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首切りは堕ちる  作者: 越想
第1章 『魂を紡ぐ』
14/14

1章 第14話 『何度目?』

思っていたよりも長くなってしまいました!!












 オルドに怒られた次の日、ダンジョンに行くのはヘルとアールの2人だ。


「昨日逃げてきたって本当?」


「モンスターがすごい量来ちゃったんだよ。ジンといるとろくな目に遭わない」


 魔法剣学校の校門付近の噴水で待っていたアールの第一声が昨日のことだった。ヘルは昨日のことを思い出しながらアールに話している。


「ふふ、そうは言っても楽しかったんでしょ? 顔が笑ってるもん」


「……まぁ、楽しくなかったって言ったら嘘になるかな」


 気づかないうちに口元が緩んでしまっていたらしい。



 ヘルはアールに言われて恥ずかしがってそっぽむいていると、「行こう」と言ってきた。







 ダンジョン1階層。3度目となると流石に慣れてくるが、油断はしない。どこまで俺の『魔気』が通用するかは分からないが、少なくとも何もできないよりはマシなはずだ。


 そう言えば、アールってどんな魔法が使えるんだ? そこまで長く一緒にいたわけじゃないし、使ってるところも見たことがない。


 確か相手を選ぶとか言ってたっけ。


「アールってどんな魔法が使えるんだ?」


「私の? そおねぇ〜私の魔法は〜レベル差によって決まるかなぁ〜」


「……? 詳細はまだ待てってこと?」


「ダンジョンで見れるだろうし、お楽しみだよ」


 アールはウインクをしながら言ってきた。それにヘルはため息をつきながらダンジョンを降り続ける。


 

 昨日に比べてモンスターが少ない……? いや、昨日が多すぎたのか?



 ヘルはアールと話していても一向にモンスターが襲いかかってこないことに違和感を抱いていたが、戦わずに済むならいいかと考えている。


 そして、3階層到達。モンスターとの遭遇は0のままで目標階層に辿り着いた。


「えーっと、こんなに簡単なの? モンスターなんて一度も見なかったんだけど……」


「いや、流石におかしい……。ダンジョンはモンスターが沸き続けるはずなのに、1匹もいない!」


 ヘルの言葉にアールも身構える。



 なんでモンスターが現れない?

 なんでこんなに静かなんだ?

 


 ヘルの心拍数は上がっている。これは昨日までとは状況が違いすぎると、警戒を解くなと脳がいや……"魂"が叫んでいる。


「ヘル、囲まれてるよ」


「……っ!」


 一言、一瞬だった。


 アールが口を開き、状況を教えてくれた瞬間横にいたアールが《《消えた》》。


「なっ! アール!?」


 周りには6匹のゴブリン、そして一際大きいモンスター鬼がいた。


「なんだ貴様、何故主の匂いがする……?」


 鬼はヘルを見て首を傾げている。



 主の匂い? それより、アールはどこだ?


「アールはどこにやったんだ?」


「アール? 先程の女か? ……んぅ? 貴様! 主の言っていた者だな? その匂いにその()()。ハッ! 良いだろう。女を返して欲しければ6階層まで来るんだな」


「なっ!?」


 6階層、それはレベル25相当のモンスターが蔓延る場所、地獄と例えてもおかしくない。そんな場所に俺1人で助けに行けるのか……?


「6階層まで来て、儂を倒したら女は返してやる。しかし、辿り着けるか? 貴様のその貧弱なステータスで」


 鬼は太い笑い声を上げながらダンジョンの闇に消えていった。



 どうする? 鬼の言っていた呪いも気になるが、そもそも1人でアールを助けに行けるのか……? 


 助けに行けたとしても、一緒に帰れる自信がない……


「……いや、助けに行けるかじゃない。助けるんだよ。アールがあの時、俺を助けてくれたように」



「————」


 6匹のゴブリンが同時に襲いかかってくる。


「——っ! 邪魔をっ! するなあぁぁぁ!!」





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「……ここ、は?」


 目を覚ますとダンジョンの独特な薄赤い光はなく、暗闇しか見えない。



 あんなに変な色だと思ったのに、何で急に真っ暗なの……?



 自分の置かれている状況を把握しようとして、ある1人の男の子を思い出し、自分のことは後回しになる。


「ヘルは? ヘル! どこにいるの!」


 大声を出しても、すぐ自分の声が跳ね返ってくる。ヘルの返事もない。


「跳ね返ってくる……?」


 アールは声の反響に違和感を覚えて腕を前に伸ばすと——


「——嘘……湿ってる?」


 腕は伸び切る前に何かに当たった。しかもそれは普通の壁とは思えないぐらい湿っていて、ベタベタしている。


「なに、これ」


 アールはベタベタしているものを手のひらで確かめる。



 ……分からない。こんなの初めて触ったし、ダンジョンの中でこんなベタベタしてるものがあるなんて聞いたことない。



 体を回して全方位を調べたけど、全てベタベタの壁で囲まれていた。


 視界は闇で覆われて出ることもできない。声は外に聞こえていらなかもわからないし、もし聞こえててもここがダンジョンの中ならモンスターがきちゃう。


 どうすればいいか頭を回していると、上の方から薄い赤色の光が差し声が聞こえてくる。


「あんたも災難だな。あいつの試練に巻き込まれてよ。まぁ可哀想だからって解放はしないけどな。その檻の中で待っててくれよ」


「試練? ちょ、ちょっと!」


 何も言えずに光が閉ざされる。



 あいつってヘルのこと、だよね? 試練ってなに……? 

 分からないことが多すぎる……今考えるのはやめておこう。


頭がパンク寸前になったアールは鬼の言葉を忘れて、どうにかここから逃げられないかを考える。


「また、()に戻っちゃうんだね……これで2回目かな、今回はあの時よりも長くないといいな……」


 アールは昔のことを思い出していた。湿って地面に光が差す隙間すらないあの檻。

 

 戻りたくない。もう、思い出したくない昔の記憶。


「だ、ダメダメ。こんな暗いこと考えてたらヘルの魔法くらっちゃうよ」



 ヘルの魔法は恐怖を抱いた人の首を落とす魔法って言ってた。ヘルがあの魔法でどれだけ苦しんでるか私は知ってる。


 だから私がヘルの魔法で死ぬわけにはいかない。もっと苦しめちゃうからね……


「私は自由。何者にも縛られない。縛られたくない……ヘルにも魔法に縛られないでほしいな……」


 アールはスキルで状態異常を無効化することができる。その条件は、


「……自由でいたいと思うこと」


 

 ヘルなら、助けに来てくれるかな?

 この檻から私を出してくれるのがヘルだったら、嬉しいな


「でも、無理もしないでほしい……気をつけてね」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「うおぉぉぉぉぉ!!」


 薄赤色のダンジョンに咆哮が轟く。


「————」


 それに負けじとゴブリンの雄叫び、コウモリ型のモンスター、モリコウの超音波がヘルに迫るが届かない。


 斧で切って、切って、切りまくる。

 そうして着いたのは5階層。


 ここまではヘルのステータスでもこれらレベルだった。だが、ここからはレベルが違う。


 5階層の推奨レベルは15。ヘルは以前トゥルバとダンジョンに潜った際レベルが20になった。新たなスキルも手に入れたが、相変わらず人には使えない。


「レベル推奨は何で魔法使い設定なんだが……」


 魔法が使えない人の推奨レベルは30。



「……圧倒的だな。流石に笑えないかも」


 魔法がモンスターに使えないヘルにとってレベル差15は『 』を意味する。


「……? 何だ? 何か違和感が……いや、それよりも先に進もう。早くアールを見つけないと」


 囲まれたら終わり、うまく立ち回らなければアールの元には辿り着けない。



 5階層から6階層まではそう遠くない。ここを曲がれば6階層の入り口だ……。



 5階層にモンスターがいなかった理由は考えるまでもない。おそらくあの鬼が6階層で待ち構えてる。


 6階層入り口の前でヘルが止まる。



 何で足が震えてるんだ? 


 確かに怖い……けど、もう目の前にアールはいるかもしれないんだぞ?


 だったら、いかない理由はないだろ


 

 斧についたモンスターの返り血を飛ばし、強く握る。大丈夫だ、お前ならやれるはずだ。


「行くぞ、ヘル。お前ならやれる!」


 勢いよくドアを開ける。






 ドォン、と開いたドアの向こうには鬼の姿と黒い塊があった。


「随分早かったな。辿り着けるとは思っていなかったが、辿り着かなきゃ苦労するやつもいるもんな」


「アールは? 無事なんだろうな?」


 鬼が首で黒い塊を指す。すると、黒い塊が動き、中から——


「——っ! アール!」


「……ヘル? ヘル!」


 アールがいた。



 よかった。無事そうだ。だが、どうする? ここからアールを連れ出すのは難しいぞ



 どうするか考えていると鬼は背中に火で燃えた円形の物。『火車』が出現した。


「もちろん、ただじゃ返さないぞ? ここからが試練だ」


「やっぱり、戦うしかないんだな」


「当たり前だろ」


 おそらく勝ち目はない。何とか隙をついてアールを逃がせるか? いや、厳しいだろう。だったらどうする?


「考えごとをしてる暇があるのか?」


「——っ!」


 一瞬で距離を詰められ鬼の顔が目と鼻の先まで近づく。

 鬼の手刀を斧でガードする、が——



 ——間に合わない!



 後方に吹っ飛ばされ壁に激突する。


「ぐはっ! はぁ、はぁ」


 ダンジョンに登ってくるだけでも体力と魔力を持っていかれてるのに、これを相手に戦えるのか?


「たった1撃でこれじゃ、助けたい者も助けられないぞ!」


「くぅ! はあぁぁぁ!!」


 体制を直し、地面を強く蹴る。

 正面で斧と手刀がぶつかる。



 押される! 


「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「声だけは出るじゃないか! だが、声だけでても力が足りないぞ!!」


「なっ! ゴホッゴホ」


 左手の手動でまた後方に吹っ飛ばされる。



 やばいやばいやばいやばい。血が、出ちゃいけない量だろ、これ。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「ヘル! ヘル!!」


 視界が狭くなってきてる。呼吸ってこんなにむずかったか……? まずいな、アールの声もぼんやりしか聞き取れない


「ハッ、もう終わりか。結局試練を乗り越えるだけの器は無かったんだ。今楽にしてやる」


「ま、だ……まだ、だ」


 服は破れ左脇腹には穴が空き血がドバドバと垂れている。が、ヘルはまだ引けない。引けるわけがない。


 ここで引いたらアールはどうなる? 分からない。でも、せめてあの塊から出せれば……


「俺にも、『魔気』を乱す技(必殺技)があるんだぜ?」


「ハッ、もはや儂が倒す必要すらないわ。出番だぞ」


 鬼が声をかけると、上から炎の糸のようなもので繋がれたモンスター達が出てきた。


「モンスターの人形……?」


「正確には死体を操ってるが正しいな。こいつらは自ら動くことができない。儂の魔力を原動力にしておる」


 最後だからか知らないが色々喋ってくれるな……。『魔気』を分散させて、アールが逃げる隙を作る。だけど、どうやってあの塊を——、



命令自由(アムル・フリー)


「——え?」


「——?」


 ヘルと鬼が同時に魔法名を発した人物に目を向ける。



「理想郷は砕かれ、矮小な者は思い知る。

 渇望するは自由。

 渇望するは平穏。

 掛ける物は(ここ)に。

 汝の魂を借りて。」


 ダンジョンは白い光に覆われる。突如現れた天秤によって。


「お願い。魂を貸して」


 彼女の声によって1匹のモンスター、炎を纏ったゴブリンの魂が天秤に抽出されていく。


 天秤には白い羽のような魂と、熱くメラメラした魂が掛けられる。


「今、天秤は傾く。」


 詠唱が完成し、天秤はアールの魂に傾いた。


 すると、アールを覆っていた黒い塊がドロドロと溶けていく。


「私は自由! こんなものじゃ抑えることはできないわ!」


「——魂を借りるだと? そんなの反則なんじゃないのか?」


 同意見だ。あまりにもチートだと思う。しかし、これにはレベルの条件があると言っていた。

 俺も詳しいことは分からないけど、今はこのまま押し切るしかない!


「よそ見してて、いいのっ! っかあぁぁ!!」


「ほぁ? ぐはあぁぁぁぁぁあああ!?」


 胸に1撃決める。

 クリティカルヒット! 流石にこれは効いただろ!?


「ヘル! 大丈夫!? 血が凄いよ?」


「大丈夫、ではないかな。でも、無事でよかった」


「ヘルも無事……じゃないけど、来てくれて嬉しかったよ」


「そ、そんなこと言ってないで早く逃げるぞ!」


 鬼が膝をついている今がチャンスだと、逃げようとして鬼の方を見ると既に姿はなかった。



 どこに!? いや、それより早く逃げなくちゃ、流石に次はない!


「逃げれると思うなよおぉぉぉ!!」


 6階層と5階層の入り口を鬼が破壊する。


「うぅ……は? 嘘だろ!? 入り口が!?」


 これは、終わった。帰れない。アールを逃すことすらできない。


「ヘル……」


 アールはこっちを見てくるがどういう顔をしたいいか分からない。


「ハ、ハハハッ! どうした? 絶望してるのか? 逃げ道がないなら戦うしかないんじゃないのか?」


 憎たらしく笑ってくる鬼。挑発してくるがそれに返す余裕は今のヘルにはない。


 今のヘルの頭の中は一つの言葉で埋め尽くされている。



 どうする? どうする? どうする? どうする? どうする? どうする? どうする? どうする? どうする? どうする? どうする? どうする? どうする? どうする? どうする? どうする? どうする? どうする?



「ヘル! 落ち着いて! きっと何かあるはずだよ!」


 何かある? この状況で何かあるのか? 本当に? 俺には想像もつかないぞ!?


「アールの魔法であいつの魔法を借りるのは?」


「見て分かると思うけど、あいつ相当レベル高いよ……? 普通あんな下の階層で遭遇していいモンスターじゃない。レベル30は超えてるでしょ。私じゃ魔法を借りれないよ」


「そ、そうか」


 ここで、終わりなのか? せめて入り口の岩さえどかしてアールを逃がすことができれば……


「戦うしか、ないよ……私達であいつを倒して帰ろう?」


「倒す、か。倒せるかな……倒せる未来が1つも見えないや」


 さっきの1撃だってまぐれだ。あいつがアールの魔法に気を取られてたから喰らわせることができた。


 次は行ける自信がない。あいつだってもう2度とあんな隙見せてくれないだろう。


 ……5階層に行く入り口、退路は絶たれた。

 

 なら、


「倒すしか、ないよな」


「——うん」


 アールと視線を交わし頷く。


 

 大丈夫だ。今度は1人じゃない。アールがいる。この世界に来て1番長く一緒にいるアールとなら……倒せるはずだ。



「俺があいつの注意を引くからアールは魔法で隙をついてくれ」


「分かったわ。でも、私にも魔力の限界があるからそう乱発はできないからね? 私の魔法の弱点も伝えるね」


「よし。さっきと違って今は1人じゃない。アール、勝とう」


「——うん!」


 ヘルが正面から鬼に向かって突っ込んでいく。その間にアールは詠唱を始める。



 アールの魔法は1回使うとまた詠唱を必要とするらしい。その詠唱の時間を稼ぐ!



「また天秤か、いくら魔法を借りようと儂には効かんわ!」


「お前の相手は、俺だ!!」


 鬼の目の前に来て回転斬り、当たらない。ヘルの斧に合わせて左手で受け止めてくる。鬼の手は炎を纏っていた。


「いい加減、お前に興味はないぞ?」


「——天秤は傾く!」


 先程と同じ天秤が出現し、アールの魂に傾く。


「ちっ、魔法は厄介なんだ。先に(あっち)を殺すか」


「そうはさせない! はあぁぁぁぁぁ!」


 斧を下から上に勢いよく上げ、鬼の左手を斬る。


「調子に乗りやがってぇェェ! なぁ!?」


 余裕の顔をしていた鬼は激昂した。しかし、アールが土の魔法で左手の切断部分を貫く。


「オォォォォォォォオオオ!!」



 畳み掛ける! 弱点は分からない、でも鬼なら狙う場所は1つ!


(ここ)だぁぁぁぁ!!」


 雄叫びを上げる鬼の右角を切断した瞬間、ダンジョンは爆炎に包まれる。



「あ、熱い!?」


「あつ! 今水を送るね!」


 アールが魔法で水をかけてくれる。何が起こったのかヘルが周りを見渡していると、6階層の中心に佇んでいる片角の鬼がいた。


「はは、こっちの方がよっぽど鬼っぽいな……」


「これはちょっと……」


 鬼の体はすでに皮膚が溶けていて、見るに苦しい姿だった。なのに——


「——そいつらを殺せ」


「っ! アール周りのモンスター倒せるか!?」


「少し時間かかるけど、耐えてね!」



 無茶を言うなよ、本当に。これは絶対勝てないだろ。ゲームとかだと絶対ラスボスキャラだぞ?



 ヘルが気合を入れて再び斧を鬼に向けて構える。が、一瞬で距離を縮めらる。



 ——これは、まずい!!



 咄嗟に斧を前に出し防御体制に入る。


「ハハハ、いい判断だ。首を狙っていたが塞がれたか。なら、これはどうだ?」


「ぐっ! がっ!」


 斧に必要以上に炎を纏った手刀、いや既に体全体を炎が覆っている。


 何度も、何度も突いてくる。



 どうする!? これ折れないんだろう、なあぁぁ!!


 

 逃げ道はなく、ただひたすら殴られるだけのヘル、すぐ近くではアールが炎の糸で操られたモンスターの死体を倒すのに苦戦している。



 あっちも数が多い、いつまで耐えられるか……



 これ以上耐えて何かあるか、諦めていた瞬間、鬼の突きが止まる。


「——あぁ?」


 入り口の岩が砕ける音がした。


 鬼はヘルから視線を外し、入り口を見る。それに釣られてアールとヘルも振り向く。


 入り口の岩は粉々に砕けていて、登ってきた時よりも大きな穴が空いていた。

 そして、そこに立っていたのは——、



「あっはぁー、俺の力が必要かな?」


「——っ! ジン!」


 何の変哲もない剣を片手にジンが立っていた。


「必要だ! 敵は——」


「——()()()()()。そいつを殺せばいいんでしょ」


 鬼はジンに目を奪われている。その隙にヘルは鬼の近くから脱出し、ジンの隣に立つ。


「あ、あぁ。倒せるのか?」


「そのために来たんだから」


 いつになく真面目なジンに少し混乱していると、ジンは詠唱を始めた。

 2人でダンジョンに行った時には聞けなかったジンの詠唱。


怪魅迅壊(サリ・ファス)


 ジンの周りに黒い風が収束する。



 武器を作った時と同じ現象……



「我、怪王に魅入られし愚者。

 望むは、人格破壊(変異)

 奉納するは、未完の心。

 望むは、完成された心象。

 ——天災が来たる。」



 詠唱は完成し、黒い竜巻が鬼に向かって放たれる。


「2人は十分あいつを削ってくれたからね。この姿になってるならこれ倒すのは容易だよ」


「なに!? こんなものじゃ儂はやれん、ぐ、ぐがああぁぁぁぁぁああああ!?」


「俺の友達を殺せると思うなよ」


 そう言い残し、鬼は塵1つ残らず消えた。鬼によって操られていたモンスターの死体も動かなくなった。


「これで、終わったのか……?」


「こんな簡単に倒せるなんて……」


「それは2人が頑張ったからでしょ? さ、早く帰ろ?」


 ジンはなにもなかったかのように振る舞っているが、疲れた顔に無理やり笑顔を浮かべているようにヘルには見えた。



 ここまでくるのも大変だったよな……



「ジン」


「——? どうした?」


「来てくれてありがとな」


 顔を合わせて言うことはできなかったが、感謝の言葉は伝えられた。


「あっ、はぁー、帰ろうか」


 ジンはそう言って前を向いて歩き出す。ヘルはアールと顔を合わせて肩をすくめる。


「アールが無事で良かったよ」


「それはこっちのセリフ! ヘルが『死』ななくて良かったよぉ」


「ん? 俺が何——」


「——2人とも! 生きててよかったよ。さっさと帰って6層到達を祝おう!」


 ダンジョンの中だと言うことを忘れて、話し声が大きくなるのは必然。でも、仕方ない。


 皆んなで帰れるのがこんなに嬉しいなんて……


「ヘル? どうかした?」


「いや、何でもない。早くオルドに伝えて休もう。もう疲れたよ」


「あっはぁー、その傷とか酷いもんね、ツンツン」


「イッテェ!? おま、お前普通触らないだろ」

 

 ジンとくだらないやり取りをし、アールがそれを「くだらなーい」と言いながら帰る。



 そんな当たり前がまだ続けられるみたいだ。

 



 



読んでいただきありがとうございます。


戦闘描写難しいです……なんか1撃ドォーンってキャラが来てくれたら嬉しいんですけどね……


初めてヘル以外の視点を描きましたが3人称も難しいので、1人称号にしてもいいかも……?

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