対比
「そうか! 涼火ちゃんといるから小さく見えるんだ」
授業合間の休み時間、唐突に朝月は呟いた。
「どうした? 急に」
不意の呟きにメガネの男子は顔を向ける。
「だから、大きな涼火ちゃんと一緒だから僕が小さく見えちゃうんだよ」
相手の大発見をしたかの様な言動にレンズ越しの目を軽く眇める。疑う様に。
「ん? そんな訳ないだろ。実際某遊園地のビックリハウスに身長制限クリアで未だ入れるだろ」
「むっ、失礼な! 入れる訳ないだろ。ギリギ……はい、というわけで!」
朝月が途中で言葉を切り、教室の後方にクラスの男子数人を横一列に並ばせる。
お願いされて並ばされた。
「……なんでだよ! なんで僕よりも背の低い男子がいないんだよ!」
理不尽過ぎる不満が教室に響いた。
「そもそも朝月より背の高い男子しかいないんだから、第一回背比べグランプリを開催しても意味ないだろ」
メガネ男子の言葉に腰を曲げ、居並ぶクラスメイトを悔しげに覗き込む。
そして自棄になって叫ぶ。
「だったら! 女子だ!」
「おいおい。男子としてのプライドはどうした?」
聞かずにはいられない疑問に耳を貸さない朝月。
今度は彼にお願いされた女子数人が教室の後で横に整列する。
「やっぱり、小っさ。ジェットコースターの身長制限でジャッジがかかるだけはあるな」
「んあぁ~っ、なんで!」
「惜しかったな」
「慰めないで! あとジャッジかからないからっ、でまかせが広がったら困るだろ! もーっ、どうしてクラスに僕よりも小さい女子がいないのさ!」
悔しさのせいか言動に後退傾向が見える朝月に、周りの女子たちが同調して食べ物を差し出す。
「まあまあ、大きくなるのはこれからだって。まだ高一なんだから」
「そうそう、これからこれから。ほら、ラムレーズン味だけど牛乳パン食べなよ」
「口つけちゃったけど牛乳も飲む? 大きくなるしイライラも抑えられるカルシウムをどうぞ」
女子たちに囲まれる状況に男子陣がザワつき、妬ましく悔しがる視線が集中する。
彼的には姉と妹がいるし、男女の差なく接するので女子たちに囲まれても特に何とも思わなかった。
「ほら、成長剤でも飲みなよ」
そう言って小柄で可愛らしい女子が十センチ程度の容器を取り出す。
示された成長剤に見覚えはあるけれど、どこで目にしたのか思い出せない。
ちなみに背比べのために並んだ女子の内の一人だ。
とりあえず手を伸ばそうとした瞬間、別の女子に後から引き離す様に抱き止められる。
「誰かー! この子を巽くんから遠ざけて! 自称クラスのマスコットを名乗る女子が、彼に立場を奪われる逆恨みで花の栄養剤を園芸部から持ち出したぞ!」
兄のクラスから賑やかな声が漏れ、前を通りかかると一緒に廊下を歩く女子が涼火に問いかけた。
「お兄ちゃんまたハーレムってるけど?」
本当何をしたのか知らないが、嫌な顔を浮かべて聞かれた質問に答えた。
「知らないし。あとハーレムってるって言うな」
「もー、拗ねちゃって素直じゃないぞ」
ムッとして一言反論する。
「拗ねてない」
恥ずかしいだけであり、何に対して拗ねるというのか。
「何をしてるのか分からないけど迷惑かけてないか心配なだけだよ」
聞き耳を立てる訳ではないけれど、教室から兄を呼ぶ女子の声が聞こえた。
「あっ、ハンドクリーム余った。巽くん、てー出してよ。分けてあげる」
その言葉に朝月は気後れした様子を見せる。
「別に乾燥してないんだけど」
「良いから」
少々強引に手を取られ、ささっとハンドクリームを塗られた。
「あ、いい匂い」
「でしょでしょ」
朝月の呟きにハンドクリームの女子が笑みを浮かべる。
匂いがする両手を顔の前にかざしていると、一人の男子がため息を漏らした。
「うらやましい……」
その言葉通りのニュアンスを含んだ呟きに彼は首を傾げた。
「余ったハンドクリームを塗ってくれただけだよ?」
「女子に手を握ってもらえるだけで うらやましいんだ」
「そう?」
異性の手を握る事も珍しくない朝月は、男子の羨ましがる意味が理解出来なかった。
すると集まっている女子の中から一人、朝月に抱きついて顔を寄せる。
「ねー、大きくなるように、むきむき体操しない? 一緒に」
「ムキムキ? 本当? 僕ムキムキになりたい! お願いムキムキ体操教えて!」
朝月は相手の申し出に目を輝かせる。
涼火を女の子らしくしたい気持ちよりも優先順位は低いけれど、身長が低い分男らしくなりたいと思ってはいたので女子の言葉は興味を引く。
朝月も他の男子高校生と同じで、筋トレに挑戦しても習慣化せずに終えてしまっている。
「じゃあ、むきむきになったら巽くんのカツオ食べさせてくれる?」
「? 別にお礼で夕飯くらいなら作るけど。カツオはたたきで良い?」
買い食いの時にお礼で何か奢る事を考えていたけれど、予想外の条件に胸の中で以外に感じつつも了解する。
「んーと、新鮮なままパクッといかせてもらいたいな」
「お刺身が良いってこと?」
「じぁ、あたしは巽くんのジャージが見たいな」
牛乳を片手にした女子が二人のやり取りに割って入った。
すると再び後に身体を引かれ、朝月をカツオとジャージの女子から引き離される。
「誰かー! このセクハラ痴女たちを朝月くんから遠ざけて! ウチのクラスはこんなのしかいないの?!」
一人の女子がそう叫ぶと、抱きついていた女子改め痴女が数人の女子たちによって遠ざけられた。
何か問題を起こさないか心配で廊下から覗いていた涼火は呆れを漏らす。
「兄妹なのが恥ずかしい……」
「私がデカく見えるのは兄貴が側にいるからだと思うんだよね」
時間と場所に違いはあるけれど、やはり兄妹だと思える発言をする涼火。
「突然何?」
親友の女子が首を傾げ、もう一人一緒にいたオタク女子が言う。
「そんなバカな訳あぁぁーーーーっ?!」
涼火の広げた右手が相手の視界を遮り、バカと発言した彼女のこめかみに指が食い込みロックする。
「きっと兄貴が小さいせいだと思うんだ。それしか考えられない」
親友はオタク女子と違って口にしなくてもいい言葉の判断が出来るので止めに入らず傍観する。
余計な事を喋るヤツは痛い目を見れば学習して少しは頭が良くなるだろうと視線に込めた。
そして割と身長の高いメンバーを教室の後に集める。
「どう?」
横に並ぶ隊列から涼火が質問をした。
「ダメだ……胸の主張が強くて、どう見ても大っきいのは変わらないや」
オタク女子の素直な感想に再びアイアンクローが襲う。
「いだだだだっ!?」
頭が締めつけられて女の子じゃない悲鳴を上げる。
親友はそれを横目に自分の机に戻っていく。
「涼火ちゃん、準備しないと次の授業始まっちゃうよ」
その言葉に集まった女子たちも散っていく。
「だっ! 誰か助けて!」
誰もが見なれた景色として放置する。
続いたらいいな……




