第40話 奇跡の木と父の戦功
朝。
リリィは目を覚ますと、真っ先に庭へ向かった。
「あぅ!」
昨日植えられた、不思議な苗木。
黄色いハート形の葉っぱが朝日に揺れている。
リリィは小さなじょうろを両手で抱えた。
「みじゅ!」
ルナリーナが笑う。
「お水をあげるの?」
「うん!」
まだ片言だが、はっきり返事をした。
リリィは一生懸命、木の根元へ水をかける。
「おっきくなぁれ。」
「がんばって。」
「いい子、いい子。」
そう言って幹を優しくなでた。
リッチとタンも木の横に座る。
「ニャ。」
「ワン。」
まるで一緒に応援しているようだった。
朝食を終え、ブルーとレッドは店舗作りを始める。
ルビーは薬草の仕分けをしていた。
その時だった。
「あれ?」
レッドが木を見る。
「昨日より大きくない?」
ブルーも振り返る。
「……気のせいだろ。」
しかし昼。
再び見ると、
「いや。」
「絶対大きくなってる。」
昨日はブルーの胸ほどしかなかった木が、もう肩の高さまで伸びている。
枝も一本増えていた。
「えぇ!?」
ルビーも駆け寄る。
定規を当てる。
「昨日、一メートル二十センチ。」
「今、一メートル八十五センチ。」
「半日で六十センチ以上!?」
ルナリーナは口を押さえた。
「そんな木、聞いたことないわ。」
レッドはリリィを見る。
「朝、水をあげてたよね?」
ルビーも気付く。
「話しかけてもいた。」
「まさか……。」
夕方。
さらに木は成長した。
もう二メートルを超えている。
枝には新しい黄色いハート形の葉が何十枚も増えていた。
ブルーは思わず笑う。
「百年どころじゃないな。」
ルビーは珍木大全をもう一度読む。
「最低百年で引き出しができる……。」
「そう書いてある。」
「でも、この本を書いた人は、リリィの存在なんて知らない。」
ルナリーナが木を見つめる。
「この子が育てると違うのかもしれないわね。」
リリィは木を見上げて嬉しそうに笑う。
「おっき!」
その言葉に木が風もないのに、サラサラ…と葉を揺らした。
まるで返事をしたようだった。
家族全員が顔を見合わせる。
「……今。」
「返事した?」
誰も答えられなかった。
その日の夕方。
一頭の軍馬が村へ駆け込んできた。
「王国軍の伝令!」
村人たちが集まる。
伝令兵は大きな声で告げた。
「ブラウン・ツェッペリン将軍の戦功を伝える!」
家族も慌てて外へ出る。
「先の北方防衛戦において、ブラウン将軍は圧倒的不利な戦況を覆し、敵軍を撃退!」
村人たちから歓声が上がる。
「すごい!」
「将軍様だ!」
伝令兵は巻物を広げる。
「この戦功により、王国軍本部はブラウン・ツェッペリン将軍を少佐から大佐へ昇進させるよう国王陛下へ上申した!」
「おおーーーっ!!」
拍手が響く。
伝令兵は続ける。
「さらに――」
「現在の男爵位から辺境伯への特別叙爵も検討されている!」
その場が静まり返る。
「へ……辺境伯!?」
「一気に!?」
村人たちは信じられないという表情だった。
通常なら何代もかけてようやく届く爵位。
それを、一代で。
しかも男爵から辺境伯へ。
伝令兵も苦笑する。
「前例はほとんどありません。」
「ですが、それほどの大戦果だったとのことです。」
ルナリーナは涙ぐむ。
「あなた……。」
ブルーは拳を握る。
「父さんらしい。」
レッドは飛び跳ねた。
「帰ってきたら、お祝いだ!」
ルビーも微笑む。
「リリィの誕生日も一緒にね。」
リリィは意味は分からないまま拍手した。
「ぱちぱち!」
タンが吠える。
「ワン!」
リッチも静かに鳴く。
「ニャ。」
そして庭では、昼まで二メートルだった不思議な木が、誰にも気付かれないまま、さらに枝を一本伸ばしていた。




