益体もないお喋り
「最近目覚めたら魔族になってたり、ドラゴンの角が生えてたり、するマンガやアニメを観てさ。面白かったんだよね」
次の授業の教科書やノートを用意しながら、席にやって来た女子の説明に適当な反応を返す。
「へー」
「でね、一昔前だとパラレルワールドに迷い込んでたりする設定の作品があってさ」
「ふーん」
ペンケースからシャーペンを出し、机に蛍光ペンを取り出す。
「ねえ、反応薄くない?」
「ごめん。どこに私が興味を持つ要素があったのか、分からないんだけど?」
咎められても本当になんで自分にその話題を振るのか見当がつかず、つり目がちの眼を向けて話の続きを待つ。
「いや、だから、面白そうじゃない?」
「勧められたらそうかもしれないけど、別に」
「じゃあじゃあ、もしも目が覚めたら自分の理想の姿になってたら? 普通に眠ってゲーム世界にって作品もあるけど、涼火ちゃんはどうなっていたい?」
「はぁ? 現実にあるはずないじゃん。そんなこと」
引き続き意味のない質問に興味がわかなかずに首を傾げる。
使い易さ重視で教科書とノートに開き癖をつけることも気にしない涼火は、手の付け根に近い部分で開いたページを二度往復させて押さえる。
余りにもおざなりな正論に、女子は口調強めに続けた。
「だーかーらーっ! もしもの話だって。ほら『無人島に一つ持ってくとしたら、何を持ってく?』と一緒の話題だよ。あるでしょ? こうなりたいとか、こうだったらなって希望というか、コンプレックスが」
怒っている訳ではないが、荒っぽい口調の追求に平然と答える。
「ん~、無いな」
「嘘でしょ?」
「例え話で嘘ついてどうすんだよ」
目を眇めて問い返す。
しかし、どんな会話を期待していたのか、とりあえず相手は納得していない様子。
「身長を少しだけ低くしたいとか、胸を小さくしたいとかないの?」
相手の追求に涼火は自分自身の胸に手をあてる。
「胸はこれ以上成長しなければまぁ、いいかな。別に。身長は兄貴に勝ってる部分だから低くしたいとか無いし」
「じゃあ、そのお兄ちゃんが目が覚めると変わってたら?」
どんな答えを望んでいるのかは知らないが、返事が明確な質問には答える。
「今よりも騒動に首を突っ込まずに、周りに迷惑がかからないなら放っておく。魔族やドラゴンになってたら、寝ぼけている間に始末するし、パラレルワールドは別にその世界が兄貴のせいでどうなろうと知ったことじゃない」
「もー、涼火ちゃんは夢がないんだから!」
「えー、答えたじゃないか」
不満をぶつけられても困る。
最後まで期待に添える言葉じゃなかったみたいで、手が伸ばされて本人の望まない成長を続ける胸を女子は鷲づかみにした。
「夢が詰まってるのは、そのおっきなおっぱいだけか!」
涼火はすかさず意味不明の逆ギレをする相手の頭にチョップをくれる。
「お前は男子かっ!?」
「あだっ……! アタシが胸しか見ない男子なはずないでしょ。涼火ちゃんと話したいのに、お喋りする話題が思いつかなかったんだよ」
両手で頭を押さえ、皆と喋り過ぎて話す話題が尽きたのだと口を尖らす。
その理由に彼女ならあり得る話で感心する。
「学校なんだから授業のことや宿題、流行っている物や噂とか、今日の天気の話で良いじゃないか。何なら皆に話したのと同じでもいいんだぞ」
「ホント?」
涼火はアニメやマンガ、ゲームはするけれど面白いと思えた作品のみで、数はもとよりオタクと話し合えるほど詳しくないし、タイトルを知ってもいなかった。
それなら聞こえていた同じ内容でも構わない。
「興味ない話されるよりは。てか、今さら気にする必要ある? いつも勝手に喋って、満足したら勝手に戻っていくクセに」
そう返して涼火は相手にも、席に戻って授業の準備をするよう促す。
「そうだよ。あたしの涼火ちゃんにウザ絡みして。あたしがお喋りする時間がなくなっちゃう」
冗談めかした口調で割って入ってきた親友に、涼火は顔を上げる。
「誰が『あたしの』だよ? 二人とも先生来ちゃうから早く戻りな」
話なら次の休み時間に聞くからと二人を追い返す。
手を振って去る親友に言葉なくペンを振り返して見送った。
続いたらいいかな……?