たされるんだ。まったく人使いが荒いというか、ブラック企業ですよ。上のほうの人は。」


 亘からはこの程度で済んだ。飛鳥ちゃん(会計担当)には、怒られた。


「アレンジの花に、勝手に花を加え、しかもその分、無料でだなんて。こっちが経費をきりつめ、店長が営業に走り回ってるのに。無駄になるじゃないですか。赤字に転落したら銀行からお金を借り入れずらくなるんですよ。税金を払っても、赤にだけはならないように努力してるのに」


 いつもの威勢のいい声じゃなく、悲しい声で怒られると私も胸が痛いです。3本分、1500円は、もちろん私がだします。


「だからそういう事じゃなくて、もっと今の店の収支に目を向けてほしいです。」

「まあまあ、飛鳥ちゃん。兄はこれでも一応神父です。人助けを何よりも大好きで、それが仕事ですから、そのへんで許してやってください」


 亘の言葉で、やっと飛鳥ちゃんが、納得してくれた。兄としては情けない。

*** *** *** *** *** ***


 次の日の午後、私はA市の教会に出かけていて、留守でしたが、昨日のご婦人が見えられて、ご主人が”赤いスイトピー”を大層、喜んで、松田聖子さんの話しでも、盛り上がり楽しい一日になったそうな。お礼にと、商店街のケーキ屋で、チョコケーキをたくさん買って持って来てくれたそうな。


 甘くてちょっとビターなケーキに、飛鳥ちゃん、すっかりご機嫌だけど。

「ケーキと花代は相殺されません。ちゃんと払ってくださいね」

と笑顔で請求された。


 淳一君もケーキを食べながら一言。

「自分のお金を使って人助けしてたら、破産だな。」


 私、間違ってたでしょうか...ちょっと落ち込みながら、亘に”あまり気に病むな”と肩を叩かれた。亘のほうが、兄のようです。トホホ。



水曜日深夜(木曜日午前1時ごろ)更新します。週一のペースです。


今回は更新時間が遅くなってすみませんでした。

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