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【完結済】飛竜落とし姫は振り向かない ~戦う聖女は騎士団所属~  作者: 米野雪子


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飛竜落とし姫は振り向かない

いよいよ、最終話です。





グレンさんは会議が長引き、私は先に帰ることになった。

頭がフワフワしたまま騎士塔に到着。


朝露の精霊さんには、また手作りお菓子を献上するのを交換条件に、

ワームホールの件と私が帰れるのは、口外しないように言っておいたが、

どうしたら…いいのだろう。


今更、帰れるなんて言われても…

ここで、生きて行く決心をしたのに。



正直な気持ちは、帰りたくない。



グレンさんと、北の騎士団員のみんなと離れたくない。

それに、こっちの世界の方が私には合っているし、役割もあってやり甲斐もある。

もう私は、ここに居るのが当然になっていて、ここが日常なのだ。


もし元の世界に戻ったとしても、私はまた罪人として後ろめたいまま、

生きていかなければならない。


そして、お母さんと弟達は、私の顔を見る度に罪悪感に苛まれるのだ。

私が父親を殺したのは、自分達も同罪であり責任がある。

お母さんは、娘に一線を超えさせてしまったのは自分のせい。

弟達は、自分達が父親からお母さんと私を守るべきだったのに出来なかった。


私だけに手を汚させてしまった。

罪を背負わせてしまったと、全員罪悪感を持っている。 


あの優しい人達は、私の顔を見る度に自分を責め続ける。

だから、皆んなにあんな顔をさせたくなかったから…

大学生になった時に、バイトしながら無理矢理に家を出て自立したのだ。



私は、────居ない方がいい。



それが、お互いの幸せの為の最善だ。


家族に無事でいるのを知らすことが出来れば、

元の世界で思い残すことは何も無い。


もしグレンさんが、この事実を知れば絶対動揺するし、

自分の感情を抑えて、元の世界に私を戻した方がいいと考えるだろう。

これ以上…彼に心労をかけたくない。


そうだ。

明日は魔力の授業があるし、ステラ様に相談しよう。




* * * * * * *




「何ですって⁉︎」


「シーシー!声でかいです、ステラ様!」


「おっと、失礼しました…驚いてしまって…ゴホン…」


「…という訳なんです。

 記録魔石をワームホールを通して、前の世界の家族に、

 私が無事で生きているのを伝えたいんです」


「しかし…何ということだ…あの衛星がそんな物だったなんて…」


「あの…家族に伝えるのは可能ですか?」


「ええ、可能です。ワームホールがあるのですから。

 …しかし、惜しい…あと数回で壊れてしまうとはっ…

 私もサトミさんの世界を見てみたかった。いや、一か八か試してみるか…」


「ちょっと、ステラ様?話が逸れてますって。

 それと内密にお願いしますっ!特にグレンさんにっ」


「え?ああ、了解しました。では、家族に伝えたい映像や言葉を

 この記録魔石に付与しておいてください」


「はいっ、ありがとうございます」


「あー…でも残念です。ワームホールの研究をしてみたかった」


「あれは塞いだ方がいいです。稀人が隙間に落ちてきちゃうし…

 また、聖女召喚肯定派みたいな人達が、利用しようとするかもしれない。

 ステラ様みたいに、純真な探究心がある人ばかりだけじゃないですもの」


「確かにそうですね。過ぎた物は、薬にも毒にもなる…

 世の中は、崇高な心を持っている人達ばかりではないですからね。

 ですが、グレン団長には言った方がいいと思いますよ」


「でも…彼は、葛藤すると思います」


「サトミさんが帰る気がないと先に伝えて、

 ワームホールの件を説明すればいいのでは?

 それに、隠し事は後々知られた時に軋轢を生みますし、

 信頼関係にヒビが入りますよ」


「はい。そうですね…」


「本当に…戻らなくていいのですか?」


「はい。もうここが、私の居る場所なんです」


「それを伝えればいいのです。グレン団長は嬉しいと思いますよ」


「は、はい…」



そうだよね…隠し事は良くない。

それに、これは彼にも知る権利がある。


記録魔石に家族に伝えたい言葉と、映像を付与した。

こちらでの生活の映像と、元気にしてる事を簡単に言葉で添えた。

こんなもんで、いいかなぁ…


……残留思念は、魔石に付与できるのだろうか。

私は先代の聖女チエコさんの思念に触れたことがある。

彼女は酷く帰りたがっていた…

他の歴代の聖女も、帰りたいのではないだろうか。


そして、セオドア様に歴代聖女の霊廟に行きたいと申請した。

しかし、いざ霊廟に行ってみると驚くほど皆沈黙していて無反応。

もう既に、歴代の聖女達はキヌさんを含め、無事に成仏しているようだ。


そして、チエコさんの墓前に行くと、

彼女の思念は未だに強く、キレ散らかして干渉してきた。

私は彼女に、元の世界に返してあげられるからと宥めながら話しかけ、

チエコさんのプリプリ憤慨思念は、怪しみながらも魔石に同化してくれた。


この人だけでも、元の世界に帰してあげよう…

自分が生きていた時代より、大分文明が進んでいるから、

ビックリするかもしれないけれど…血縁者を辿る位はできるだろうし、

ここでずっと怨恨を抱えて、苦しんでいるよりいいだろう。


全ての準備を終えて、私はグレンさんに、

ワームホールの事と、ここに残ることを話そうと決心した。




* * * * * * *




「……………」



案の定、グレンさんは眉間にシワを寄せて俯き、

深刻な顔で考え込んだ。

あ~…この人絶対、私が無理してるって思ってる。



「あの…グレンさん、私は本当にここに居たいから…」


「俺は……サトミが、この世界に来て…帰れないと知った時の…

 あの表情と涙が、ずっと忘れられなかった…」


「ああ、あの時は、来たてホヤホヤだったし、

 動揺してたっていうか…」


「あんな顔をもう、させたくない。

 でも、俺は…君にここにいて欲しい。自分勝手な男だ…」


「さっきも言ったけど、家族に無事が知らせる事さえできれば、

 もう元の世界に未練はないの。

 それにグレンさんが居たから、私はここまで生きてこれたし、

 グレンさんが居るから、ここに残りたいの」


「この世界の支配者は、君に選択を残したんだ。帰れる選択を…

 それをサトミは捨てられるのか?」



私の真意を探るようにジッと見つめる、綺麗なアイスシルバーの瞳。

もう心は決まっているのにと、少し焦ったくなった私は、

両手で彼の頬をパンッと挟むようにして、グニグニこねくり回した。

グレンさんは、私の突然の奇行に目が点になって固まっている。



「もうっ、帰らないって言ってるでしょ!私のいる場所は、ここなの!

 もう決めたのっ!分かった?」


「…………うん…」


「グレンさんに帰れって言われても、絶対!帰らないから!」


「…そんな事、絶対言わない」


「だったら、そんな思い詰めた顔しないでよっ。

 それとも…嬉しくないの?」


「凄く嬉しいよ。

 君は、俺に一緒に未来を生きたいと思わせてくれた。

 今まで感じたことのない…感情を与えてくれた」


「それは…私もだよ」


「本当に後悔しない?」


「しないよ」


「俺は独占欲が強いって、前に言ったよね?それでも?」


「うん、グレンさん大好きだもの」


「サトミ…」



私達はお風呂も済ませ、ベッドに腰掛けて話し合っていたが、

グレンさんは、私を強く抱きしめそのまま体重をかけて、

ベッドに二人で倒れ込んだ。


押し倒して覆い被さる体勢で、

美しいアイスシルバーの瞳は、まっすぐ私を見つめている。



…あれ?…何か…雰囲気が…


あ、これ、グレンさん男モードだ。



彼を受け入れる意思表示をする代わりに、

少し微笑んで、彼の頬にそっと手を添え自分から彼の唇に口付けをした。

グレンさんはピクリと肩を揺らし、深い口付けを返してくる。


視界が暗くなり、少し体温の高い彼の腕に抱かれ、

そのまま身を委ねた。





チュンチュン、チュン…ピピピピ…



…ん……朝…?





目の前に目を瞑って、

素っ裸で寝息を立てているグレンさんがいる。


あ…そうか…昨日…私たち…


本当にグレンさんって、色っぽいというか…綺麗な人だなぁ。

乱れた藍色の髪でさえ、美しい。

それに、めっちゃ引き締まった体……いや、あんまり見ちゃダメか。


良く寝てる~…ふふっ…


つい、いたずら心がニョキッと出てしまい、彼の頬を指先でツンツンする。

ピクリと眉間にシワが寄って寝息が止まり、

ゆっくり目蓋が開いてアイスシルバーの瞳が私を認識して目を細める。



「…おはよう…サトミ」


「おはよう、グレンさんっ」



こうして私たちは、身も心も結ばれたのだった。




* * * * * * *




「準備はいいですか?サトミさん」


「はい」


「わ~、ワームホール可動するの久しぶり~」



今日はワームホールに、記録魔石とチエコさんの魔石を送る日だった。

この作業が見られないように、アキラさんが広範囲に幻影魔法で、

目眩してくれている。

立会人は、グレンさん、ステラ様、デューリーン、アキラさんだ。


あの衛星が異世界へのワームホールだった事は、国王陛下にも報告済みだ。

陛下も最初は、腰を抜かさんばかりに驚いていたが、

緊急の話し合いの末、この歴史を揺るがす驚愕の事実は、

人々の混乱を招きかねないと、公表は避けられ極秘にされた。

だから、このワームホール可動立会人は、最小人数に限られている。


やり方は、事前に精霊のデューリーンに教わった通りに、

魔力を衛星に向かって放ち、ワームホールの入り口を開くのだ。

私は、自分の全属性の魔力をその衛星に向かって放った。


大分魔力は消費したが、

やがて衛星は金色に光輝き、ワイヤーフレームのような扉が現れて、

横に自動ドア仕様でスライドして開いて行く。


開いたその先は、真っ暗な空間がカパーと口を開けていて、

緑色の連続照明がポツポツと奥行きに沿って見えている。

それは、まさにトンネルそのものだった。



「うわ、本当に開いた…」


「なんと、荘厳で美しい」


「凄いな、どうやってあんな物を作ったんだ…」


「わー、開いた~。サトミちゃん、本当に魔力量凄いね」


「こ、これでいいんですよね?精霊さん」


「うん!もう魔石をあの空間に放り込んで大丈夫だよ」


「はい…では…いきます!」



両手を差し出し掌にある魔石を風魔法で浮かせて、

ワームホールに向かって放った。

吸い込まれるように、魔石はあの暗いトンネルに消えて行った。


これで、届くのだろうか…


ワームホールは、静かに扉が閉まっていく。

そしてピタリと閉じて、また元の衛星にゆっくり擬態したのだ。


しばらく感慨深く、元に戻った衛星を見てると、

ピシリとヒビのようなモノが、衛星の真ん中に走った。



「…え?」


「あ~、やっぱりもう限界だったみたいだね~崩壊し始めちゃった」


「ああ、なんて事だ…崩れて行っている」


「えっ、あのっ、さっきの魔石は、

 無事に向こうの世界に、届いているんでしょうか?」


「大丈夫だよ~。届いてから崩れ始めたんだ。

 転移中に崩壊しないように、安全装置もついてるはずだからね」


「そう、ですか…」




ワームホールが…崩れていく…



巨大な衛星が…まるで氷山が崩れて壊れていくように…

…ゆっくり、ゆっくり…と…


ああ…私の世界と、この世界を繋ぐモノは、

崩壊してしまった。


もう、二度と稀人はここには来ないし、

元の世界には戻れない。




これで…いいんだ。


これが、本来の形なのだから。




無言で、その光景を瞬きもせず凝視していると、

隣にいたグレンさんが、私の手をふんわり握った。

彼の大きな手を強く握り返し、崩れいくワームホールを見守っていた。



最後の一欠片が消滅する、その時まで…




どうか、チエコさんが成仏できますように…


どうか、家族に私の伝言が届きますように…





みんな……


みんな、さようなら。






さようなら







そして空には、衛星が2つ取り残された。


次の日の新聞には、彗星の衝突により衛星が一つ消滅したと、

虚偽の記事が国王の権力で掲載された。

多少騒ぎにはなったが、しばらくすると皆んな2つの衛星にも慣れて、

やがて普通の生活に戻っていった。




* * * * * * *




国王が居なくなったレガリア国は、

ガレリアに併合されることとなった。


しかし、プロパガンダ教育を受けている国民達が、

敵国の人間がズカズカ行って取り仕切るのは、反発を招きかねないとされ、

そこに白羽の矢が立ったのが、捕虜になっているリンドゥーテ大将。


リンドゥーテ大将は、レガリア国王の死を知らされた時、

その場に蹲り、ずっと塞ぎ込んで何も喋らなくなったそうだ。


国王への忠誠心は確かなこの男に、併合を主導する橋渡し役になって貰う為、

ガレリア国王陛下自から、リンドゥーテ大将に交渉していた。



「…なぜ、私に?」


「人手が足りんのが一番の理由だが、元々そなたの国だ。

 詳しい人物に任せた方がよかろうて。

 それにな、そなたの国民からの我が国への反発も少なからずあろう?」


「私が…大人しく従うとでも?」


「お主が忠誠を誓った主人は居なくなったが、

 その主人が設立した国が消えるのは、忍びないと思わぬか?」


「………………」


「全てを取り仕切り、支配する植民地支配ではなく、あくまで併合だ。

 利益を奪い摂取する真似はせぬ。ただし、統治権と領土の権利は、

 こちらにあり我が国の法律に従ってもらう事になる。

 教育の見直し、民の生活を豊かにする農林畜産業の指導と改良、

 こちらの知恵と技術も伝授して発展を促し、

 ガレリア国の国民と同じ生活レベルにしていきたいのだ。

 他にも色々あるが…反抗心を持たれると、それも円滑に出来んだろう?

 幸い言語は同じだし、今までの教育と彼らの我が国への敵対心を

 緩める手助けをして欲しいだけだ。

 先に、その辺の立て直しを主導する役割を担ってくれぬだろうか?」


「分かった…具体的な内容は?」


「了承してくれて、感謝する。

 では後ほど、外務省の外交官に文章でまとめさせよう。

 補助役に数名文官もつける。ちなみに、そなたの寿命はどれくらいある?」


「今現在この体は39歳だ。人間の寿命くらいには生きるだろう」


「そうか、充分だ。よろしく頼む。

 ああ、それから申し訳ないが、そなたの千里眼の魔力は当分の間、

 封印させてもらう。それは、分かってくれるな?」


「ああ、構わん。もう使う必要はないからな」



こうして、リンドゥーテ大将は、レガリアの親善大使として、

併合の準備を任される事になったのだった。




* * * * * * *




昔々、双子の王子、兄ガレリア、弟レガリアがいました。


兄ガレリアは、魔力が強く正義感があり、次期国王が約束されていました。

しかし、真面目すぎて頑固で、言葉足らずな所があり、

時折軋轢を生む、不器用な王子でした。


弟レガリアは、魔力はありませんが、穏やかで平和を愛する優しい心根を持ち、

柔軟で臨機応変な適応力があり、頭脳に秀でた話術が得意な賢い王子でした。

常日頃から、将来、兄が足りない部分を自分が担える臣下になろうと、

日々努力しておりました。


そこに突然、見知らぬ少女キヌが、空から舞い降りて来ました。

彼女は黒髪に黒い瞳の可愛らしい外見で、まるで女神のようでした。


どうやら彼女は違う世界から来たようで、初めは言葉が通じませんでした。

可愛らしい少女を安心させようと、双子の王子は彼女に優しくしました。


やがて言葉を覚えた少女キヌは、不思議な力を使いました。

彼女が祈ると金色の光とともに、草木が成長して、花々は咲きほこり、

農作物も豊作になり、国はどんどん豊かになりました。


さらに、脅威であった魔獣からも国を守ってくれたのです。


彼女は、この国の聖女として留まってくれました。

優しく、美しく、誠実なキヌを二人の王子は好きになりました。


そして、二人は聖女キヌに、それぞれプロポーズしました。

兄ガレリアは、大きな宝石がついた指輪を。

弟レガリアは、可愛い白の野バラの花束を。


聖女キヌは、優しい弟のレガリアを選び、二人は結婚しました。

兄のガレリアは、恋に破れ悲しみに暮れました。

弟レガリアと聖女キヌは、臣下として生涯、兄ガレリアを支え、

ずっと側にいると忠誠を誓い、彼の悲しみに寄り添いました。

そして、兄ガレリアは二人の優しさに感謝し、二人を祝福しました。


しかしそんなある日、周辺国は聖女キヌの不思議な力を知り、

それを手に入れようと王国に魔獣を率いて、軍事侵攻して来たのです。


双子の兄ガレリアは魔力で戦い、聖女キヌは神聖力で魔獣を薙ぎ払い、

弟レガリアは、敵国が疲弊した頃合いを見て、持ち前の話術で交渉し、

敵国との和解に成功しました。


3人の連携で、見事に敵を退いて戦争を終わらせたのです。


こうして、この3人が守護する王国は益々発展して行き、

戦争もなく、末長く平和を保ち続けたのでした。


めでたし、めでたし。




パタン…




私は、作り直された隣国の童話の本を閉じた。


これはレガリア王子が考えていた、 “もしも(If)” の物語だ。

彼は、この世界の平和を心から望んで、その理想を童話に残したのだ。



レガリア王子は、本当は兄ガレリアを尊敬していて、

臣下として付き従い、役に立ちたかったのだろう。

そして、3人で国を守り発展させたかった。


でも現実は、尊敬していた兄からの暗殺未遂と愛しい人の強奪。

その望みは現実の残酷さに阻まれて、叶わなかったのだ。



童話の登場人物には名が無く、私はそれに名を与えた。

修正をお願いしたのは、その部分だけ。


せめて物語の中だけでも、王子二人とキヌさんが啀み合ってない、

幸せな理想の世界で生きていて欲しかったから。


ただの、自己満足だけれど…


私は、その本をそっと本棚にコトンと戻した。




* * * * * * *




「相変わらず王宮は豪華絢爛だね…あー緊張する」


「まだ慣れない?」


「うん…」


「今日はケープ無しだからね。ふふっ」


「あっ、そう言う事言わないでよっ、益々緊張する」



今日は、終戦祝賀会と表彰式で王宮に来ていた。

相変わらず公式な催しは緊張する。

あのこちらに一斉に注目する視線と静寂がもう…苦手すぎる。


今日私は、珍しくドレス姿である。

エリカさんは、大喜びで非常に準備を張り切ってくれた。


髪はサイドにツイスト状に編み込み、ルーズハーフアップ。

後ろ髪はクルクルウェーブにしてありボリュームアップされ、

ふわふわでゴージャスで、まるで別人みたいだった。

そして、サイドにパールの髪飾りをこれでもかと付けてある。


ドレスはグレンさんが贈ってくれた物だ。

これが…もう素敵過ぎた。


上半身はベース色がグレーで、パールの細かい刺繍のような豪華な装飾と、

レース編みの組み合わせで、もう本当に繊細で綺麗。

雨粒みたいに繋がったパールがズラッと、肩口から胸の前まで垂れ下がって、

ゆらゆら動き、先端にあるティアドロップ型の透明な水晶がキラキラ光を放つ。

襟ぐりはレースリボンで覆われ、袖は白い透け感のふんわり布に、

レース編みが施してあり、とにかく細工が細かいのだ。

お揃いのデザインと細工のネックレスとイヤリングも華麗で艶やかだ。


ドレスは綺麗なAラインで、シルエットが美しく、

白とグレーのふわふわオーガンジーのような布が何重にも重なり合っている。

パールの装飾は、前面に豪華な模様を描きながらレース編みと共に、

これまた細かい装飾で裾まである。

後ろは、背中が大きくO型にガバリと開いているが品があり、

お尻部分にふわふわの鳥の羽のような細かいギャザーフリルが盛り沢山で、

可愛らしさもあるのだ。


ヒールも、パールが付いた低めの歩き易いのを用意してくれた。

そして腕には、婚約腕輪のみをアピールも含めて身に付けていた。


白とグレーで抑え気味な色だが、凝った細工の装飾のおかげで、

絢爛で上品、清楚で優美な素敵ドレスになっている。


もう、これを見た時は、童話の世界のお姫様になったみたいで、

思わず泣きそうになった。


グレンさんは、控えめ好きな私の好みをよく分かっていた。

因みに、グレンさんは黒い騎士服で、黒と白の正反対の色。

お互いを引き立てる色合いで、これも見事だった。



「凄く綺麗だよサトミ。堂々としておいで」


「本当?ありがとう、グレンさん。

 こんな素敵なドレス初めてで、裾踏んで転びそうで怖いし…

 しかも私、転ばないように、めっちゃガニ股で歩いてるんだけど…

 何でみんな澄ました顔で、シズシズ滑るように歩けるんだろう」


「大丈夫、足なんか見えないし綺麗だよ。ほら背筋伸ばして」


「う、うんっ」


「……おい、飛竜落とし姫だぞ…」


「おお、今日もお美しい。なんて細い腰なんだ…」



後ろから、なんかコソコソ話をしている人の声が聞こえてきて、

不穏な呼び名に、思わず声のする方へ振り向いた。

彼らはまっすぐ私を見ていて、目が合うとおどおどしながら、

ペコリと頭を下げる。あ、やっぱ私の事だった。

こちらも微笑んで軽く頭を下げる。

彼らは顔を真っ赤にして、嬉しそうにはしゃいでいた。



「ねえ、グレンさん。私今、“飛竜落とし姫” って呼ばれてた?」


「うん。サトミは、王宮で二つ名がついてるんだよ。

 あまりにも君が飛竜を打ち落とすから」


「まんまで草」


「……くさ?」


「いや、こっちの話…あ、もう入場できるみたい」



こっちの世界では、この言葉は通じないし説明が面倒なので誤魔化した。

しかし、いつの間にそんな呼び名が付いていたのだ。

もう少し捻っても……まあ、いいけどね。


祝賀会と表彰式会場の扉が開かれ、ぞろぞろと参加者が入場する。


あのリンドゥーテ親善大使も出席していたらしく、

歩いている途中で、赤毛の大男とパチッと目が合った。

彼は、こちらを認識してビクリと身体を揺らし、

目を逸らしてソロソロと蟹みたいな横歩きで、何処か遠くへ移動してしまった。


…私、あの人を相当切り刻んだらしいけど…もしかして、怖がられている?

うーん、そのうち、ちゃんと普通に話せるようになるといいけど。


いよいよ、注目の的の表彰式が始まり、

勲章授与と褒賞を受け取り、割れんばかりの喝采の嵐の中、

緊張しながらも、私は無事終えたのだ。

国王陛下が褒め称え過ぎの長い口上に、早よ終われと少々イラついたが、

とにかく、やっと肩の荷が降りて、あとは楽しむ気満々だった。


そして、祝賀会の交流とダンスと立食タイムに突入。


相変わらず北の騎士団員達が、私をガードしてくれているから、

貴族共のお誘い&お近付きになりたい攻撃を免れている。


オーケストラが演奏を始めて、皆ダンスに参加し会場が賑やかになる。

それを見ながら、私は練習の成果を試したくてウズウズしていた。



「ねえねえ、グレンさん」


「ん?どうした?疲れた?」


「ううん。あのね、実はマナー講師にワルツのレッスンを

 こっそり受けていたの。だから…その一緒に踊ってくれない?」


「そうか、いつの間に。でも、無理に踊らなくてもいいんだよ?」


「私がグレンさんと踊りたいの。ダメ?」


「ふふっ、そうか。でも、俺そんなに上手くないけど」


「またまた~、グレンさん、いつも謙遜するじゃん」



やっぱり謙遜してるよ、この人。

踊り出して、すぐに分かった。めっちゃリード上手いし踊りやすい。

私なんか彼に体委ねてれば、それらしく踊っている様に見えるわ、これ。


クルクルターンをしながら、格好いいグレンさんに身惚れてしまい、

ステップ中にヒールで彼の足を思いっきり踏んづけてしまった。

一瞬、グレンさんの綺麗な顔が歪む。



「ご、ごめんっ!」


「ははっ、大丈夫、大丈夫。サトミ、初めてにしては上手いよ」


「グレンさんのリードが、上手いからだよ」


「そんな事ない。姿勢もいいし、足も動いている。後は慣れだ」


「グレンさんは、どこでワルツ習ったの?」


「タヌキに叩き込まれた」


「…タヌ、キ…あ、国王陛下?」


「そ、王位継承権放棄したけど、俺は王弟の息子だから、

 スペアは多い方がいいと考えたんだろ。何かあった時の為のキープだよ。

 だから、王子と同じ教育を受けさせられている」


「王子3人もいるのに、用意周到だねぇ」


「先祖代々国王は、王族の血統を重んじるからな」


「忘れてたけど、グレンさん王族の血筋だった」


「忘れていいよ」


「ふふっ、うん」


「サトミ…」


「ん~?」


「来年、結婚しようか」


「…えっ」


「もしかして嫌?」


「うううううううん!」


「はははっ、それはどっちなの?」


「する!嫌なわけない!」


「じゃあ、一緒に住む邸も探さないとね」


「あ、そっか。そうだね」


「ふふ、よし、決まり!」


「え、ちょっ、グレンさん!うわぁっ」


「ははははっ、サトミは軽いな」


「ちょっと、待って、待って!めっちゃ注目浴びてるって!

 下ろして、下ろしてってばーっ!あははははっ」



私以外は滅多に見れない、グレンさんの満面の笑みに加え、

彼は私の腰を掴んで、軽々上に持ち上げながらクルクル回った。

そして、しばらくしてやっと降ろしたかと思いきや、

今度は、お姫様抱っこで額がつく程顔を寄せ合って、その場でクルクル回る。


彼のマントと私のドレスが、花のように綺麗に舞っていて、

ダンスホールで目立ちまくりの注目の的になりまくり。


私は恥ずかしかったが、グレンさんがあまりに幸せそうで、

周りの微笑ましい視線を浴びながら、

しばらく彼の喜びの舞いに付き合う事にした。



「サイラス見ろよ、あのグレン団長の顔」


「ははっ。ああ、見えてるよレイ。良かったな、あの二人。

 もうこれは完全に、公認の仲をアピールしてるな」


「サトミさんと団長、幸せそう。綺麗だなぁ」


「あー、羨ましい…いいですねぇ。両思いって…」


「残念ながら、あの二人に入る隙はありませんね」



その二人を微笑ましく見ているのは、レイ、サイラス、アレン、

ステラ師団長、セオドア文官だけではなかった。

王族席の壇上から、セラデュード王子、ウィルアルド王子、ヴァニティーナ王女、

朝露の精霊デューリーン、そして無言のガレリア国王陛下。

因みに、ヴァニタリス王子は、まだ謹慎が解けておらず不在だった。



「うわー綺麗ですね、あの二人。お似合いです」


「そうだね、セラデュード。グレン団長殿のあんな笑顔、初めて見たよ」


「ふん、人前でイチャつき過ぎよ。全く…」


「ヴァニティーナー!僕もあれ、高い高いしてクルクルしたーい!」


「はあ?あなた自分で浮いてクルクル出来るでしょ?」


「えー…、やって欲しいーねーねー、ねーっ‼︎ 」


「ああ、もう煩い。…ほら、高い高ーい」


「わーい、楽しい~♪もっともっと~!きゃっきゃっ!」



その後、国王陛下は二人の結婚の報告を受け、更にしょんぼりするのだが、

せめて結婚式に出席したいとしつこく食い下がり、内輪でやるから無理だと

断る二人を大いに困らせて、またグレンに怒られたのであった。




* * * * * * *




「あー…何だかんだで忙しい…」



今日は、グレンさんと一緒に行こうと約束していた豊穣祭。


来週は王宮料理人達が、騎士団食堂に料理の研修にくる。

私の調理法を学びたいと前から懇願されていて、やっと実現したのだ。

その研修に利用する材料や調理器具を揃える手配で、私は右往左往していた。


その後は、第一回戦力強化訓練の交換交流会が始まるのだ。

他区の騎士団1部隊を交換して交流し、戦力の強化を目的としている行事だ。

そして、その彼らの部屋と着替えを用意したりと準備でなかなか忙しいのだ。


それらが落ち着いたら、浄化遠征で回った、

その後の村の様子を視察しに、身代わり魔石返却のお礼も兼ねて、

行きたいと私の希望を申請してあるのである。


それに、体力と魔力が安定するまでと、未だに止められているが、

身代わり魔石を作り直して、また皆んなに配りたいのだ。



「サトミー、行くよ。準備できた?」


「あっうん!ティアラ、ティアラ!」



グレンさんと共に私はユキに騎乗して、街の豊穣祭に向かった。

案内された部屋で民族衣装に着替えて山車に二人で乗り込み、

街を練り歩くパレードに出発する。



「うわー、高ーい♪良く見える!民家の二階丸見え」


「あんまり身を乗り出すと危ないぞ、サトミ」


「うんっ。グレンさん、パレード終わったらブローチ買いに行こうね」


「そうだね。去年の出来事が、遠い昔のように感じる」


「うん、そうだね」


「民族衣装似合ってるよ、すごく可愛い」


「本当?ありがとう。この衣装可愛いよね。

 グレンさんも似合ってる。王子様みたい」


「そうか?この派手なパンツは、ちょっと恥ずかしいな」



私は、頭には赤いスカーフを被って、その上にティアラをつけている。

袖がふんわり余裕のある幅広の白ブラウスの上から、黒いベストを着て、

縦縞のカラフルなロングスカート、赤い靴紐の黒い編み上げブーツで、

ブラウスとベストには、野菜と果物のカラフルな刺繍が施してある。


男性用も白ブラウス着用の上に、お尻まで隠れる丈の黒いベスト、

ズラッとボタンが並んでるデザインで、詰め襟の学生服みたい。

刺繍がないから女性より派手さはないが、縦縞カラフルパンツに黒ブーツは、

どうなんだろうと思ったが、グレンさんは格好よく着こなしていた。


山車の横に同じ民族衣装を着ている人達が、踊りながら並走している。

中には子供達もいて、めちゃくちゃ可愛い。


道路の両脇にいる見物客に手を振っていると、

見たことのある人が居た。


あ、エリカさんだ。

彼女も民族衣装を着ていて、二人の男性と居る。

もしかして、あれが例の二人の恋人かな。


私は山車を止めてもらい、彼女の元へ駆け寄って行った。



「エリカさん!」


「サトミ様!まあ、可愛い!すごく似合ってますぅ!」


「エリカさんのが可愛いよ、はいっ!」


「えっ、あっ…これ…ええっ⁉︎ 」



エリカさんの頭に、ティアラを被せる。

身内の贔屓目だが、彼女は本当に可愛かったし似合っていたから、

次のミス豊穣に選んだのだ。



「ええーっ、いいんですか?」


「ふふっ、似合ってるよ。おめでとう!」


「うおおおおっ、さっすが俺たちのエリカ!」


「うわわっ、きゃあっ!高いって二人とも、怖い怖い!」


「今日はお祝いだ!エリカの好きなレストランに行こう」



エリカさんは、二人の恋人にお姫様のように担ぎ上げられ、

周りの人達からも、おめでとうと声をかけられている。


私は山車に戻り、エリカさんに手を振って、

彼女も満面の笑みで、手を振り返していた。


そして去年同様、

街路樹に一斉に花を咲かせて、フラワーシャワーを舞い散らせる。


わあっ、と一斉に歓声が上がり、

皆んな笑顔になるのを見て、私も嬉しくなった。


ああ、いいなぁ。この光景…みんなが幸せそうに笑ってる。

ずっと、こんな風に過ごして行けるように…これからも尽力しよう。



あのレガリア王子が望んだ、理想の童話の世界のように。



パレードが終わった後、私とグレンさんはブローチを買ってお互いに交換した。

出店で買い食いをしまくり、子供のようにはしゃいで二人で楽しんだ。


そして、野菜の重さを当てる催しに参加して、なんと私は見事に正解。

その正解した現物の巨大キャベツを賞品で貰って、

ユキに食べられそうになるのを死守しながら無事持ち帰り、

巨大ロールキャベツを作って、騎士団員達を喜ばせたのだった。




* * * * * * *




「な、なあっ、俺今日すげー夢見たんだけどっ!」


「…もしかして、姉ちゃん出てきたか?(アキラ)


「は?冬士(トウジ)兄ちゃんも?」


「異世界に居て、聖女してるって」


「そ、そう!隣にスッゲェ、イケメンの騎士がいただろ?」


「ああ、同じ夢だな」


「ねえ、今の話…」


「あ、母さんおはよう。もしかして、母さんも見たの?」


「うん…元気にしてるから、心配しなくていいって…」



一瞬静かになり、みんなで顔を見合わせる。



「3人で同じ夢見るなんて、ありえんの?」


「夢じゃないだろ。姉ちゃんは、俺たちに知らせてくれたんだ」


「私達が心配しないようにね…紗都美らしいわ」


「…そっか…じゃあ、姉ちゃん本当に生きてんだ」


「うん、そうだな」


「とりあえず良かった…あの子、幸せそうだったわ」


「…行方不明者届どうすんの?」


「そのままでいいよ。この世界では行方不明なんだから」


「すげーな…異世界に行っちゃうなんて、本当にあるんだ!」


「もう連絡は出来ないって言ってたね…ワームホールの繋がりが、

 どうとか…よく分からなかったけど…」


「ねえ、異世界ってパラレルワールドとは違うのかな?」


「さあな、経験ねーから、分からん」


「パラレルなら俺達も違う人物で、向こうの世界にいるかもじゃん」


「もし、そうなら…姉ちゃんのこと、手助けしてくれてるといいな」


「うんっ、絶対助けてると思う!」


「…さて、朝ご飯作ろうかなっ」


「あ、俺朝シャワーするんだった」


「えっ、兄ちゃんも?俺もしたいんだけどっ!」


「うっせーバーカッ!早いもん勝ちだ」


「早く出てよ⁉︎ 俺、朝練あるんだから~」


「あははははっ、うるさいねぇ男兄弟はー…」



窓の向こうの抜けるような青い空。


万緑の中でミンミンとセミが鳴き始める真夏の朝に、

3人家族のカラカラとした賑やかな声が響き渡っている。

そして蝉時雨と涼風と共に、透明な空の向こうに溶けていった。  




* * * * * * *




「ヴァニタリス」


「父上…」


「気分はどうだ?」


「あまり良くありません…」


「まあ、そうであろうな。牢獄生活など王族のそなたには…」


「この環境ではありません」


「ん?」


「自分が愚かな行いをしたのは、重々承知なのです。

 ですが…初めてなんです。

 あんなに自分の心をコントロール出来なくなったのは…」


「それが、恋というものらしいぞ?」


「…これが、ですか?こんな…矛盾した行動と考え方をするのが?」


「そうだ。良かったな。

 王族では一生出来んかもしれん、経験をしたのだぞ」


「間違いを犯す所でした…」


「最初から、正しい行いだけをする者など居ない。

 皆間違いを犯し、そして、成長して行くものなのだ」


「…それに、苦しいのです。ずっと、石を飲んだように…

 心が重く…辛い…」


「まあ、仕方あるまい。

 暴走したとはいえ、反乱を起こしてまで手に入れたかった女性に、

 振り向いて貰えなかったのだからな。

 今までこういった経験は、お前には初めての事だろう。

 失恋は辛いものだ。しかし、心配するな。時間が解決する」


「もし、最初の対応を間違えなければ…

 彼女は…振り向いてくれたのでしょうか?」


「いいや。無理だろうな。

 サトミ殿が自分らしく生き生き出来て魅力的なのは、あの環境だからだ。

 そして、誠実なグレンが彼女を支えて、北の騎士団員が守っていた。  

 だから彼女はこの国に好感を持って、聖女として誠実に働いてくれている」


「王子という立場がもう…無理だったのですね」


「そうだな。本人も嫌がっていたが、王家の狭い檻に入れてしまっては、

 彼女は、本来の能力を発揮出来なかったであろうな」


「…そう、ですね。今ならそう思います」


「ああ、それからあの二人、来年結婚するそうだ」


「えっ⁉︎」


「はははっ、もう諦めろヴァニタリス。あの二人は運命で強く結ばれておる。

 お前の入る隙などない。分かっておるだろう?」


「はい…認めたくありませんでしたが…

 そうですね…でも…まだ時間は、かかりそうです…」


「その苦しみを糧にして這い上がってこい。

 我が息子、ヴァニタリス」


「はい、父上、精進いたします」


「よろしい」



いい顔をするようになった。

真面目だが、主観的で頑固で柔軟性がない、プライドの高い第一王子が、

恋と失恋を経験する事で傾聴し、共感的理解、無条件の肯定的関心、

自己一致を得てくれたのだ。


我が息子のこの成長に、満足げに微笑む国王陛下だった。




* * * * * * *




騎士塔の裏の畑は、ありがたいことに、

追放村から、定期的に品種改良された苗が届き、今やすっかり広大になって、

季節の野菜だらけになっていた。


みんなでワイワイと野菜や果物の収穫をしていると、

久しぶりの鐘が打ち鳴らされる。





カンカンカンカンカンカンカンッ‼︎






「あ、久しぶりに魔獣の襲来?」



しゃがんで作業していた私は、

手の土をパンパンと払って立ち上がる。


因みに、スカートでは作業がしにくいからと、

私の要望で女性用のパンツ型の洋服を作ってもらっていた。


乗馬パンツみたいなのと長いブーツの組み合わせで、

膝上丈の巻きスカートを上に履いているスタイルである。

今はその格好で、伸び伸び奔放に活動している。


最初の頃は、周りの人たちがギョッとして足が見える!と大騒ぎしたが、

とりあえず騎士団員達は、慣れてくれたようだ。

この世界に女性のパンツ文化が根ざすのは、まだ時間が掛かりそう。



「サトミさーんっ、久しぶりに飛竜きたよ!

 唐揚げ食べ放題!ヒャッホウ♪ 唐揚げ、唐揚げ♪」


「アレンくん、言い方…」


「いや、飛竜南蛮だろ」


「やったー唐揚げだぁー♪」


「チキンカツと照り焼きー!」


「私は、レモンバターの飛竜ソテーが食べたいですね~」


「いや、私はネギたっぷりの油淋鶏のが好みです」


「み、みんなってば…ステラ様とセオドア様までっ…」



飛竜は本来、畏怖の象徴のような偉大な存在のハズだった。

討伐難易度が高く、どこか威厳があって神格化されている魔獣のハズだった。

だから他の魔獣とは違い、一目を置かれていたハズだった。


ところが、私がバンバン撃ち落としまくったせいで、

すっかり威厳もなくなり、今や北の騎士団員の間では食材扱いである。



「やれやれ、あの飛竜を唐揚げ呼ばわりか」


「ふふっ、グレンさんは何がいい?」


「うーん、全部美味いが、俺も唐揚げが一番好きかな。エールに合うし」


「あははははっ、分かった。唐揚げ沢山作るね!」


「うん。…ああ、そういえば国王陛下に、

 今度飛竜を撃ち落としたら、唐揚げを献上して欲しいって、

 泣いて縋られてウザ……頼まれていたな」


「え?レシピは王宮料理人に渡してあるはずだけど…

 飛竜の肉だけ渡せばよくない?」


「サトミが作ったのが、美味しいんだってさ」


「もー、面倒臭い人…」


「サトミちゃん、飛竜来たぞー!」


「あ、サイラスさん。

 うん。さっきアレンくんから聞いたから、今撃ち落とすねー‼︎」


「俺は唐揚げがいいなー」


「レイさんまで…分かったから」


「姫さーん、飛竜、飛竜!早よ撃ち落として、唐揚げ作ってくれ」


「俺も、俺も唐揚げがいい!」


「もう、分かったってば!トウジさんっ、アキラさんっ」


「人気者だな、サトミは。はははははっ」



レイさんから弓矢を受け取り、

グレンさんと笑いながら手を繋いで、飛竜の元へ足早に向かう。




そして、ふと空を仰ぐ。




飛竜が旋回して飛んでいる空には、

3つではなく2つの衛星が浮かんでいる。


1つは、元の世界に繋がるワームホールだった。

もう崩壊したから…今は2つになっている。




私の世界との繋がりは、今や完全に無くなってしまった。




伝言は、今も薄れゆく記憶の中の

お母さんと弟たちに、届いただろうか。


みんな…元気にやっているだろうか。






お姉ちゃんは……私は、ここで生きていくよ。


元気にやっているから、心配しないでね。







私は、この世界で、


前を向いて、未来を生きて行く。












飛竜落とし姫は───もう、振り向かない。














最後までご拝読、本当に本当にありがとうございました。

心から感謝いたします。


だらだらと物語を引き伸ばすのは嫌なので、ここで一旦完結にします。

続編または、番外編を加筆するかもしれませんが…今は完結できた満足感と喜びで一杯です。


賞も取っていない、コミックス化もされていない、無名の作品を見つけてくださり、ありがとうございました。(しかもタイトルダサいし…)

そんな中、54件のブックマークを最後まで外さずに、ずっと追いかけて読んで下さった方々に心から感謝します。絶対完結させるという気持ちを後押ししてもらいました。


初めてのリアルタイム連載でしたが、文章を書くという作業が想像以上に知識が膨大に必要で、自分の頭の悪さに落ち込み、文字で情景描写を表現する難しさに悶え苦しみ、他の作品でも誤字報告を受けまくり、穴がなくても掘って入りたいくらい恥ずかしかったのですが、誤字報告していただいた方々のお陰で、凄く勉強になりましたし、大変助かりました。(多分まだあると思いますが…)


素人の拙い文章で紡ぐ物語を最後まで見捨てずに読み切ってくださった皆様、サトミと一緒に冒険を楽しんでくださった皆様、もし私生活の中で少しでも楽しみの一部になっていたら幸いです。


本当に、本当にありがとうございました。(つД`)ノ


今後ペースは落ちますが、新作もちょくちょく書く予定ですので、

良かったら、また来てくださいませ!


2026.8.5

米野 雪子


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