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【完結】陰陽師のお仕事 〜医術師〜  作者: カズモリ
赤の文書
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37. 解析

 碧が鴇の家に行ってから、2週間ほど経過した頃、キナリの所在が判明した。

 どうやって見つけたのか、なんてことは碧は聞くつもりはないけれど、ミス桜庭が学校を1週間は休んでいるという噂を耳にしていた。

 国見菖蒲(あやめ)が「なんで」と不思議がっていたけれども、碧は「そうなんだね」と応えるだけでまるで興味がなかった。


(お母さんも、鴇も、あの女がいなかったら……。あの女、私のものを奪っていくのが趣味なのかしら)


 そんなおどろおどろしい感情が湧き出てくるので、あえて口にする気もない。


 正直、AIの画像解析で見つかったのか、他のルートから見つかったのか、どうでも良かったが、青に英の本家に集まるように言われたので、学校帰りにハルを連れて訪れることにした。


 相変わらず、都内の一等地に和風の屋敷に立派な門構えで、圧を感じるが、門を抜け、使用人に案内されるまま別邸の応接間に向かうと、中央に大きなテーブルを配置し、テーブルを囲むようにいくつもの椅子が並べられていた。

 そのうちの一つに座りながら、パソコンを開いて、資料の準備をしているのだろう。

 パチパチとタイピングの音がした。


「喧嘩中なんだって?」

「答えたくない」

 なんでプライベートなことまでみんなで共有しているんだ。

 碧はハルに座るよう促す。


「支障があると困るから、そこだけは頼むよ」

 角がある話をしてくるなあ。


 碧は青の向かいの席で、ハルの隣に腰を下ろすと、椅子の背中にリュックをかける。

「どういう意味?」

「医術師は貴重だから、あまり前衛に出させるなよ」

 

 青の発言を聞いてハルの眉がピクリと動いた。

 ハルは碧の表情を見ると、うつむいているので、はっきりとはわからないが、よくない空気であることは理解した。


 やっぱり、今回のキナリの件は鴇が動いて仕入れてきたのか。

 

 情報の精査のためにAIで再確認したってところだろう。すでにある情報の精査は的が絞れている分楽だ。

 なんの相談もなく、勝手にそんなことをした鴇に、また腹立たしくなる。


 碧は、「わかってます」と言うと、深く息を吐いて、リュックからノートと英語の教科書を取り出し、テーブルに広げる。

「勉強するから、話しかけないでね」


 青はパソコンの画面から顔をあげてパッと確認する。

「わかった」


 どれくらいの時間が経ったかわからないけれど、国見藤と菖蒲兄弟、土御門杏、太陰、太常、騰蛇、大春日若菜、菅原褐、山口桜と鴇兄弟、そして英青と碧、ハルがあつまり、青が、よし、と言った。

 碧は教科書を閉じて青に視線を向けた。


「さて、キナリの所在がわかったところで、今からいくつか共有の元、チームを分けてキナリ討伐作戦に入ろうと思います。決行は、本日とします」

「急すぎない?」

「情報戦ですから、迅速に叩きます。異論がありますか?」


 物理的に怖いわけではない。落ち着いた口調だが、言葉で言えないような圧力を放っている青に誰も何にも言えなかった。


 同調圧。


 青のこういう雰囲気を碧は嫌いじゃない。それに、今はすぐにでもキナリと戦って、さっさと終わりにしたい。


 青が適当にメンバー構成を割り振っていくのを碧は黙って待っている。


グループ1:土御門杏、騰蛇、英碧、山口桜

グループ2:国見藤、菅原褐、英青、大春日若菜

グループ3:国見菖蒲、太陰、太常、山口鴇


「まずはグループ1はグループ2と3の補佐をおこなうこと。グループ2はキナリを抑える。グループ3は周りの敵を抑えること。じゃあ、解散」


 え。待ってよ。なんで? 碧は勢いよく青を見るが、青は視線に気がついてないふりをする。


 諸々の話が終わった後、頃合いを見計らい、碧は青に近づくと、ちょっと、と言って二人で話せる場所に呼び出した。

「私の力じゃキナリと直接戦えない?」

 青は「碧の木々を操る能力はキナリの炎と相性が悪いと思うけど?」腕組みをして、壁にもたれた。

「けど、私、式も多いし」

「それだけじゃあ、勝てない。それなら、サポートが適任だ」

「私が原因なのに? サポートだけ?」


 碧は悔しくて唇を噛んだ。ポニーテールの髪が小刻みに揺れているのがわかる。

「補佐をするんだから、機会があるかもしれないだろ?」


 納得していない碧をなだめながら、青は家の玄関へ碧を誘導する。碧のことは碧だけの話じゃない。母屋には両親も祖父母もいる。

 青の父は陰陽師の仕事を嫌っている。それは無理もない話で、弟も妹も陰陽師の仕事のせいで亡くなった。

 自分の息子である青が当主になり、ひどく落胆していた。

 悲しませたくないから、勉強を頑張って見たが、そんなことではないらしい。

 陰陽師の仕事に深入りするなよ、と兄も父も口を揃えて言うが、これ以上深入りしないためにも、今、この戦いを終わらせなくてはならない。


 けれど、妹そっくりに育った碧を見ると、父は眉を寄せ、祖母は「燈ちゃん」と言うのだ。

 最初はわからなかった。

 なぜ父が顔を背けるのか、祖母がそんなことを言うのか。

 ハクのあの術を見て、ようやく合点がついた。何年もいびつでアンバランスな状態だった。


 祖母が娘と孫の認知が不明瞭になるのは、世間で頻繁に聞く話なのに、父の侮蔑を含む表情が腑に落ちなかったのは、すでに死んでいる妹をずっと、式が演じているからだ。

 ましてや子までもうけているのだから、元々、陰陽道を訝しく思っている父には充分すぎるほどの気味悪い事象だろう。


 本物の燈が病死後に、父の弟の紺が燈の身体に式を入れたことで、燈を亡くして精神的に滅入っていた実母が落ち着いた。

 けれども、そんなまがいものは意味がない、と父はは否定し続けてた。

 死を受け入れさせろ、今は良くても、長いこと続かないから、と。

 

 そんな押し問答が続いていた最中、当の本人の紺は死に、燈に化けていた式も死んで、残ったのは燈とそっくりな碧だ。


 紺のしたことを許せぬまま、いなくなってしまったのだから、姪っ子と見て良いのかわからないんだろうな。

 そもそも、人なのかすら、わからぬ存在なのだ。


 バレないように、そっと、別邸の裏口から碧をそっと敷地の外に出した。

 青はにこやかに、碧の頭をくしゃっとなでる。

 あたたかな体温と柔らかな髪が指の間をするりと抜けていく。


 そうだ。

 燈さんが、この家に寄り付かなかったのは、父さんがきみ悪がっているのをわかっていたし、そう言う経緯があったんだよな。

 子供の頃は不思議だったけど、今ならよくわかる。


「じゃあ、三日後に」

 そう言って、青はハルを横に従えて、歩いて行く碧の背中を見ている。


 父さんの気持ちもわかる。

 けどさ、やっぱり、俺にとっては碧はずっと従姉妹なんだよ。たぶん変わらないんだ。

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