久木陽奈の暗躍 111 裏話再び(その1)
ひな視点です
『菊様婚約者選定騒動』が立ち上がり、その日の夜に守り役様達とああだこうだと話し合った翌日。朝一番に菊様に面会し、『神様方が裏話暴露しに来られている』ことをご報告した。お叱りはなかったけれど、ヒロさんのことをつついたら八つ当たりのように「この環境問題どうにかしろ」と命じられてしまった。
「絶対嫌がらせでしょ」「冷やかされた仕返しに無茶振りしてきただけでしょ」げんなりし文句を口にする私に対し、わんこはただ苦笑していた。が、ふとなにかに気付いた。
「………『災禍』の『記憶』があればどうにかなりそうな気がする………」
「……………それは………」「………確かにそうね………」
しばしふたりで検討したけれど、しがない高校生では知識を披露する場もなければどの知識を使えばいいのかもわからない。「まあそのうちなにかの機会に」とそのときは保留にした。
◇ ◇ ◇
そのままあちこちに顔を出し、その日の午後にヒロさんを恋愛脳にすべく本を読ませることになった。山と積み上げた本を次々と読破していくヒロさんを放置し主座様に報告をあげていたとき、わんこのスマホが鳴った。誰かと思えばトモさんだった。
主座様の許可を得てメッセージを開くと『今どこにいる?』『ちょっと頼みがある』とある。はてなんだろうと言いつつもわんこがメッセージをやりとり。そうしてトモさんが御池に来た。めずらしくひとりで。つまりは竹さんに聞かせられない話かと思いながら「午前中のご対面はどうでした?」と話を振った。
今日の午前中、トモさんと竹さんと黒陽様はトモさんのご両親との初顔合わせへ向かった。その緊張と疲れから竹さんは帰宅するなり発熱して寝込んでいると。黒陽様はそんな竹さんについていると。ありゃあ。トモさんはついていなくていいんですか?
「竹さんがいない間に急ぎで報告したいことと頼みたいことがあって」
「ザッとだけど」差し出された書類を主座様は受け取り目を通していかれる。が、読み進めるにつれ表情が厳しくなっていかれた。
全部読まれた主座様が無言で書類を差し出してこられた。緊張しておられるような、疲れ果てておられるようなお顔に、一体なにが書いてあるのかと戦々恐々としながら受け取り、目を通した。
そこに書いてあったのは、これまでにどこからも入手していない情報だった。
「晃を助ける」と覚悟を決めた私がまず取り組んだのが情報収集だった。
安倍家に集められた多角的な情報を片っ端から読み込み、重箱の隅をほじくるように突き詰め、あらゆる可能性を並べていった。
そのときに霊玉守護者達の家族についても調べた。どこでどんなご縁がころがっているかわからないこの京都で、わずかな糸でもつかみたいと願って。
当然トモさんのご両親についても、祖父母や義理の叔父様ご夫婦、お寺についても調べていた。眉唾物の逸話に事欠かない方々ばかりだったし、ものすごい数の親類縁者と信奉者がいた。
けど、そのどこにもこんな話はなかった!
なにこの『ヒトならざるモノ』に育てられたって。妖怪寺!? 異世界に行って聖女様助けてきたとか、どこのラノベ主人公よ。
おまけに三年前の『禍』のときも今回も助けてくれてたって!?
「トモ、知らなかったの?」
「知らなかった」
わんこの問いに答えるトモさんも心なしかぐったりしている。
「ハルは?」
「初耳だ」
主座様も美しい柳眉を寄せておられる。
「これは菊様にご報告の必要がある」
主座様のお言葉に真顔でうなずく。これは褒賞対象でしょう。私も是非とも御礼をしたいです。
だってトモさんのご両親がいなかったら三年前に晃は死んでた。わかる。欠けていたピースが埋まる感覚がある。
『偶然』『幸運』そう判断していた場所に、今回の情報が埋まっていく。トモさんのご両親が、ご家族が、異世界トリアンムの方々が『祈り』と霊力を捧げてくださっていた。そのおかげで今回の結果につながった。
ああ! 鳥肌が! 全身が総毛立つ!
勝手に震える手をわんこが強く握ってくれた。そのわんこも表情が固い。おそらくは私の思念が伝わってしまった。
「で、晃に頼みがあるんだ」
そんな私達に構わずトモさんが晃に向き直った。
「トリアンムで過ごした頃の記憶を思い出させて欲しい」
「三年前の『禍』のときも今回も、相当に助けてもらってたらしいのに『覚えてない』ってのは無礼が過ぎると思う」
この意見にわんこは納得。
「トリアンムのときだけでいいの? それより前は?」
「………できれば思い出したい」
わんこの質問に少し考え、トモさんは答えた。
「話を聞く限り、俺、産まれる前からこの『伊佐治さん』てひとに随分世話になったらしい」
「可能であれば思い出したい」
「私も一緒に『視』てもいいですか?」
トモさんの了承を得てわんこと手を繋ぐ。そのままわんこが空いた手の人差し指と中指をトモさんの額につけた。
記憶を取り戻したトモさんはがっくりとうなだれた。
「……………なんだそりゃ……………」
「報告」短く命じられた主座様に、私がご報告。
トモさんの『ご家族』について。生後数か月で特殊能力『境界無効』のためにあちこちへ『跳んで』いたこと。異世界トリアンムのこと。そちらの神様のお言葉。新しくお生まれになられた神様と『きょうだい』として育ったこと。たくさんの神様に可愛がっていただき、多くの加護を頂戴したこと。そのおかげで三年前も今回も無事だったことは間違いないだろうこと。
「………なるほど」
主座様は深々とため息を吐き出された。
そうして私には報告書の作成と菊様への報告をお命じになられた。
「竹さんが元気になったら『水』作ってもらう」「あちこち配りまくる」
トモさんがぐったりしながら「いいだろ?」と主座様に許可を求める。主座様は当然許可。「どこにどれだけ渡すか、ひなさんに報告して菊様にお伝えするように」と指示された。
◇ ◇ ◇
その日の夜。ヒロさんに夢を『視せ』『恋の芽』を植え付けた。やれやれうまくいくといいねーと私達もベッドに横になった。
わんこに抱き締められたらドッと睡魔がのしかかってきた。私もかなり疲れていたらしい。そのままスウッと眠りに落ちた。
はずだったのに。
夢の中、呆然と立ちすくむ私とわんこ。
たっっくさんのエラい方々に取り囲まれていた。
どうもトモさんの報告書の内容を知ったことが、あれやこれやの情報開示の条件をクリアしたらしい。
「やっと言える!」「聞いて!」「むしろ言わせろ!」エラい方々が嬉々としてお話くださる。トモさんの報告書にあったことの裏付けが取れた。他にも色々と裏話をお教えいただいた。リカさんに教えたらすごい小説にしてくれそうですね。今度教えてもいいですか?
お越しになったエラい方々の中に、そのトリアンムの神様もおられた。「ウチ自慢の『愛し児』の話!?」「読みたい!」「書いて書いて!」ノリノリでご承認くださった。
夢の中では私達の精神レベルに合わせてくださるとかで、皆様えらくフレンドリーな態度。言語で伝えるのではなく感情や思考を流し、それを私達が受信して現代日本語に変換している。そうでなければ皆様の『圧』で脳味噌も精神も焼き切れちゃうと。怖っ。
で、トリアンムの神様含め皆々様から色々とお話を伺った。色々と。ええ。そりゃあもう色々と。一気に情報開示しないでください。小出しにできないんですか!? できないんですね。「ずっと誰かに言いたかったんだよ!」わかりましたからおひとりずつでお願いします。聖徳太子の耳は持ってません。
ヒロさんに『芽』を植え付けるのでヘトヘトになったのに、全然休めない。起きたら回復かけてもらおう。
◇ ◇ ◇
あれやこれやとお話を伺った。夢の中では何日も何十日も経った感覚だけど、目が覚めれば数時間しか経っていない。
とにかく報告書に落とし込もう。書き出すことで頭と情報を整理しよう。
朝食時に主座様の許可を得て、コウが展開した時間停止の結界の中で書類作成。エラい方々から伺った話。『災禍』の記憶にあった話。ほかにも色々なことをふたりで話をしながらどうにか報告書を作り上げた。
◇ ◇ ◇
約四百年前。『醍醐の花見』で竹さんが『災禍』を封じた。霊玉状態になったところをつかまえる直前で、展開していた転移陣で逃げられた。
封じられても『災禍』の機能は完全停止に至らなかった。けれど能力も行動も大幅に制限され、京都から出られなくなった。
徳川が政権を握り政治経済の中心が江戸に移ったこと、平和な時代になり大きな『願い』が感知されなかったこともあり、『災禍』は『願いを叶える水晶玉』として触れたひとの細々とした『願い』を叶えてきた。
約二百年前。京都の王族の姫が江戸の徳川家に嫁ぐことになった。政治色の強い婚姻で、本人の意思は無視。まあよくある話。姫本人も『王族の覚悟』のある方だったから受け入れ江戸に下った。好意を抱いていた相手と別れて。
受け入れられなかったのはその相手。姫が嫁がなくてもいいように足掻いて足掻いて駆けずり回った。けれど叶わず、花嫁行列を見送ることとなった。
ふたりは『半身』だった。
『半身』を奪われた男が『願いを叶える水晶玉』を握りしめ強く強く『願った』のが「徳川の滅亡」。
結果、幕末の動乱が起こった。
なんだそりゃ。
『半身持ち』のヤバさはこれまでも聞いていたけれど、まさかこれもだったか。『ヒノ』と『イヨ』が『半身持ち』の『願い』で滅びたことを考えたら、国が存続しているだけまだマシなのかも。いや『半身持ち』がヤバいんじゃない。『半身持ち』の『願い』を叶える『災禍』がヤバいんだ。
で、今から約百年前。前世の私達が死んでしばらく後。大きな戦争が起きた。
これには『災禍』の関与はなかった。欲に溺れた人間が始めた『やらかし』。先を読める人間が上層部にいれば結果は変わったかもしれないけれど、まあ『時代の渦』は動き出したら止められないもんだから。
敗戦色濃厚になった当時の政府と軍は、民間人を徴兵し戦地へ送った。
それはこの京都でも例外なく、多くの男性がその生命を散らした。
当時の京都にはまだ能力者も高霊力保持者も多くいたけれど、そんなわけで片っ端から戦争に取られ、その数を減らした。一応跡取りや一子相伝の技術保持者なんかはお目こぼしがあったと聞くけれど、そんなのは全体から見たらわずかなもの。
おまけに戦争という空気が、それも敗戦寸前の気配が、『悪しきモノ』のエネルギーとなった。
常ならば低級や『ナリソコナイ』の段階で討伐なり浄化なりされる。けれど退魔師も術者も戦争に取られていない。穢れた空気を祓う者も足りない。だから『悪しきモノ』が生き残り増えていく。
ヒトが神様仏様を祀り、場を清め、祈りを霊力を捧げることで神仏はチカラを得る。けれど戦争で自分達を祀り清めてくれる人間が減った。そうして神仏のチカラが弱くなった。
逆に『悪しきモノ』のチカラは増した。不穏な空気が。澱んだ感情が。不平不満やかなしみが『悪しきモノ』のチカラとなる。
結果、どうなるか。
京都は、この国は、『悪しきモノ』が蔓延る都市に、国になった。
戦争は終わったけれど『悪しきモノ』は減らない。そりゃそうだ。祓い清めることのできる者も討ち滅ぼすことのできる者もいないんだから。
そのことに危機感を抱いたのは残された人間達。
幼い子供に無茶ともいえる教育を施し現場に送り込むも、当然生還率は低い。そうしてまた貴重な人材が減る。
そこでやり方を変えるなり対策を取るなりすればよかったものを、当時の有力者の取った方法は『使える人間を増やす』つまり『霊力の多い子供をたくさん産ませる』というものだった。
まあ時代というか倫理観の違いというか。男女問わず悲惨な目に遭わされた。合意のもとならまだマシ。クズでゲスで非道なことが正当化され横行した。
そんな時代の教育を受けていたからナツさんの製造元が当たり前のようにあんなことをしていたわけなんだけど、それは置いといて。
とにかく、京都では――他の地域のことは知らないから京都に断定するけれど――少しでも『霊力が多い』『特別な能力者』だと思われる者をみつけたら「早いもの勝ち」で攫われ、子供を作る道具にされた。
人間だけでなく『ヒトならざるモノ』すべてからもターゲットにされた。
そうやって吐き気を催す行為の果てに次々と子供は産まれた。けれどその産まれた子供を守る体制ができていなかった。
そうなるとどうなるか。
『悪しきモノ』から守りきれず、喰われる。
そしてまた『悪しきモノ』のチカラが増す。
もうホントね。当時の有力者達、馬鹿だと思うわ。
努力の方向性間違えてるって気付かないのかしら。気付かないのよね。馬鹿だから。
トモさんのお父さんや私達の祖父母世代が幼い頃は、少しでも霊力が多い子供は低級や低低級や『ナリソコナイ』に常に狙われていた。
当時は『悪しきモノ』が住みやすい世の中で、街中でも関係なく出現できていた。
現在の京都は転生された主座様が体制を整え対策を施されたことで『悪しきモノ』が出現できる場所は限られている。暗闇とか山奥とか澱んだ『場』とか。
本来はそういうもの。だからいかに当時の京都がヤバかったかってこと。それこそ後に『災禍』が「一度滅ぼしたほうがいい」と判断するレベルだった。
対策が取れる家の子や近くに守ってくれる大人がいる子はいいけれど、そんな子ばっかりじゃない。
産まれたばかりの赤ん坊から中学生に至るまで、あちらこちらで子供が喰われている。
前世のマコトさんもそんな喰われた子供のひとり。
秀智さんの『半身』であるマコトさんは、ちゃんと同年代に産まれ落ちた。
「生まれ変わってもまた結ばれたい」と『願い』をかける『半身』は、まず百パーセント同年代に生まれる。
けれども『悪しきモノ』が蔓延る京都で、マコトさんは生き残ることができなかった。
そうして前世の妹の子供として再びこの世に生まれ落ちた。『半身』と結ばれるために。
けれどやっぱり『悪しきモノ』に狙われた。両親が己を犠牲にしてくれたおかげで生き残れたけれど、その後も狙われ続ける幼少期を送った。
このマコトさん、母方が巫女の家系。
母――前世の妹がそうということはマコトさんの前世も巫女の家系ということ。
つまり、マコトさんの魂は巫女の血に宿りやすい。それはイコール、マコトさん自身に巫女の素質があるということ。同時に『愛し児』になれる素質も『聖女』の素質もある。
そしてこの『母方』。
辿れば伊勢に着く。
ハイ。前前世の私です。
まさかの私とコウの娘の子孫でしたわ。
私達には二男三女の五人の子供がいた。晃の母親の遥さんは私達の長女の子孫。で、マコトさんは私達の三女の子孫。
つまりコウとトモさんは遠縁の親戚。
いやまさかコウとトモさんにこんな繋がりがあるなんて。
「だってヒナがそう『願った』んじゃん」
エライ方々はそうおっしゃった。
約百何十年前。伊勢で『日の巫女』と『火継の子』をしていた私とコウ。
修行を重ねたコウが霊玉を手にしたことでその霊玉の元になった『禍』の――かつての友人の過去を『視て』しまい、嘆き悲しむようになった。色々と検討し、私達は彼を救うことを、そのために『願い』をかけることを決めた。
彼を救うためにかけた『願い』は次の四つ。
一、コウが霊玉を持って転生すること。
二、私達の流れを汲む伊勢の娘を母とすること。
三、私もコウのそばに転生すること。
四、残り四人の霊玉守護者も同年代で存在すること。
この『二』に関して、私は「生まれ変わるコウの母親」だけのつもりだった。ところがエライ方々は「霊玉守護者全員の母親」だと判断された。
「じゃないと生まれる前からの高霊力保持者を産めないじゃないか」指摘されればそのとおり。当時の私が甘かった。
だもんで、霊玉守護者全員が私とコウの子孫を母親として生まれることとなった。
『コウが霊玉を持って転生すること』という『願い』を受け、ほかの霊玉守護者も『霊玉を持って生まれる』こととなった。『願い』一と四が絶妙に関連付けられてしまった。こちらも想定外。けど色々説明されればそのとおり。私が甘かった。
『霊玉を持って生まれる』ために『かつて霊玉守護者だった者』を選び次代の霊玉守護者とした。その母親となる者を選ぶとなると『半身』のいる者でないと妊娠出産に耐えられない。ということでこちらも選定。私達の子孫に転生させた。
めっちゃお手間かけてる! 申し訳ない!
エライ方々が苦心し手間をかけてくださったおかげで、霊玉守護者全員、母親が私とコウの血縁、尚且つ両親は『半身』となった。そのおかげで五人ともが霊玉を持って無事に生まれ出ることができた。
亡くなった佑輝さんの本当のご両親も『半身』。佑輝さんの母親が私達の次男の子孫だった。
ヒロさんの両親は言わずと知れた『半身』。母親の千明様の祖父が私達の長男の長男——私達の孫だった。伊勢ヒムラの跡取り息子だったのに家を捨てて一目惚れした相手の家に婿に入った。『半身』だった。
千明様とアキさんの「尊敬している祖父」がこの子。つまりアキさんも私達の子孫。伴って主座様も。
なんてこった。
そしてナツさんは私達の長女の子孫。長女の長女が晃の曾祖母、長女の次女がナツさんの曾祖母。ええいややこしい。
ナツさんの遺伝子上の父親は母親の『半身』ではない。母親の『半身』はナツさんが「おにいちゃん」と呼んでいる方。母の結婚相手の連れ子。
料理人目指して修行中だった彼と、夢を叶え舞妓として活躍していた彼女。私達の『願い』もあり結ばれる予定だったのに、先述の当時の有力者の唾棄すべき馬鹿な思想が蔓延していたせいでナツさんの母親は奪われた。けれどそのときにはもう『かつて霊玉守護者だった者』を『次代の霊玉守護者』としてナツさんの母親に宿すことは決まっていて、そのままナツさんは生まれ出た。修行で家を出ていた『半身』がなにもかも投げ捨てて戻りそばにいたことで出てこられた。母親はそのまま生命を落とす運命だったけれど、エラい方々が『愛し児』を惜しみ抜け道を使って数年とはいえ生き延びられた。
こんなふうに、エラい方々にも想定外のことがしょっちゅう起こる。今回姫様守り役様達の『呪い』が解けたのだって『災禍』滅亡だってエラい方々からしたら「想定外」だったそうだし。
秀智さんマコトさんも本来ならば適齢期に出逢い結ばれるはずだった。トモさんの母親はおふたりの子供になるはずだった。それが想定外にマコトさんが生まれてすぐに喰われてしまった。秀智さんは無事成長してたからマコトさんを「急いで転生させよう」となったと。それでおふたりがトモさんの両親となった。
もしまたマコトさんが赤ちゃんのときに喰われてたらトモさんは別の候補者のところに生まれ落ちていた。そしたらまたあちこちの運命が変わっていた。エラい方々の仕事も増えていた。あれこれと愚痴――ゲフン、お話を伺った。ホントお手数をおかけいたしました。ありがとうございます。感謝に堪えません。目が覚めたら貢物を献上します。
あとでタカさんに協力してもらってかつての私達の子孫を洗い出した。そしたらまあ『愛し児』の多いこと。精神系能力者も多い。これも遺伝だろうか。
ちなみに前世の私の祖母は前前世の私達の三女。精神系能力者だったから私達が直接指導した。
その教えを前世の私は受け、その記憶を持ったまま今世に転生した。
つまり、記憶を取り戻す前の私が『柱』としていた教えは、前前世の私が『柱』としていたもの。かつての私が子供達に授けた教え。そりゃ昔の私と同じような人間になるわ。「そこまで考えて転生させてくださってたんですか」問えば「当然じゃん」と返ってきた。ホントありがたい。お手数おかけして申し訳ないです。これは御礼をたんまりせねばならぬ。
尚、今生の私は私達の次女の子孫。次女は吉野の久木家に嫁いだ。
吉野の久木家。つまりは、現在の私の家。
なので祖父も父もふたりの兄もかつての私達の子孫。
神様から『火』を授かった『ヒムラ』と『光』を授かった『ヒサキ』は実は日本全国に広がっている。神様のチカラを宿した『ヒムラ』と『ヒサキ』は『場』を鎮め清めるチカラを有しており、日本全国の主要な霊場で守護の任についている。そのためにもふたつの家は密接な関係で結ばれていて、代々友情や婚姻を結んでいる。で、血が濃くなりすぎないように、ときどき違う土地の『ヒムラ』『ヒサキ』から伴侶を迎える。そのへんはエラい方々が「うまいこと縁結びをしている」とのこと。「えっへん」じゃないんですよね。まあいいですけど。
で、当時の私達の伊勢の緋村家から、次女が吉野の久木家に、三女が京都の日崎家に嫁いだ。
当時は『ヒムラとヒサキ』のことなんか知らなかったから「同じ読みになるおうちとご縁があるなんて」「こんなこともあるもんだねえ」としか思わなかった。当時の私の実家が伊勢の桧佐木家だったから余計に。
「次代もよろしくね!」つまりは子供をたくさんもうけろと。わんこが張り切ってイイお返事をしていた。
話が逸れた。
昔の私達の『願い』を受けたエラい方々。検討していたときに「この計画が浮かんだ」。
『次代の霊玉守護者』が『霊玉を持って生まれる』ためにはどうしようかと検討した結果、『かつて霊玉守護者だった者』を選ぶことになった。そこで一番に名が挙がったのがトモさん。
前世のトモさんは霊玉守護者だった。
約四百年前を霊玉守護者として生きていた。けれど『禍』の封印で文字通り死ぬ寸前になり、『半身』を突然喪い、魂はかなり疲弊していて、その回復に時間がかかっていた。
けれど「そろそろ大丈夫そう」となり「どのタイミングで転生させようか」と相談していたところだった。「『黒の姫』と同年代になるように」「ふたりが出逢えるように」そう検討していたところに、私達が『願い』をかけた。
ちなみにトモさんは千二百年前の『智明』さんだったときの次の生が戦国時代の『智也』さんで『青羽』さん。その次が現在の『智』さん。
『青羽』さんのときの事情は先述のとおり。千二百年前の『智明』さんのときは竹さんを三回蘇生させ魂がボロボロになっていたところに『半身』を喪い、最後には京都壊滅レベルの災厄をひとりで防いだために転生の霊力まで使い果たしていた。そのために次の転生までに八百年もかかってしまった。
『青羽』さんのときは余生が長かったおかげで転生のための霊力を貯めることができた分だけ転生までの期間が短くて済んだ。といっても四百年かかってるけど。
ごく普通の一般人として転生するならば早く転生できたけれど「それだと竹さんを守れない」「次こそ竹さんを守りたい」と本人が拒否。エラい方々も「それもそうだ」とご納得。で、高霊力を持って生まれるためにあの世で修行に励み、霊力を貯めていた。
そんなトモさんを『次代の霊玉守護者』とすることは早い段階で決まった。「それなら」と竹さんも同年代で生まれるよう手配。元『黒の王』であるお父様が「何度も生まれ変わる娘の父親として生まれ変わりたい」と『願い』をかけておられるのでそちらも手配。もちろん『半身』である奥様も。
で、ハタと気付かれた。
「この『願い』があれば『かつての黒の一族』を『黒の姫』の周囲に配置できるんじゃね!?」と。
『かつて霊玉守護者だった者』をリストアップしているとき、四百年前の『水』の霊玉守護者が高間原の『黒の一族』だった男だと判明した。それも竹さんの従兄。しかも仲が良かった。「もうこいつしかない!」と『水』の霊玉守護者が決定。で、そのヒロさんの両親に『半身』を…とリストを確認していたら、なんと当時の竹さんの姉同然の側仕えが『半身持ち』だった。で、このふたりについて調べていたら片方が『ヒノ』の王妃だった。
『ヒノ』とは、かつてこの『世界』にあった国。約五千年前、高間原から『落ちて』きた人々が作った。およそ千年続いたその国は、当時の王の『願い』に『災禍』が応えたことにより滅びた。
たくさんのひとを死なせ、結果的に神様方へ献上される霊力を減らした原因となる『願い』をかけた王には罰として『霊力なし』として生まれることと『半身』がわからないようにすることが課された。
この『「霊力なし」として生まれること』という条件が「安倍晴明の父親にいいんじゃないか!?」と気付かれた。
主座様はエラい方々の部下の方にそそのかさ……ゲフン。アドバイスいただいて『転生の秘術』を教わり、記憶を持ったまま何度も転生を重ね姫様達をお助けしておられる。
『転生の秘術』は多くの霊力を必要とする。そのために本人だけでなく父親、場合によっては祖父の霊力も使う。『転生の秘術』に必要な霊力をためなければならないから必然父親は『霊力なし』になる。
それなら『元ヒノの王』が転生する条件に合致する。
王妃のほうは罪はないから、王妃の『願い』が叶ってふたりは毎度廻めぐり合い愛し合う。ただ『半身』と互いにわからないだけ。
『元ヒノの王』を晴明の父親にすれば、その『半身』である王妃――かつての『黒の一族』の娘で、『黒の姫』の姉同然の側仕えが母親になる。
この『黒の一族』の娘で『黒の姫』の姉同然の側仕えの姉妹、『魂の片割れ』。異性が強く結び付く『半身』と同じくらい強く結び付いた同性をそう呼ぶ。
『魂の片割れ』も『半身』と同じく同時期に生まれ変わり出逢う。きょうだいとして、友人として親しく関わる。
ということは、『魂の片割れ』が晴明の母親ならば、もう片方の娘を霊玉守護者の母親にすれば必ず親密になる。
主座様は四百年前の前世のトモさんとヒロさんと親しくしてから後もなんだかんだと代々の霊玉守護者と親しくしておられるけれど、母親同士が『魂の片割れ』だったらより親しく接する。それも生まれた時から親しかったら―――。
姫達はその当時すでに安倍家にドップリ頼っており、転生するたびに安倍家に連絡し拠点を提供させていた。遠慮しいの竹さんはなかなか頼るとか連絡するとかしたがらなかったけれど、他の姫様達に叱られ首根っこつかまれ連れて行かれていた。
ということは、主座様と霊玉守護者が親しくしていれば、自然と姫達とも親しくなる。それはつまり、トモさんと竹さんが自然と出逢えるということ。
「いいじゃんいいじゃん!」「完璧じゃん!」テンションあがったエラい方々。というわけでかつての黒陽様のふたりの娘が主座様の母親と霊玉守護者の母親となることが決定。
この母親の息子の霊玉守護者を誰にするかで議論が交わされた。『黒の姫の半身』にするか、他の男にするか。
「晴明の近くに置くならば陰陽師になるだろう」
「『黒の姫の半身』は退魔師だから、それはマズいのでは」
「いや前世の職業は関係ないだろう」
喧々諤々の議論ののち「『黒の一族』同士のほうがリスクが少ないのでは」の意見が採用され、ヒロさんが配された。
「いいじゃんいいじゃん!」「完璧じゃん!」さらにテンションあがったエラい方々。「ならついでに他の『黒の一族』も『黒の姫』の周囲に配置しよう!」
で、色々と調べたり検討したりとされた結果、黒陽様のふたりの息子が私の兄となった。
黒陽様のふたりの息子には残念ながら霊玉守護者の経歴はなかった。なら霊玉守護者の兄弟にしようとしたけれど「霊玉守護者を産むだけで精一杯」「近い年齢の兄弟を産めるだけの霊力が母胎に残らない」となり断念。で、「一番確実で手っ取り早い」として私の兄に転生させた。
コウが霊玉を持って転生すること。私もコウのそばに転生すること。
その『願い』が叶えば、霊玉守護者のコウは姫様達と親しくなる。同時にその『半身』の私も。ならその私の兄に配置したら自然と『黒の姫』と親しくなる。そういう計画を立てられた。なるほどお見事です。確かにそれが一番確実ですね。
竹さんと一番親しくしていた黒陽様の奥様は「あまり近くにいると逆に『黒の守り役』が逃げる」と敢えて遠ざけた。ただし同じ京都で、竹さんの母親世代になるように転生させた。
なんせ『半身』なので、何百年逢わなくても黒陽様にはわかる。これまでも何度も出逢ってきた。でも「自分は亀だから」「黒枝は記憶がないから」と黒陽様は毎度毎度何も言わず他人として接し、別れている。今回も「絶対そうなる」とエラい方々の間で満場一致。ただ同じ京都で、かつての娘達——アキさんと千明様——の同年代にしたので、うまくいけばそこに交友がうまれて出逢えるかも―――。エラい方々はそう期待された。
こうして私達の『願い』を使い、都合良く『かつての黒の一族』を竹さんの近くに集めることができた。
前回「『黒の一族』集めたんだー」とお伺いしたのは私達が『伊勢の記憶』を取り戻したとき。そのときに竹さんのご両親のこともヒロさんのことも伺った。
あのときは皆様が『異界』から戻って一時休憩を取っていたときで、まだ決戦途中だった。だから「『黒の姫』が喜ぶと思って」という説明だけで納得して詳細の聞き取りもツッコミも入れていなかったんだけど、まさか私達の『願い』があったからこそだったなんて。
そもそも『転生』というものは、そう都合よく配置できるものでも思うようにいくものではない。らしい。たとえエラい方々でも。
例えば映画館で席を予約するように、うまいこと空きがあれば希望が叶うけれど、席が埋まっていれば別の席を考えなくてはならない。そして予約してないひとは空いている席を選ぶ。もしくは前から順にとかランダムにとか無作為に提供される。
転生もそんな感じらしい。
強く『願い』をかけるとか、『願い』を叶えてもらうために対価を捧げているだとか、理由があって条件付けしてるとか、そういうのがあるひとは優先的に転生先が決まる。そうでない普通のひとは血縁とか思い入れのあるところとかにランダムに配されていく。
逆に言えば、そういうものがなければ、たとえエラい方々でも好き勝手に配することはできない。勝手をすることはエラい方々の『制約』に引っ掛かるから。
だから昔の私達が『対価』を捧げて強く強く『願い』をかけたことは、エラい方々が動く正当な理由となった。皆様の愛しい『黒の姫』を喜ばせるために動く理由に。
ちなみに姫様方は『災禍』により『記憶を持ったまま転生する』という条件付けがされている。ついでに『金銭的立場的に豊かな家』『本人の適性に合った家』なども条件付けされていた。気が利くんだかなんなんだか。そんな諸々の条件付けがあるために、ランダム転生の対象外となっている。だからエラい方々が転生に干渉することができる。むしろ干渉しなければ『お金持ちで本人の適性に合った家』なんてところに転生できない。
四人の姫様方が生命を落とすタイミングも違えば転生に必要な霊力残量も違ったから、これまではおひとりおひとりそれぞれその都度手配してこられたエラい方々。けれど私達の『願い』で『黒の姫』の『半身』を転生させることを決めた。伴って『黒の姫』をその同年代に。「ならいっそ」と他の三人の姫様も同年代になるように配された。計算したらたまたま皆様いいタイミングで転生させられそうだったから。「いいじゃんいいじゃん!」とノリノリで。
そうして今生、四人の姫様は同学年として生まれ落ちられた。
逆に言えばそのせいで先の大戦のときに姫様がどなたも現世にいらっしゃらなくて、京都があそこまでの魔都と成ったんだけど。どなたかおひとりでも京都に生まれ落ちておられたら何らかの対応をされただろうから、あそこまでには成らなかった可能性がある。
まあ過ぎたことは仕方ない。きっと私達のせいじゃない。ウン。
ともかく。
かつての私達の『願い』があったからこそ五人の霊玉守護者は同学年として生まれ落ち、四人の姫様はその一学年下の同学年として生まれ落ちた。霊玉守護者は安倍家主座様と密接な関係を構築し、守り役様とも姫様とも親しく関わることとなった。エラい方々の『愛し児』たる『黒の姫』の周囲に『黒の一族』を集めることもできた。
そんな諸々が結果的に『災禍』滅亡と姫様守り役様の『呪い』の破棄につながった。
「よい『願い』であった!」「褒めて遣わす!」
エラい方々から口々にお褒めいただいた。イエ御礼を申し上げるのはこちらです。結果はあくまで結果論です。むしろ大変なお手数をおかけしてしまいました。ありがとうございます。
『伊勢の娘』の条件はコウにだけ適用された。「全員伊勢生まれにするのは無理だった」「ゴメンね」謝罪されたが「とんでもないです」と平伏しかなかった。これだけのことをするのがどれだけ大変か。感謝しかないです。ありがとうございます。定期的に御礼をします。




