飛び込みの度胸試し
ちょうど見た目ではっきり兄妹の身長差が出た小学生の時。
まだ兄の後ろをついて歩く姿が多く、ガサツとまではいかないが、母親に男の子ぽく育ててしまったかもと不安を零す前の頃。
休日、親に連れられて夏のレジャーに山奥の川へ遊びに来ていた。
「ほら、兄ちゃん飛び込みなよ」
「やだよ。高いじゃん」
岩場の上から水面を覗いて躊躇する朝月がいて、そんな兄の後ろに先に飛び込んで戻ってきた妹の涼火が立つ。
緑の気配に野鳥の囀り、まさに自然の中でのレジャーという雰囲気に包まれ、一旦水面から顔を上げる。
川に飛び込む岩場からは、岸に沿って他の家族連れの姿も散見され、水遊びをする親子の様子がよく見えた。
二人も最初は普通に川で遊んでいたので、水着にティーシャツを重ねている。
天候も良くて濡れているティーシャツも自然に乾くほどで、流れる川が光を反射してキラキラと眩しいくらいだった。
そして家族ぐるみらしき子供たちが川に面した岩から水面に飛び込み遊んでいる様子に触発された朝月。
「自分で飛び込みたいっていったじゃん。それに涼火の方が高く感じるんだからね」
身長差のために水面までの見た目の距離感は朝月の方が近い。
川に飛び込むのは楽しいという事もあるけれど、度胸試しという意味合いもあり、先に妹が飛んでしまったために兄として引くに引けずにいた。
ついてきた涼火が飛んだのに、言いだしっぺの自分が踏み出せず、対抗心と恐怖心がせめぎ合う。
「後ろがつまってるんだから、早くしなって。一度飛んじゃえばどーってことないから」
「でも!」
意見しようとしたところ、前触れもなく妹に突き落とされる。
「えいっ」
「え……っ?!」
目を見開いた状態で叫ぶ猶予も与えず、あっという間に兄が水しぶきを上げて水面に消える。
「どーお! 全然平気でしょー!」
涼火は両手をついて岩の上から覗き込んで呼びかける。
いつもは勝手にどっか行っちゃうくらい行動のある朝月の躊躇している姿は、涼火には面白かった。
けれど水しぶきの上がった付近から朝月が姿を見せない。
「に、兄ちゃん!」
焦りを覚えて声が上擦り、慌てて川を睨みつける様に見回すが、水面に上がってくる様子は見受けられない。
不安に襲われていると、少し離れた下流から水しぶきの水音が聞こえた。
はっきりは見えないけれど、今自分が背中を押した兄に間違いない確信があった。
後に知るけれど、ライフジャケットや脱げにくい履き物、飛び込んだ時に十分な深さがあり、水中の岩などに当たらないか色々と注意しなければいけないことがあるらしい。
皆が飛び込んでいるから大丈夫だろうというのは、当時としてはけっこう安易だったのかもしれない。
「兄ちゃーん!!!」
急いで岩から飛び込み、川の流れに乗って必死に泳いだ。
続けられる……かも?




