猫あつめ
「ねえ、涼火ちゃん。これはどーゆうこと?」
自分より背が高く、髪をクリップで留めた後頭部に向かって質問する。
「これじゃ、僕が襲われる未来しか見えないんだけど」
猫の缶詰を両手に持たされ、妹の後をついて歩く朝月。
昔から不思議と動物に群がられる体質なのだが、エサをぶら下げて住宅街を歩くなんて自殺行為もいいところだった。
エサの袋をカシャカシャさせるだけでも野良猫は寄ってくると何かで聞いた記憶があるけれど朝月には怖くてその話を実証出来ずにいる。
それなのに涼火ちゃんがエサの袋をカシャカシャさせておびき寄せれば良いものをとジト目を向けた。
正直、動物を引き寄せやすい体質には恐ろしさしかない。
「それが目的なんだけど? 囮は黙って歩く」
「……猫に襲われるくらいなら、この前のプリン買ってくるけど」
「それはダメ。兄貴を囮として使えないじゃんか」
平気で兄を囮と言う妹。
「もう幾つも視線を感じていて怖いんだけど」
猫に狙われる小鳥の気持ちをひしひしと感じる。
「大丈夫大丈夫。兄貴に群がる猫は私がどうにかするから」
「涼火ちゃん……本当に不安しかないんだけど」
「大丈夫だって。襲われても迷子の子が見つかったたら速攻で助けるからさ」
「襲われるの前提にしないで!」
軽い口調の妹の約束は信じられない。
異様に動物が寄ってくる体質と言っても外を歩けば見境なく襲われるという訳ではなく、保育士の様に幼稚園では遊ぼうと園児に囲まれる様なものだった。
特に好奇心が強い方の犬は朝月に引き寄せられる傾向にあり突っ込んでくる。
「そんな弱気だと余計に襲われるぞ」
「ちょっと! 不吉なこと言わないでよ。分かってても怖いだろ」
「安心しなよ。兄貴は私が守ってやるからさ」
「絶対の絶対だよ!」
徐々にハッキリしてくる猫の鳴き声に怯えて声が上擦る。
小さな身体を更に縮こまらせ、妹の後を歩く朝月。
「兄貴兄貴。ハーメルンの笛吹きみたいだな」
「猫缶持たされて処刑台に上がらされる気分だ」
にこやかに述べた感想に不満を漏らす。
公園までやってくると、さっそく猫が朝月目がけて集まってくる。
広い安全な場所として公園で足を止めただけで待ってましたと言わんばかりの猫たちの勢い。
手に持つエサをめがけて何匹かジャンプしていたが、すぐにジャンプも出来ないほど密集してしまう。
「ひいいぃーーーーっ!?」
何匹いるのか目の前の光景に悲鳴を上げる朝月。
ほぼ足場も無い中、涼火は記憶している猫を探す。
集まると鳴き声が凄く、まず色から判別して兄から引き離す様にかき分ける。
猫の首根っこを摘まんで後に下げ、迷子と同じ色がいれば抱えて確認し、種類が違うなら密集する一番外に持って行く。
「早くしてー!」
「今やってる!」
言い返して想像を超える勢いの猫たちをかき分ける。
猫たちがジャンプしてエサを狙うため、頭の上に遠ざけて猫缶を死守させた。
さすがに小さな兄でも猫のジャンプは届かない。
代わりに朝月の胸や背中に飛びつくヤツを剥がし、色を見つけては拾い上げて迷子の猫か確かめる。
それを繰り返して涼火は群がる中から目的の猫を見つけ出し、怯む朝月に猫を預けて交換した缶のエサを投げる。
猫缶を握り野球ボールを投げる要領で振り抜くと中身が線状に飛び散り猫たちはそのエサに沿って食いついた。
素早く空の缶をコンビニ袋に入れて縛り猫たちに解放された兄に叫ぶ。
「今のうち……っ!」
エサ競争にハブられた猫がこちらを向き、急いで迷子だった猫を抱える朝月を肩に担いで公園を脱出する。
「ちょっ……! 妹が兄を担ぐな!」
急いで走り揺れる肩で朝月が文句を垂れた。
「私が担いだのは兄貴が抱える猫だ。けど想定以上に集まって恐ろしかったぞ」
「だから言ったじゃん! ろくな事にならないって!」
「言ってないだろ。嫌がってただけで」
涼火は肩から聞こえる苦情を受け流す。
ちなみに一般的に俵担ぎと言われる担ぎ方で肩に兄貴を乗せていた。
軽くは無いが数十メートルくらいなら無理なく運べる。
そんなこんなあり涼火は猫の飼い主のクラスメイトに届けた。
雨水という表札の家へ。
「すみません、アマミーを……」
涼火は言いかけてクラスメイトのあだ名と名字しか知らない事に気づき言葉に詰まる。
呼び鈴に出て来た母親だろう女性も、涼火の言葉を待って少し困り顔だ。
玄関先でお互い微妙な空気になり、猫を抱えた朝月は横から顔を出す。
そして学校名と要件を女性に告げる。
「娘さんいますか? 猫。迷子になってるって聞いて、この子を見つけたからつれて来たんですけど」
言って抱える猫を視線で示す。
肩から降ろされてから何度も猫パンチが飛んできて爪でひっかかれないかヒヤヒヤしていた。
女性はそんな猫を見て家の中に呼びかけた。
すぐに同い年の女の子が奥から走ってきて、玄関で朝月に抱かれた猫に目を留めて名前を呼んだ。
「ニュウ……!」
彼女の声に猫はパンチの前足を止め、耳を立てて飼い主の方に向き直る。
そして泣きそうな笑顔で猫を受け取り抱きしめた。
「巽さん、ありがとう。ずっと探してたの」
笑顔を浮かべてお礼を口にし、無事に猫が帰ってきた事に喜んでいた。
迷子だった猫は飼い主の彼女に首を伸ばし、顔を寄せてこすりつけていた。
「よかった。じゃ、また学校で。兄貴もいつまた跳びかかられるか怖がってるし」
「怖がってないよ」
じろっと背の高い妹を見上げる様に睨む。
「はいはい。て訳だからバイバイ」
猫を胸に抱くクラスメイトに手を振り、朝月の背中を押して帰る。
「にしても、猫の毛だらけだな」
「誰のせいかな!」
続けてみせたい……




