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エリザ・ユーディットの日常 ~あざとい彼女から親友を守る!王弟殿下との共同戦線とその後~  作者: erie


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1/3

1 ほんとうにもう!

前作「で、?   ・・・不実な婚約者のあざとい彼女は、自滅しました?・・・」のエリザの話です。よろしくお願いいたします。

 エリザ・ユーディットは腹立たしくてしかたがなかった。親友の婚約者が、不貞を働き続けるばかりか、その浮気相手の見えすいた嘘を鵜呑みにしてアンジェリカに噛みついてくるのだ。


 今も、あの女がわざと突進してきてアンジェリカを突き飛ばし、おかずとスープまみれにしてしまったというのに、彼女は謝罪や心配をするどころか被害者面して大騒ぎし、後から来たあの男は事情を確認することも、婚約者を思いやることもなくアンジェリカを責めたて、嘘つき女を大切に抱きかかえて行ってしまったのだ。


 これだけの人たちが現場の一部始終を目撃していたというのに。


 アンジェリカが何をしたというのか?彼女はずっと我慢していただけだ。フレデリック・ノストンの不実に! 進まない婚約解消に!


 評判通りだったならもう少しましな男のはずなのに、この行動もこの対応もあり得ない。

 二人の後姿を睨みつけていた視線を親友に戻して声をかけようとしたとき、「災難だったね」と同級生のトーラス・ボガート様が彼女に手を差し伸べていた。ならばとアンジェリカのことは彼に任せることにして、その後の処理は私が引き受けた。隣を見ると、もう一人の親友マーガレットも怒りに肩を震わせていた。


 入学以来、 ロレッタ・リビングストン男爵令嬢の噂は嫌というほど聞かされていた。なにしろ、彼の婚約者であるアンジェリカが入学したのだ。

 ロレッタに、婚約者や親しくしていた男性の友人を卑怯な手で奪われた人やその友人は、身分的に不相応な侯爵子息のフレデリック(こんな人呼び捨てで十分)にまで近づき始めたロレッタに怒り心頭で、新たな被害者仲間と予想されるアンジェリカやその友人である私たちに、先を競うようにさまざまな情報や感情を伝えにきたのだ。

 

 ロレッタは私たちより一学年上でフレデリックと同学年。入学直後から見目の良い男に目をつけては、庇護欲をそそり、さりげなさを装った身体的接触をしては、被害者ぶって男たちの気を引き、文字通り()()()()()()、ふれあいを巧みに深めて、次々と虜にしてきたらしい。それが原因で壊れた婚約も幾つかあったという。ほとんどは政略なのだから、その経済的損失はいかばかりか!


 だから私はそれらの真偽を確かめてみることにした。学校にいる時間帯はアンジェリカのそばにいて彼女とともに過ごし、寮に戻ると彼女のことはマーガレットに任せて、被害にあった人たちや事情を知る人たちから話を聞き、証拠を集め、客観的な事実関係もできる限り調べた。


 父やアンジェリカのお父上に報告しようと資料をまとめあげたころ、食堂事件がおきた。

 そしてその翌日、トーラス様から声がかかったのだ。


 事件の時、一緒に居合わせていたご友人のジェームス様、ウィリアム様とともにトーラス様に連れて行かれた私たちは、特別談話室に案内された。そこには、すでに最高学年のアレクシス王弟殿下とそのご学友のエドワード様、グレアム様がいらして、少し驚いた。

 思っていた以上にことは大事のようだ。


 私たちから一通り事情や要望をきいたアレクシス殿下は、「ここは、私にあずからせてもらっていいだろうか? 十日で決着をつけよう。」

と、それはきれいな笑顔でおっしゃった。なぜか背筋に冷たい汗が流れた。

 

 その日の夕食後、寮監のマクブライド先生に呼び止められ、緊急の手紙を受け取った。差出人はアレクシス殿下で、その場で読むように言われて読んでみると、この件で私が知っていることを客観的にすべて知りたいという。翌日は学校が休みなので、午後、王城へ来るようにという呼び出しだった。急にもほどがある。


 その場でマクブライド先生に帰宅の許可をもらい、部屋に戻るとすぐに家に帰宅を知らせる手紙をしたため、担当職員に託して家に知らせてもらい、今までまとめた報告書の束を持って、帰宅の準備をして迎えの馬車を待った。


   ◇ ◇ ◇


 私がアンジェリカと仲良くなったのは七歳上のお兄様同士が友達だったからだ。彼女の二番目のお兄様ブライアン様はかなりのシスコンだと思う。仲の良い彼らはしょっちゅう互いの家を訪問していたのだが、彼は妹に新しい刺繍のハンカチをもらう度に見せびらかすのだ。場を外し損ねて居合わせてしまうと、私にまで見せて ひとしきり妹の愛らしさを語る。  

 困ったことに兄まで対抗心むき出しにして私の自慢を始めるので、もう、いたたまれなかった。うちの兄も大概だ。

 ブライアン様が自慢するだけあって、彼女の刺繍はそれは見事なものだったので、私は彼女にとても興味を持った。

 その後、兄の訪問に連れて行ってもらって、彼女と話したら、思っていた以上に気が合うことがわかり、すぐに友達になった。

 アンジェリカは入学するずっと前からの大切な友人なのだ。


 その彼女があんなアホな婚約者やズルくてあざとい女に傷つけられて、黙ってなんていられない。


  ◇  ◇  ◇


 帰宅すると、急な王宮への呼び出しのためと伝えた短い手紙に驚いていたようで、家族全員で私を待ち構えていた。


 着替えもそこそこに、用意されたお茶の席に着く。聞かれるままにこのところのロレッタのことや、フレデリック様の言動と今日のアレクシス様達との話し合いのことを伝えた。


 憂い顔で寄り添うお義姉様の横で、お兄様は憤った後、フッと鼻で笑って口角をあげ、お母様は眉をひそめた後、妖艶に微笑み、お父様は無表情に話を聞いた後、静かに不敵に微笑んでいた。一緒に微笑んでいる自分に気づき、確かな血のつながりを感じて、苦笑した。


 夜も遅いので、部屋に戻ると、湯浴みをして寝た。緊張して、なかなか寝付けなかったけれど。


 王宮に着くとすぐにアレクシス様のもとに案内された。

 たくさんの廊下をどんどん奥まで進むので、驚いた。右手に見える庭園には十歳の頃、来たことがある。たくさんの令息令嬢とともに集められた。アレクシス殿下のお披露目のお茶会だったと思う。開始後すぐ、令嬢たちはアレクシス様の周りに群がり、私の周りには令嬢はほとんどいなくなった。令息たちも幾人かを除いて、慌てたようにそちらに向かっていた。父や母はお友達を作っておいでと言っていたので、困ってあたりを見回していたら、私と同じように呆然としていたアンジェリカと目が合った。思わず笑ってしまって、その後私たちは美味しいお菓子とお茶を堪能しながら、まばらに残っていた人たちと、とても楽しく過ごした。


 そんなことを思い出しているうちに、ここから先はプライベートスペースでは?というところまで来てしまい、足が止まってしまう。進みたくない。けれど先導の騎士に促されてやむなく進む。

 

「ユーディット侯爵令嬢をお連れ致しました」

「どうぞ」

侍従が答え、扉がひらかれた。

「お待ち申しておりました」

と、殿下の下に案内された。


「よく来てくれたユーディット嬢」

 殿下に迎えられて挨拶が済むと、ソファーに座るよう促された。

「早速だけれど、君の知っていることをすべて教えてくれる?」


 そこからはお互いに優雅に微笑み、時々笑い声までこぼれながら、腹の探り合いも含んだ濃密で有意義な話し合いがもたれた。

 今後の方向性と、あらかたのシナリオを検討し、その後の事後処理までおよそ決まったところで、ふと目を上げると、殿下がしげしげと私を見ていらした。怪訝に思って「何か?」と尋ねると、楽し気に声を立てて笑いながら、

「いや。楽しい時間だった。ありがとう」

とおっしゃった。訳が分からない。この話し合い(作戦会議?)のどこにそんな要素が?といぶかしんでいると、さらに笑ってから真面目くさった顔で、

「お互いに、粛々と遂行して、良い結果を導き出そう。よろしくね」とおっしゃるので、私も微笑んで、

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」

と挨拶して、辞そうとしたのだが、何を思ったのか殿下はそのまま私をエスコートして、長い廊下をとりとめもない会話をしながら馬車まで送ってくださった。

 あれだけ緊張していたはずなのに、いつの間にか気を許してしまっていた自分に少し驚いて、私はまた気を引き締めなおすのだった。


 次の日、早朝に寮に戻った。

 登校時、談話室で話し合った通り、アンジェリカとマーガレットと三人で寮を出て、トーラス様たちと合流するという日々が始まった。

 放課後アンジェリカたちと三人で寮に戻った後、私は再び校舎に戻って、図書館の殿下に指示されていた場所に行き、殿下と二人で進捗状況の確認と次の日の予定を打ち合わせた。

 彼はどうやったのか、早速ロレッタが一人でいるときに()()出会うことに成功しており、次の日の「作戦」について相談された。そうして毎日図書館での打ち合わせが続き、四日目のこと。


「見張らせているものから、報告があった。なんでも彼女はアンジェリカ嬢に階段から突き落とされて、大けがをしたらしい」と黒い笑顔で仰った。

思わず私の片眉も上がる。

「今、何と?」

「先ほど、全身包帯でぐるぐる巻きの姿で松葉杖をついて、アンジェリカ嬢の婚約者殿を訪れ、()()していたようだよ」

「まあ・・・」

「アンジェリカ嬢は校内にいるときはずっと君たちと一緒だったよねぇ。

旧校舎の階段に行った覚えは?」

「まっっったく、ございませんわねぇ」

「そうだと思った。

短慮な彼らのことだから、早速明日、大勢の集まる場所で行動に出ることだろう」

「行動とは?」

「大茶番だよ」にっこり。

「まあ」にっこり。


 それから、翌日の昼食時の綿密な打ち合わせをして、いよいよ翌日本番を迎えた。


 驚いたことに、殿下による仕込みは大したもので、絶妙な間隔に配置されていると思われる人たちがいて、食堂の中ほどにいる私たち六人グループの席に、大けが仕様(包帯松葉杖姿)の彼らは進んでこられそうもなく、入口の扉の前で婚約破棄劇を繰り広げざるを得ない状況になっていた。

 そして、それぞれのおしゃべりに興じていた生徒たちが聞き耳を立てるように上手に促す(殿下の協力者と思われる)人々。

 静まり返る食堂。

 これまた絶妙なタイミングで廊下から聞こえてくる殿下たちの話し声。

 心の中で舌を巻く。


 その後も見事に殿下のシナリオ通りに事は進み、ロレッタはガッツリ墓穴を掘った。


 こうして事件は無事、解決した。


 あれ以来、あの二人は学校に来ていない。

 私たち六人グループの交流はその後もずっと続いている。力を合わせて行動していたため、絆は強まり、楽しい学校生活を皆で満喫する日々である。


 そうこうしているうちに、いつの間にかトーラス様がアンジェリカの隣にいることが目立つようになり、何となく甘い空気が漂うようになったと思ったら、いつもの三人のお茶会の席で、アンジェリカに婚約を受けるかどうか相談された。もちろん答えは一択である。何をいまさらと、私とマーガレットは顔を見合わせて笑ってしまった。アンジェリカも大いに照れながらつられて笑っていた。


 このまま穏やかに充実した学園生活が続いていくと思っていた。のだが・・・。


 

 



お読みくださりありがとうございました。

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