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首切りは堕ちる  作者: 越想
プロローグ
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プロローグ 『無自覚の罪』

 初めまして越想と申します。至らない文章ですが、読んでもらえると嬉しいです。


 カクヨムでも「首切りは堕ちる」を投稿してるので、見てくれると嬉しいです! カクヨムの方が話は進んでます。

「そのまままっすぐ進め」


 声が聞こえた。目の前は暗く何も見えない。体が勝手に動いている。手足に力が入らない。動く体を自分の意思では抑えることができない。まるで自分の体じゃないように。

 体は不自然なくらい軽い。今までこんな事を感じたことはない。足が地面に付いているはずなのに、歩いている感覚がない。


 先程聞こえた声の通り、まっすぐ進んでいた足が止まる。暗闇に次々と橙色の灯りが灯る。


「貴様が山﨑翔だな」


 橙色が一人の顔を照らし出す。目の前には絵本から飛び出したような閻魔大王がいた。



◇ ◇ ◇









 時刻は昼過ぎ、自転車を漕ぎ山に向かっている。翔は今日は初めてソロキャンプをしに行く。


「ま、キャンプ自体初めてなんだけど」  


 自転車を漕ぎ、呼吸を荒くしてそんな事をこぼす。少しして、


「着いたぁぁぁ」  


 翔は達成感を味わい、心地よい汗を拭う。水分を補給し、鼻歌を歌いながら山道を歩く。


「今日は水曜日かぁ……」  


 この山の木を見ていると、高校の教室から見下ろしていた木々を思い出す。……今頃授業中か。


 翔が思い出に浸っていると、





「お、本当の意味で着いたな。まずは木の枝か」


 キャンプをする予定の場所に辿り着く。焚き火の準備をするため、森に木の枝を集めにいく。


「おいおい、この下に虫はいないだろうな? セミの抜け殻でも怖がる俺を泣かせるんじゃないぞ?」


 木の枝を拾うため葉っぱを退ける。虫と蝉の抜け殻もなく翔は安堵のため息を漏らす。

  次の木の枝を拾おうとして、


「ミンミーン」


「うわぁ!」


 隣の木から蝉が翔の顔目掛けて飛んできた。


 くそ、セミめ。驚かせやがって、覚えてろよ。


「一週間経ったらお前の最後だ!」


「ミンミンミーン」


 蝉に人差し指を向けて放った捨て台詞は、蝉にダメージを当てたのか、飛んで行った。


「逃れられないさ、俺の死の宣告からはな!」


 翔はラノベやゲームでよくある呪いを蝉にかけてやった。

 

 それにしても、この山は空気がおいしく、これぞ自然。っていう匂いがする。


 空気は街や家とは違い澄んでいる。鼻をくすぐる匂いは普段じゃ嗅ぐことができない。


「例えるなら、草木のみずみずしさと土の匂いが混ざったような深い香り。とかって表現するべきか?」


 翔は山に来る前に調べていた自然の香りについての感想を、書いてあった通り口にする。


 一通り集め終えた木の枝を持ち、翔はテントを建てるために戻る。


 テントも建て終え準備は大体終わり辺りを見回す。それほど遠くない場所にテントが二つある。


「お父さんが戻ってくるまで待てるよね?」


「うん! お父さんとお母さんのこと大好きだし、一緒に食べたいもん!」




 お母さんらしき女性と、小さな子供、5歳ぐらいだろうか? 女の子が元気よく答えていた。あの歳でキャンプとかすごいな。俺だったら絶対来なかったぞ。……特に夏には。


 女の子がキャンプに来ていることに、驚きを隠さないでいた。同時に感心も覚えていた。しかし、



「お父さんとお母さん、ね……」  


 焚き火を作り、手をかざす。バチバチと燃える焚き火の音が心地いい。初めて作る焚き火に感動しながら翔は思い返す。  


 お父さんとお母さんはずっと優しくしてくれてる。怒りもしないし、何かを聞いてくるわけでもない。それは有難いと同時に少し寂しさもある。


「面倒くさいやつだな……おっと、もうこんな時間か」


 空は綺麗な茜色に染まり出した。バックから持ってきた食料を取り出そうとした時、












「キャーーー!!」


「――!?」  


 唐突に叫び声が聞こえた。翔は急いで振り返り、声のした方を見る。先程の女の子が叫んでいるだけで状況が掴めない。 女の子に駆け寄り、


「どうしたの! おじょうちゃ――」


「うっ」

 

 翔の鼻を獣臭と血の匂いが刺す。




「は……?」  


 何だよ、これ  


 何でこんなのが、ここに






「お母さーん! お母さーん!」  


 女の子は今もなお、お母さんと悲痛な叫びをあげ続ける。目の前の一匹の"クマ"を見ながら。  


 何で、クマがここに? どうして、お母さんが食われてるんだ?


 翔は頭が真っ白になっていた。さっきまで草木、土の匂いで満たされていた空気とは一変していた。


「お母さーん! お母さーん!」


 だ、ダメだ。今はとりあえず逃げなくちゃ。


 あ、あれ? 


 膝が震えている。唇も震えてる。歯がカチカチなってるのが響く。


 翔は自分の足が動かない事と、唇が乾燥していき、カチカチと歯同士がぶつかり合う音だけが静寂の山に木霊する。


「お母さん! お母さん! お母さん!」  


 女の子はスカートを力強く握り締めたまま、動かない。地に膝を着き泣きながら、お母さんと叫んでいる。



 くそ、クソ! 動け! 動けよ!! 早くこんな場所から逃げなくちゃ!


 足は凍っている。何度も、何度も自分の膝を叩く。


 痛みは感じないのに、動かない。


 翔は真っ白になった頭を必死に回す。が――、


 どうすればいい?


 俺はどうやって逃げればいい?


 どうするのが正解なんだ……!?


 翔にはこの予想だにしない最悪の状況からの逃げ出し方が分からい。考えた事も無ければ、自分がこんな状況に置かれるなんて考えもしない。



「はぁ…はぁ……うっ」


 クマの方から今にも消えそうな声が漏れる。


「お母さん! お母さーん!」


「え、ぁ」


 お母さんはクマに横に抱えられるように持たれ、お腹を齧られている。苦しそうな声を何度も上げている。  

 何度も、何度も齧り血が飛び、内臓が出てくる。お腹から出てきた内臓をクマは咀嚼している。      



 

 全身の毛が逆立つ。背筋が凍る。呼吸が上手くできない。視界が狭くなっていく。ただ呆然と見てることしかできない。


「お…がい……」


「――っ」  


 お母さんが何かを言っていたが聞き取れない。


「――ぁ」


 お母さんの目はもう焦点が合っていない。それでも、それでも何かを強く頼んでいる気がした。女の子を連れて逃げろと、そう言われてる気がした。  




 怖い、怖い、怖い  


 呼吸は乱れている。足が震えている。今動けば……食われるかもしれない。




 逃げたい、逃げたい、逃げたい


 クマはまだお母さんを食べている。俺が動いても気づかないだろ。一人なら逃げ切れる……でも、




「ここで一人で逃げだら男じゃねぇよな」


 今にも泣きそうだ。くそ、やっぱり逃げるか……? いや、ダメだ。あの目を見て一人で逃げることはできない。 


 お母さんから視線を外し、女の子を連れて逃げようとした時、


「……斧?」  


 丈夫そうな斧があった。


「こ、これなら……」  


 逃げるかのか? 山崎翔。


 いや、お母さんを助けて一緒に三人で逃げる。


 翔は女の子の手ではなく、斧を手に取った。爪痕が残るくらい強く握る。


 ……大丈夫だ。落ち着け。山﨑翔。お前ならやれる。


「すぅ……はぁ……」


 深く、深く息を吸い吐く。空気はもう澱んでいる。でも、大丈夫だ。真っ白だった頭に酸素が巡るのを感じる。

 狭まっていた視界は開け、足の震えは止まった。後は動くだけだ。


 

 翔はクマを睨みつける。クマはゆっくりと顔を上げこちらに鋭い眼光を向けてくる。


「――っ!」


 一歩、後ずさる。


「う、うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 叫んでいないと自分の体を動かせない。あの鋭い眼光に対抗するため、猛る。

 

 戻った視界はまた狭まり、またクマしか映していない。でも、動ける。確実にクマに近づいている。


「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


  斧を振り回しクマに突っ込む。


「お母さん! お母さ――」

 ガッと鈍い音が聞こえた。


 女の子の声は不意に、途絶えた。しかし、翔には聞き取れない。


 

 ――大、丈夫。大丈夫な筈だ。大丈夫!



 クマの手前まで来て、 お母さんの消えそうな声が聞こえた気がした。


「ひ…ろし……」  

 ガッとまた鈍い音が木霊する。



 ――助けられる。助けてみせる。助ける!



 クマの首目掛けて斧を一閃しようと踏み込んで――、




「え? うっ、ぐはっ」  


 翔の足が宙に浮き、体が仰向けで後方に吹き飛ばされる。

 視界いっぱいに茜色の空が広がる。








 な、なんだ!? 何が起きた?


 何で吹き飛ばされ、  


 あっつ! い、痛い、何だどこから


 

 さっきまで感じていなかった、不快感の出どこ。左腕に視線を向けると――、





「――あ? うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」  


 斧を握っていた翔の左腕は肘から先が"無い"。胸から腹にかけてクマの引っ掻き傷が付いている。その傷からはボトボトと音を立てて何かが溢れている。


 左腕の失った先から血がドバドバと出ている。



「痛い! 痛い!! 痛い!!!」


 どこから痛みを感じるのか、どこから熱を感じるのか、もう分からない。醜い嗚咽を上げながら蹲る。




「あはは、は」  


 これは、ダメなやつだ。



 呼吸をするたびに吸った息がヒューと音を立てて漏れていく。吐こうとしても、勝手に抜けていく。これは……






 ……死ぬ




 翔が自分の体の行末を感じ取っていた。この傷は、もう助からないと、血を出しすぎていると。


 そうだ、あの子……、女の子は大丈夫かな、せめて女の子だけでも逃がしてあげないと……



「ぐぅぅ……」 


 感覚も曖昧になった体を必死に動かし、女の子がいた方を向くと、






「――あ?」


「うわぁぁ!! ごぼ」


 驚愕し血を吐く。さっきまで「お母さん」と、泣き叫んでいた女の子はいない。


 目の前には女の子の"首"だけが転がっていた。






 何で!? いつの間に!?  




 ドス、ドス、ドス  












 何の音だ……?  地面が踏み潰されるような重音が聞こえる。



 ドス、ドス  










 動いたのか…… ? 重音は段々と近づいてきている。



 ドス、  



 近い……来るな、来るな……死にたく――






「なっ」  


 体がクマに抱くように持ち上げられる。全力で瞼を上げる。


「――――」


 耳を裂くような咆哮を上げ、唾液が翔の顔に飛ぶ。クマは血で紅く染まった口を大きく開けている。


 ……血の匂いがすごい。


 クマの口からは獣臭などしない。ただただ強烈な鉄の匂いが鼻を貫く。



 死にたくない、死にたくない、死に、たく 、ない―― 


 大きく開けた口にはギザギザしている細かい歯と、上下についた鋭い四つの歯が生えている。

 クマの口の周りは紅黒く、中は暗くて何も見えない。



「そういや、お母さんにご飯大丈夫だって伝えてないや……」  


 プシャと聞いたことがない音がした。




 思考が、途切れた。



 





 翔は頭からクマに食べられた。

 読んでいただきありがとうございます。正直この物語の核を見せるまでが下手かもしれないですけど、読んでもらえると嬉しいです。

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