中から連絡しろ
きこえていたならしかたない。
「 いや。誘われそうだったけど、あのガキがとめにはいったんだ。だれかほかのヤツの別荘だから、確認とらないとだめだとか。 まあ、普通に考えても、おれなんか誘うなっていうだろ」
ながれた話だし、茶飲みばなしくらいしてやってもいいかと思い、つい正直にはなしてしまった。
「サウス卿の別荘か?」
「 え?」
コーヒーカップの横にあったおれの手をつかみ、ダニーが低い声でもう一度、「ウィリアム・デ・サウスの別荘なのか?」ときいてくる。
そういや、『ウィルの別荘』だとか・・・。
思ったが、まだこたえずにいたのに、こちらの目をみたダニーは、にやりとわらい、「いってこい」とつかんでいた手をたたいた。
「サウスの別荘に行って、中にはいったら連絡をしろ」
「ちょっとまてよ。言っただろ?あの髪の短いガキにとめられたから、おれは誘われてねえし、もう連絡なんてこねえよ」
「どうにかしろ。どうせトッドだって『貴族』ともつながりたいと思ってるんだろ?もどったら、おまえが別荘に誘われそうになったはなしを正直にしてやれよ?じゃないと、別の人間からきかされて、トッドはおまえに不信をいだくようになる」ああいうやつがそうなると面倒だぜ、とダニーは声をだしてわらった。
「ちくしょうなんだよ、なんで貴族の別荘に入って、あんたに連絡なんてしなきゃなんねえんだよ?そんな金目のものでもそこにあるっていうのか?」
ダニーは首を振って、しずかな声でおまえは知らなくていい、とカップをゆらした。
「ただ、教えておいてやる。アルゴスはたしかに実業家かもしれないが、物騒な噂もたえない男だ。近づいて消えたやつもおれは何人か知ってる。そんな危険人物よりも、お上品な貴族のほうが、とびまわるハエにも優しいと思うぜ」
おれがききたかったことのこたえははぐらかされたままだったが、どうやらおれとトッドはハエとして、貴族に近づかなきゃならないことは、確定しているのを知った。




